モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

6.きょうだいたち



 歴々の魔術士らを驚かせるほど素早くマープルは教師宿舎に迫った。気もそぞろにほうきを壁に立てかけて
赤子の声のもとへ急ぐ。ヴィシュナスのことを思うと《静寂》の範囲は使えなくて近所の教師にまた頭を下げた
い気持ちだった。この行き来のしやすい住居を快く交換してくれたフィオナ。このバレルの魔術士たちのほとん
どが彼女のような心延えであったからガンダの位を目される予言者はより恐縮した。

 響き渡る泣き声を耳にしていると気持ちがどうしても移ってしまって、マープルの美しい瞳は濡れた。母親は
自分に苦笑しながらモンスターの群がる子供部屋へ入った。

「ええ、お前たちの考える通りよ。でもおしめを早めに換えてくれてありがたいわ」鳥獣小悪魔たちが現れた主
人に喝采した。小さな主人の機嫌に弱り果てて、周りで踊り明かすことでなだめすかそうとしていたようだ。

「さあお疲れさまでした。ゆっくり休んで頂戴」マープルは使い魔たちを次々解き放って、彼ら本来の土地へ
帰していった。


「ヴィシュナス? ……ルフィーア? 大丈夫かい? ……っと!」次いで部屋に訪れた見目のよい青年は
慌てて踵を返した。彼が長身でなければ、ふわりと揺れた後ろ髪が女性に見せかけたかもしれない。

「あら、お見苦しいところを。よければお入りになって。わたくしが魔力の発散を忘れていたのだから」第二子ル
フィーアに乳をやっていたマープルは黒髪の青年へ呼びかけた。

「いえ、ここで構いません。入り口の壁に背を向けています」「ウルフさん、几帳面ね」(魔術士といえど、集中
させなければ魔力を探知できないからといっても)マープルは思う。

「お姉さんはお元気?」「ええ、本日は加減がいいようです」壁の向こうが答える。

 ルフィーアが母乳を口からこぼしたのでマープルは乳房を直し、赤子は再び食事にありついた。「わたくしたち
はもう大丈夫ですよ」

「嫌だな、嘘なんかつきますか。姉が私をここへ遣わしたのです。あの馬鹿の魔力がここにいないようだから、
ルフィーアを助けてあげて、とね。姉の調子は万全なのですよ」と壁の向こう。

「カグヤがそんな風に言うと思えないのだけど」

「これはしたり……私の失言です。マープル師のお子様方を困らせた弟が許せなかったとお思いください。この
兄弟にどうかご容赦を」(ウルフさん、こちらに向き直って礼をしていそう)

「ヴィシュナスはよそへ預けているのですか?」「ええ。ザルサイ師とブライドさんが引き受けてくださいました。お
っつけここへ戻って来るでしょう。ところでモンドールさんになにかございましたか。いつもは不承不承ながら必ず
引き受けてくださいましたのに」

 壁の向こうは吹き出して、「そう正直な評価を下されると兄の心も安らぐというものです。感謝します、マープ
ル師。しかし行方がわかっておれば、先んじてここへ馬鹿の首根っこを《パワー》をもってひきずってきております
から」

「そう……どこへおでかけになったのでしょう。弟君も強大な魔力をお持ちですのに」マープルは衣服を整え
て、「ご面倒をおかけしました。娘のご飯が終わりましたよ」膝元に抱えたルフィーアの生えかけの紫の産毛を
撫ぜるのは予言者へ幸せな感触を与えた。「はい、失礼いたします」生徒会長ウルフが部屋に入ってくる。

「奴は学院の中でもこそこそ立ち回っていますから……。……まるで私から隠れるように。やあルフィーア。…
…おっと」ウルフは赤子を可愛がろうとした手を引っ込めた。

「もうおねむなのね。素早いこと」マープルは懐中の娘を小さなゆりかごにそっと運んだ。

「モンドールさんが敷地の中におればわたくしたちの頼み事を果たしていたことでしょう。下山されたのでは?」

「争い始めた国々を文字通り見下している厭世的なあいつが?」兄の弟に対する評はマープルの顔を困ら
せた。