村の人々が必死に史書をひっくり返すとオークへの常識も共に連れたように覆った。 ――オーク族全き弱くケフルの沃野は兵法の修練場也 ――戦前の輜重確保が大切にて、砦に迅速に集結させ庫の安全を確保すること。エルフ・ドワーフの友軍を迎えて兵を蓄えたならば迎撃の必要なし。友との宴に籠りながらオーク方の崩壊ただ待つ。豚兵空腹を抱えブルグナに食事に帰ると見るや事を起こすべし。オークの背は狩り放題、屈強な奴隷オーク地を埋める程に入手し三種連合軍は大勝利を為すであろう。大陸の裂ける日まで手を携えて生きようぞ。 「昔から的扱いの馬鹿なモンスターだったんだってさ」 「みやこの騎士様なのに酷い仕打ちをなさるわ。勝って当然みたいに書くのは殺しても」 「又かばうんだな。攻めてくるのはあいつらだ。残酷な奴らざまあ見ろでいいじゃないか。モンスター娘は気持ちわりぃ」最後の言で眉をまた一段としかめたアイラに構わずヤルムは持論を振るい続けた。 「昔は連合があったわけだけど、ブルグナに一番近いのは俺たちヒューマンだったんだ。ドワーフは鈍い。短足が深い地下の村から出てきて山歩きするのは二度手間なのさ。父ちゃんが考えたところによると、ケフルの兵隊さんは楽に経験を積めた。だからこっちから出て行って戦えるようになったんじゃないかって」 「勇気はあるのね。エルフさんとドワーフさんをかばって」 「勝って当然みたいにしてないで進歩するのがヒューマンさ。どうだよ」 「ん……ものの考えようね」頑固なアイラをやっつけたヤルム少年は気分良く一笑した。 「エルフやドワーフは伝統ばかり重んじてこちこちなんだって父ちゃんが言ってた。樹の幹か、山の石か、ゴーレムみたいな奴らだな」 その言葉と生まれてから一度も見ぬ外国人の姿を結びつけてしまってアイラも明るい声を立ててしまった。恐ろしくなって崖下を警戒する。 「騎士様たちは頭もいいよ。さっきから下のやつら全然気付いてないだろ? ……団子みたいに動かないなあ。のろのろのろのろ」 「隠れんぼできる場所もいっぱいあるもんね。いつもこの辺りでやっつけてるから村に騎士さんが寄ってきたのね。いきなり崖を崩されたら気の毒なことになるわね」モンスターへの配慮が気に障るヤルムに構わずアイラは持論を振るったのである。 |
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