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2.光の魔術士



「直接訊いてみたらええじゃろが」心を見透かしているはずはなかったが、ザルサイは言う。「推論や実験して
みるまでもない。お美しい貴女様が、そこの老いぼれやら向こうの青二才より、魔力が大きいのはなぜですか
ってな」

「いや、そんな」ブライドは老師のやけくそのような言葉に眉を下げる。

「彼女以外の、学院のあちこちから答えが木霊みたいに返ってくることじゃろう。《始まって以来の天才だか
ら》」

「あ。き、消えました!」

「魔力は消えとらん! しまったんじゃ!」

「舞い上がるみたいにして消えたように感じましたけど!」

 ふたりはいつしか学院の庭園に来ていて、中に入る。美しい魔力を求めて。

「あっあっあ」ブライドは咳払いし、つい声をかけていた。「マープル師。どうしてそんなに強大な魔力をお持ちな
のですか。そして地上のご機嫌はいかがですか」ザルサイは自分の三角帽子を使い、とても見てられない生
徒の姿を遮断した。

「ええブライドさん。ご機嫌うるわしゅう」予言者は振り返って応えた。ゆるく波打つ桃色の長い髪は彼女に連
れて振り向く。ザルサイはそのたおやかさより自分の帽子の裏地しか見ていなかったが、透き通るほど軽やか
な声が耳に入ってくるので、ブライドならずとも気が逸って当然と思った。

「いや、本日もお美しいです、はは」ザルサイが生徒のはずんだ声にむっとして自分の三角帽子をずらしてみ
れば、マープルの綺麗な瞳に魅入られたみたいに声をかけ続ける彼のだらしなさが目に入る。予言を行う者
の瞳は微笑を湛えて、可愛らしく細まる。

 ザルサイはその表情に安堵して、「やあやあ光の魔術士。また《バード》を操っていたのかね。高位魔法のあ
とはよく休まないといかんよ」と言いながらブライドの肩を捕まえるのだった。

「いえいえ、それは母の称号ですわ。しかし、二羽操っていましたから、確かに疲れたかもしれません」

「あれっ。リドリィのほうじゃったか。こりゃ失礼。リドリィさんの金髪も綺麗じゃったなあ。……《バード》を並べて
使っとったのか!?」老魔術士は述懐しつつ驚愕する。

「ザルサイ師はほんとうにいつもご冗談がお好きでいらっしゃいます」マープルは紫の薄衣の袖をたぐって微笑ん
だ。

「なんとな……。じゃあちょっとじっくり休んでいてくれ」ザルサイはブライドの両肩を押していった。

「お前さん、子供のいる婦人に変な声のかけ方をするんじゃないよ。この独身寮住まいが!」

「な……なんですかその言い方。そういうわけではなくて……。先生こそ考えすぎというもんですよ」


「輝くほどの金の髪に鮮やかな青の長衣のよく似合った、ほんとうに頼れるお姉さんじゃったよ」マープルが当
然ついてきたので、ザルサイは見えない魔力に押されたみたいに言葉を口から出した。

「お姉さん」

「同じじじいが笑うな!」ザルサイはブライドの小声を素早く捉えた。「昔はわしより年上だったんじゃ! 当時
のわしの気持ちを正確に伝えてやったまで! 過去の記録をありがたく思え、お主!」

「すいません、すいません、お気持ちはよくわかりますよ」しかしこのもう一人の老人は口中に湧き出た笑いを
こらえられないでいる。

「まあ、まあ。ザルサイ師のご冗談は気をほぐしてくださいます。母のこと、懐かしく思い出されましたわ。ご用
件がございましたら、承ります」マープルは自身の衣の腰をつまんでふたりに一礼する。薄紫の衣擦れが高空
の日光に映える。

「いやあ、今のはちょっと本気じゃ。申し訳ないがちゃんとした用はなくってな、こやつブライドがお前さんの魔力
を嗅いでいつになくやる気を出したので、わしが励まして駆け足して来たというわけ。わしゃもう年だから、もう
一人のじじいに任せたよ」ザルサイは庭園に花壇を探した。植えられた物がやや彩度を欠いて目立たないの
は高山ゆえだったが、老人は茂みの傍らに長椅子を見つけることができた。茶色をした長衣の裾をたぐって彼
は安息の地によじ登り、予言者の顔を微笑ませた。

 魔術の老師は寝そべる前に三角帽子を外して自分の顔に置き、陽射しを遮る。「ほれ、ブライド君は真面
目な質問をせい」

「ええと、全部ザルサイ師の紹介に預かった通りですから、あとなんと言ったらいいか」ブライドはとさかのような
自分の髪を撫ぜた。「マープル師の魔力に触発されて、なんというか、すいません」

 予言者の女性はひと声笑った。それから無言でぷるぷるとかぶりを振る。彼女の前髪も動く。桃色を帯び
て緩やかな頭髪にブライドは見惚れたが、自身の男心に頭の中で首を振った。

「ブライドさん、こちらこそ吹き出して申し訳ありません。魔術士の互いの力を感じるのは基礎でありわたくした
ちの常識ですから、違和感なく自分のものにしていきましょう。人智を超えた力ではありますが使えて当然と
思うのが大切であり変哲のないことなのです」

「まあ基礎のお話じゃな。それより、わしの冗談よりもマープルを笑わせおって」寝そべった三角帽子の隅から
ザルサイの眼が覗く。