乗り降りするがごとき道のない道を進む。 街道をおおっぴらに歩くことはできない。ペガサスは帰ってくるだろうがその安全は気にかかる。 小粒の石が落ちる。ガルーフはその一瞬を目の前にまるまる観察した。サーベルを勢いよく抜き放って小石の落ちてきた方向を見た。崖の上をわずかに崩したのは子馬だった。ガルーフを見つめている。斜めの岩肌に平然と張り付いている。吐息も聞かせず静かに跳ねて消えていった。 あの不可思議な様相はケルピーに違いないとガルーフは思った。(ペガサスも似たようなことができるかもな)生き残る術はよく学んでいるだろう。少なくともオークの足よりは楽に荒れ野を行けるだろう。自分は正直汗をかきすぎている。 (さっき牛よりも早く走ったせいだ)休憩を入れるかとも思ったが、ストーンカの角をペガサスへの鞭とくれてしまったのをガルーフは気にした。一刻も早く合流してやる。 数刻後、蒸れた詰め襟をはずし袖をまくる頃になって雨がやってきた。歓迎はできない。 雨足が強く視界が閉ざされる。行程は遅れて辺りは暮れかけていた。安全な場所の確保がままならない。 ガルーフは背中に手をやって外套の頭巾を被った。洞窟熊のごわごわした毛皮は降り注ぐ水滴をはじく。 それはそれで中が暑くなるので雨水を手に受けて頬に取り込んだ。「ふーっ」これだけでも元気が出る。 この先どうするか悩むが、足元に気をつけガルーフは進んだ。カンテラが用意されているが火を点けることができない。オークの頭巾を隔てて天頂から降り注ぐ激しい雨音。 そして狭く灰色に変じた世界に注意を奪われていたところ、青白い顔が斜めに飛び出してガルーフは仰天した。 一瞬だけ考えたとおり、やはりペガサスであった。長くて間の抜けた顔は今度はガルーフを笑っているように見えた。ガルーフは落ち着きを取り戻してから雨の中慎重に騎乗した。 ペガサスの高い背からは見通しも良くなる。岩崖に浅い窪を見つけた。人馬が入っても雨をしのげるような余裕がある。 馬を停めて野菜をやってからガルーフは自分の食事を始める。 「グロールの奴!」食糧官は約束通り倹約を行っていた。弁当のこれみよがしな空白は雨の中に哀れを誘う。 (酒でもあればなぁ)疲労したガルーフは一人で音を上げることにした。用意されたのは似た革袋ばかりなので中身に期待はしなかった。漁るだけ情けなくなる。 周囲は既にとっぷりと暗かったが、揺らめくものは逆に目立つ。濡れた岩が輝いているのではない。 「黄……、赤……、炎だよおい」隣りのペガサスに告げた。 ヒューマンの陣だった。 |
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