軍隊のことは怖くて目障りで、かつ頼りになる集団だと思っているのだろう。日がな一日立ち尽くしていると商 売相手のことくらいしか考えることが見つからない。 朝から晩まで直立不動、今日は晩から朝まで。ケフル軍の歩哨バックがこの荒野において交流するのは、 道に迷って心淋しく血迷ったモンスター各種。そして不意に現われてはすり寄る原住民の物売りだった。 右手に構える抜き身のショートソードがオークの方をうまく向かず自分たちへ振るわれることを奴らは恐れて いる。だから安っぽい山菜を無料と振りかざして俺たちの口に放り込もうとする。 媚びる一方で、こちらが王城から持ち出しこの聖なる戦いに投じようという丁寧な作りの品々を狙うのだ。 いくさが始まろうという時に、山から拾い集めてきたごろごろとした鉱石や出来損ないの宝石と取り替える気持 ちがどこから発生するのか知りたいものだ。かえって鞘をかぶせたショートソードで打ち据えてやりたくなる。 ――晩から朝まで降り続く雨はバックの兜を叩いて諧謔的な音色をはじけさせている。 時々それが気にかかって、バックは雨雲を仰ぐ。目線を戻せば人影がある。バックは驚いたあと気を取り直 した。 「帰れ。陳情は二度受け付けないぞ」 ケフル軍はオークをクリールで討たなかった。そのことで地元の民の群れが笑顔を捨ててやってきていた。血 相を変えながらも、しかし未だ物見遊山のつもりらしく一人のおさげの女の子の姿まであった。健脚を称えて 誉めそやす大人たちにバックはまた腹を立てたものだった。 (下の者たちに丁寧な説明など要るものか。口を出せぬ領域を見咎めて大陸が終末を迎えるまで隅っこで 文句を言うのは構わんさ) 「おまえ、もう口を利くな」 |
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