モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

3.エルフの俯瞰



 根菜の粉を焼いて香草で味付け。「普段はもったいないもったいないうるさいのにさァ」そのうるさい声にフェリオンにエルフのお菓子を振舞い始めていたナーダがびくっと長い耳を揺らした。

 ロリエーンが相手に選んでいたはずのサーラは動揺も示さずに円卓に敷いた大地図に墨をたっぷり含ませた筆を悠々走らせている。ウルフレンド西部――北にオークの荒野、中部にヒューマンの山地、そして南に彼女たちエルフの緑の森がある。実際に並ぶ数々の奇景を色彩豊かなユリンの様式で表現した大地図である。サーラがそれに挑んで、恥じるところのない筆致をぐぐっと振るえば定規もないのに雄渾な直線の黒色がきっちり後にしたがう。

 サーラは荒野ブルグナから山地クルアフへ何本かの矢印を下し、同時に山地へ昇る矢印も引いた。西ヒューマンの根拠地ケフル。そこから北上する派遣軍の道程である。

「地図をめっちゃめっちゃ汚してるぅ」ロリエーンは素早く囃して知らぬふり。参謀は即座に目付きをきつくしたが、大将エルサイスが駒を地図上に配り始めたのを耳にした。駒を机と打ち合わすと聞きよい音がする。美しい木細工の種類と数で軍勢の規模を表す。

 オーク軍、誤差を計上しても「まあこんなもの」の規模。しかしヒューマン軍は内乱により全隊に被害あり。鎮圧平定に兵を裂けばオークの迎撃隊は更に減じる。

「エルシーの指がサーラの墨に汚されちゃう〜ん」

 エルサイスがロリエーンの言に息を詰まらせばサーラがちゃちゃの主にまなじりを裂く。ロリエーンは慌てて「ああ、いや、汚れ仕事も自分でやる司令殿は偉い!」


「ヒューマン普段より寡兵、そしてオークを迎える絶好の山の《門》の前で足踏みしております」参謀のまっすぐな声が伝える。

「読んだら誰でも分かることなんていーの。それよりフェリオンちゃんの考えを拾ったげなさい」サーラに苛立ったロリエーンが急かす。フェリオンは会議室急造のハンモックにまどろんで身体を休め心を遊ばす。そばに立つナーダは温帯の椰子の葉を振って容姿や態度と同じうする穏やかなる微風を作り出している。エサランバルの温室にてエルフたちに愛され役立てられる上等の品である。

「うん。若いヒューマンは変わった賭けにこだわる。北のオーク、南のぼくらを撥ねのけて大儲けするにいかな知恵を生むかな」エルフの花の大将のエルサイスがサーラの言葉を受けた。

「いやんもうその通り。さっすがエルシーでございます!」ロリエーンがサーラの仕事より先に言葉を受ける。

「うるさいのが一匹混じっているので話を早く進めてよろしいでしょうか大将?」

「よろしいよ! ロリちゃん早く罪をお手柄に変えたいのよ!」待ち切れず地団駄を踏みはじめたロリエーン。

「あんたはね、息を吸って吐く間にも色々な罪が絶賛加算中なのをご存知なのかしらね。エルフの馬と鹿のロリエーンに答えなんて期待しませんけど」地団駄と見せたものは軽妙なステップで、少女めいたこのピンクのエルフはここの巨木のうろの反響が大好きだった。"Yeah!" 甲高い声もとどめに付けた。

「だいたいなんで下っ端の突撃兵が大将と同席しようなんて発想するのかしら」

「下っ端じゃないっつーの。古参の英雄で人気もあるのになんでか長老たちが昇進させてくれないの。あんのチョロジイどもめが」