「止まって!」マープルは自らの長衣を両手でつまんでザルサイよりも早く駆けた。 かつん! 石畳に杖の音が鳴り響いて、突如中庭に現れた姿はただちに言うことを聞いた。ブライドは目を 見張る――予言者マープルは自身を幼く変えたかのような顔と衣の娘を抱いて影を一つにした。 「ああ、使い魔たちはどうしたの、ヴィシュナス。危ないでしょう」予言者は、ヴィシュナスの空いているほうの手 を上から握った。 娘ヴィシュナスは丸く幼い頬を母親の手に当てる。「申し訳ございません。使い魔たちの手には負えぬ様子 です。ウルフさんもなかなかいらっしゃらないのでじっとしながらどうしてかと思い巡らせておりましたら、本日はモ ンドールさんの来る日と思い至りました」 吹き出す声ひとつ。 「あら、どなたかおいででしたか。失礼いたしました」ヴィシュナスは声を聞きつけて向き直り一礼する。 「やあヴィシュナス、じじいじゃよ。お母さんの他にここにはじじいが二人おる」老いた声が小さな手に近づいて その桃色の髪に自分の手を優しく置いた。「ザルサイ様、ご健勝でなによりでございます」 「いやいや会話の邪魔をして申し訳ないです。こんなにそっくりな親子様は初めてでして。私はブライドです」 「まあ。ただの小さな子供には過ぎたる礼ですわ」母子が口を揃えて言うので、ブライドは再び失笑させられた のだった。 彼もマープルたち三人に歩み寄った。「よろしいですか?」マープルが微笑みうなずいたのでブライドは手拭 きで汗をぬぐってヴィシュナスの肩に触れた。幼子はその柔らかい手をふわりと置き返す。 「母様はやく行ってあげてください。ルフィーアはお腹を空かせていると思うのです」 「あら、そうだったのね。使い魔たちは氷室を開けられないものね。ザルサイ師、またお願いできましょうか」 「もちろん。後からゆっくりヴィシュナスを連れてゆくよ」 「ご厚意いたみいります」マープルは何か呪文を唱えつつ駆け出す。中庭の茂みからほうきが飛び出し、彼女 へ追いついて乗り物となった。 「さて。わしゃ今日は疲れたから、ブライド君が親睦を深めたらええよ」予言者の後ろ姿を見送ってザルサイは 言う。 「あ、はい。私も走って汗をかいたけどいいかな?」声をかけるとヴィシュナスは微笑みうなずく。「おんぶと抱っ こ、どっちがいい?」 「はい、お世話になります。背負うほうが負担が少ないと存じます」 「はい、はい」ブライドは言うことを聞いてヴィシュナスを背に乗せた。(この子は魔力を感じないんじゃな。また、 魔力を発してもいない。私はともかく、マープル師もザルサイ師も驚いていた) |
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