ブルグナ軍の食糧官グロールは会議所を飛び出した。怒号と嘲笑の投げつけられた背中は真っ黒に汚れているかもしれない。 耐えかねて建物そのものから飛び出し、どうとでもなれとだけ思った。しかし頬は強烈に痛んで、地面へ身を投げ出すくらいに疲れていたのである。 気弱な吟遊詩人のジングはやはり後を追ってきた。 「こんなところに御身を隠していたら、その間にどんな難癖を思いつかれるか分かったものじゃありませんよ」 「お貴族を讃えてるんです。拳一発でこんなところまで吹っ飛んだんす」グロールは未だにダグデルの土くれへ身を任せている。オークの鼻と腹がつかえて呼吸が苦しかろうがジングに顔を向けようともしない。 「いつものように明るくお元気ですね」素直な詩人は安心を顔に表してグロールに肩を貸す。 「いいえ、重傷!」グロールは癇癪を起こして、「ゲーリングじいさんのところで寝込まないと死にます。貴族たちのところへ帰ってもとどめを受けるだけ。あっしの贅肉でさえ足しにしたいと思ってるでしょ、奴ら!」上半身を起こして一息に叫んだ。 「具合が良くないのなら余計静かにしてください」ジングは小さな声を作って訴えはじめた。 叫びのために大きな口を作ったグロールは、襲いかかった激痛にとにかく呻くだけだった。自分の体勢をくたくたと地面へ再び崩落させてしまった。「もうだめ。どちらにせよもうだめかも」 困り果てたジングは同情というものを考える暇はなかったが、死にゆくオークにこうべを垂れる生き物は他にいた。 グロールは恐怖して飛び上がった。モンスターに顔をついばまれたからである。 「いや、なんだ馬か。ちょっとちょっと、近い! 危ない! 非常識な! ごめんなさい!」軍馬に顔を舐めあげられてから、近づくひづめに縮み上がって謀殺という言葉が脳裏にべっとり貼りついた。 「やっぱりうるさい野郎だ。間合いはもう掴んだ。ペガサスはオークを踏み殺してしまうような間抜けじゃないんだ」 「あ、生きてる」ヒューマンの元へ旅立っていった軍使のガルーフをグロールは指差していた。 「俺は生きてる。お前は死ぬらしい。ジングは元気にしてたか? 砦の兄弟たちの腹の具合はどうだ?」 |
|