(追手だね) (やっちまいな) (言われなくたって)ふたりはともに単騎と判断した。メナンドーサは傷ついた姉の背から弓を受け取る。夜の中 に焦げ臭い匂いが立ち昇って、金の髪の美少女は哀しみを覚えた。しかし思い起こされるのは屋敷に討ち入 った時の勇姿で、自分もまた姉とこの武器のようになろうと考えた。黒い肌の指で撫ぜた弓の軸は堅く健在 だ。 紫の瞳を暗闇に凝らせば間違いなく人馬がやって来る。(いいねぇ)馬は三姉妹の左から向かってくるが、こ ちらへ首を向ける様子はない。頭の良い馬でも全力疾走において芝居はできない――と無言のうちにふたり は同じ考えをしている。馬蹄と草ずれの音が迫った。 妹メナンドーサは命中率のためといって馬の正面にわざと立ち上がって射る性格だったが、全身に受けた斬 り傷が叶えさせてくれないので横から狙うことを余儀なくされた。苦痛に悲鳴を上げれば追手を逃すよりも良く ない結果を迎える。 「いたあっ!」まず姉の怒る顔を思い浮かべた。メナンドーサが嫌になるほど心得ていたはずの傷はより深く て、馬の首についていたランタンの灯りがイフィーヌとメナンドーサの幼く困憊した顔ふたつを夜に照らして去って いった。 「人!!」駆けゆく馬上から放たれた男の声は姉妹ふたりの心を草原の風より冷たくした。 村の庄屋の追手はいやに不慣れで馬の首は迷い、下がっている灯りも追随して惑った。 「ドローネを頼んだ……」 「お姉! 動いちゃだめ!!」 「静かにおし。私はまだ起きられる……」イフィーヌは言葉と裏腹に自分の紫の巻き毛を地面より高く上げら れない。 「いやだ、やだよ。あたしたち、こんなところでなんで」(いつもあたしの上にいるから姉さんなのに)さまざまな言 葉が金の髪の少女の口と心に浮かんでくる。 追手が馬の足を止めていることをふたりは視界の片隅に認めていた。理解はできないが認めるほかなかっ た。そして背後には気づかぬほどふたりの戦士は困窮していたのである。 「そういう愁嘆場を見せられて助けない人間なんているの? いないでしょ?」ひとりの女の声が、地面に這 いつくばるふたりの背に手を当てた。その手と自分たちの身体の間になにか薄い感触をふたりの少女は覚え た。 視界さえもはっきり戻ってきた。草原に立ち尽くす人馬と、あろうことか天空に位置する箒と、それに跨る男 の姿まで目に入ってくる。 「なんてことを」馬に跨るのは禿頭をした僧のようだった。 末妹の乳児ドローネは、途端に暖かくなったふたりの姉の身体を感じて喜んで笑った。 |
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