「さて、冗談を欲するブライド君は置いといて、わしゃ神託を賜りたい。予言者マープル、ガンダ・マープル、い かに答えん」 「いやですわ。そちらの称号はまだいただいておりません」 「ほう」「あら。そんな意味ではございません。自らの身に及ぶ予言は降りてきませんもの」マープルの瞳と眉を 困らせて、ザルサイは楽しんだ。 「お二人そろって掴みどころがないんだから。ええと、エサランバルの他にここから東を見張っておいでだったとい うことは、ベング王国がお気にかかるということでしょうか」ブライドが再びマープルに問うてみせた。「そうじゃよ。 参った参った」横からそれをザルサイが受け止めた。彼は空からの視線に対して三角帽子をかぶる仕草を大 袈裟にやってみせた。 「熟達の士ザルサイ様がお気になさらぬならわたくしの思い過ごしと存じます」「いやいやいや!」予言者の返 答に老魔術士は慌てる。 「わしゃ城塞の中でのうのうとしてるだけなんじゃよ。そうじゃ、ならばご注進をしてみるか」 「えっ……ほんとにいったい地上で何をしてるんですか? 危なっかしいなぁ」 「ブライドやこのバレルに迷惑のかかることをするもんかい。このわしが地上でおとなしくできるかという実験・修 行じゃよ。お前さんの身の振り方の前座を務めてやっとると思わんか? ……疑いのまなこをするんじゃない よ」 「いえ、国や軍をそばだたせるのはやぶ蛇と存じます。ですからわたくしのような女がこうしてこそこそ覗き見して いる次第なのです」 「ふーむ。だからみんなに教えておらんわけか」マープルがザルサイとブライドに頭を下げた。 「知らぬが神か?」「ザルサイ師は口が軽くてなんでもおもちゃみたいに楽しげに扱うからですよ」「自覚はして いても、人から言われると嫌なもんじゃな! 立て続けに!」ザルサイはブライドをねめつけた。 「しかしわしも散歩をしてみたくなったぞ。わしの可愛い子を見張っておれとのお達しじゃったから、城の外で見 守っててあげるとしようか」 「やっぱり危なっかしい真似をしてる! い……いったいどこのどなたなんです」とブライドは頭の肌に汗をかく。 「あの子は止めたら余計に出ていくよ。わしと似たところがある」とザルサイは三角帽子に隠れた自分の額に手 拭きを使った。「お前さんも孫を作りゃあわかるよ」「今からどーやって……」 「ザルサイ師は愛情豊かな方なれど堅苦しい話に向くかといえばそれはその、なのです」「なんじゃあもう!」 ザルサイは微笑むマープルに頭をかいた。 (ごめんなさい、これは本心です)予言者は思う。(コボルトによって窮地に陥っている親子のことを教えればザ ルサイ師やブライドさんを焚きつけるに他なりません。親子は善とも悪ともつかない様子でしたが、これから起 きる良いとも悪いともつかない大いなることによって再び動き出します。これは奇縁なのでしょうか――) マープルは脳裏に降りてきてしかと視たものの解釈を試みて、ザルサイとブライド、目の前の現実こそ虚構、 という錯覚を彼女は超えていった。 (しかし、どれほどの人が無事で)「ああ、母様、母様」自分から飛び出した良心が声をかけてくる。向こうか ら、杖をついて。 |
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