モンスターメーカー二次創作小説サイト:Magical Card

1.山の子アイラ



「やだ、気付かれたのかしら」不意に言葉が出たこと自体に驚いたのだが、周りの友だちまで怯えさせてしまった。きゃあきゃあとヒューマンの子供たち。

「静まれ、モンスターがなんだ。ヒューマンの勇者の意地見せてやろうぜ」と弓を引いた幼い男の子。矢をつがえる構造になっていない。自分で削り出したおもちゃ。

「ヤルム! あんたが一番うるさい」アイラはすぐ叱った。下を覗く姿勢で寝そべったまま。山頂の草さえ騒がしたくなかった。

「アイラが真っ先に騒がせたのに笑わすね。臆病」同い年のヤルムがアイラの隣りに滑り込み伏せてきた。小さな体にさらっと鳴らされる草むら。

 むっと来たけれど悔しくも言い返せないことだ。アイラが奥歯をかんで沈黙し始めると周りもつられてしんとなっていく。ありがたい。

 山の子の中でも眼の良いアイラを驚かせたものとは何かとヤルムがうるさくなりそうなので、崖の遥か下、オークの隊列のほぼ先頭にいる豪華な鎧の武者を目印とする。そしてそのまた隣りを指差してやる。

「きょろきょろしてるオークか。偵察だろ。あれを射止めてやったらお手柄だぜ」

 ヤルムは鋭い息を口から出している。(矢の音なのかしらね)こういう時の男の子はうっとうしい。

 でもさっきまで旗を持っていたオークだから、とアイラはヤルムの考察を否定してみた。

「じゃあでかい旗は今どこさ」

「あの馬の脇に付いてる」

 ヤルムには畳んだ旗と模様でたいへん飾られた馬の鞍とが混ざって見えて先入観が軽く否定した。我がクリール村パーティを窮地に陥らせた臆病アイラとその反論も癪に障っていたから。


「よく、見なさいよ、馬鹿ねえ」アイラはゆっくり言って顔をぬぐった。崖の上下であることを除けばヒューマンを殺しに来た北のモンスターの群れが幼いアイラのすぐ近くで数えきれないくらい呼吸をしているのである。高くから照り付ける太陽とその熱い光の跳ね返りが草むらの表面から緊張のアイラを照らしている。むうとアイラを包む草いきれもたまらない。そして途端に頭の皮が引っ張られた。

「アイラ、ドラゴンに魅入られてモンスターになってるぞ。変なものが見えてるんだろ?」

「ヤぁルム!」アイラは抗議する。「母さんが結ってくれたのに!」そして声を潜めて、「ほどけたら父さんに叱られる」

 ヤルムも同意していっぺんにアイラのおさげ髪を離した。ヤルムはクリールの村役人オールガの子で、アイラの父ゲオルグその人にも頭を下げてこられる立場であった。しかしヤルムのような子もゲオルグの静かで重たいたたずまいの前には何ができるということもなかった。