(マイラお母さんが色々言って無口なお父さんがそれを聞いて) それは見慣れていたことだったが、アイラは眠れなかった夜の情景を思い出していた。アイラは山のクリール村の下に広がる大地のことは知っていたが、その色々な部分に人の集まり――クリールより大きな――が神様の御代から作られていたなどとは教えられてもなお想像を絶することだった。(考えてみると頭の後ろが熱くなるみたいで) 大地の色々な部分の会ったこともない人たちが様々な武器で斬り合っていると母と父が話をしていた。お金持ちしか住めないと聞いていたケフルのお城。そこの立派な騎士様でもいくさに足りず自分の父親が出ていかなくてはならないなど、耳に入れてしまった色々は山の娘の日常を超越していた。 しかし結局から述べればアイラの大切なゲオルグはどこにも連れて行かれることはなかった。農業と祭りを司りしもべのヒューマンの功徳を心よくお認めになり豊穣地メルキアをこともなげに与えたもうた大神ゾール。事態を受けたアイラの家は毎食事前にかの神への供物と祈りの煩雑な儀式を行うこととして運命に抵抗を試みたのである。(怖くなったり面倒なことやったりして損しちゃったみたい。ああ、いいえ、ゾール様。どうやって父さんを兵隊にしないで良くしてくれたのかわかんないよ。いいことなんだからヤルムと違っていばってくれてもいいのに)ヤルムや友達みんなはモンスターを倒しに行くのは良いことだと顔を真っ赤に大声を出していたけれどわたしには嬉しいくらいの結果だと思った。良くない心かもしれないけど。 さて、母マイラの心を蒼白にさせた原因はクリール村へ不意に訪れ、無駄なく視察し消えていった騎士の姿であった。ほこりっぽい山村を大股でさっさと練り歩いていったのはもちろんケフル様式の絢爛な衣裳である。田舎村の椿事に沸きに沸いた住民が大量の噂の付録をめいめいに著した。 ヤルムの父オールガのような、懐にやや余裕ある村の好事家が調べをつけたところによると、史書のうちにヒューマンとオークのいくさの記録はあまた有り、更に遡るならエサランバル森のエルフとクルアフ山地に地下宮殿を築くとされるドワーフもケフルの味方であったという。 兵員無限にして無類の闘志のオーク。豚のような貪欲さと猪のような歯牙でその軍靴の通る街道の全てを食らい尽くしてまわる。オークの都に近いクリールのような辺境の民には寝付きの悪い夜の夢の友のようなものである。 |
|