「一体誰に殺されたんだよ、ええ?」ガルーフは身軽に下馬してグロールに肩を貸す。 肩に力を入れるけども、「くそ。よく肉をまとっている奴だな。こっちは寝床のことばかり考えて長旅から必死に戻って来たんだ」「砦はいつの間にやら狭くなっているし暑苦しくてかなわないな、ジング」痩せ詩人のジングではグロール隊長への助けのそのまた助けにはならない。「ええ、もう混雑しっぱなしで人はさらに増えていきます」オークの兵は見渡す限りで、ともすれば詩人の語尾もどよめきに溺れる。 「死体は馬に乗せて運ぶのが一番だ。ゲーリングのじいさんに剥製用のポーションを分けてもらいに行こう。せえの」 「普通のポーションをもらいに行きやしょうよ! 死ぬのはやめます」グロールは一人でさっとペガサスに跨がった。 「やっぱりお元気でいらっしゃる。それにお上手だ」グロールは腫れた頬でジングににっこり笑うとペガサスの首筋を優しくなでる。彼女の機嫌を取ってからジングに得意な顔で語り始めた。 「ブルガンディは火山の島っすからね。街が坂道の中にあるようなもんで山の手・下町とごちゃごちゃしてます。街並みを群青色の海ごと見渡す時は幸せを感じますがね」 「坂道のために普通に馬を持てると? さすがはお金持ちの国ですね」 「お客さんが多けりゃどんなもんだって安くなるんです。そうしなきゃなんない。あっこにいると勉強ができますよ」 「山の中に街と海があるのか」北ウルフレンドを覆うようなブルグナの荒地に生まれついたガルーフは、よその国のことは想像もつかない。彼が考え込むとひづめの音が聞こえた。 「てなわけでさっさと入院してきますわ」グロールとペガサスは軽やかに神官のところへ走った。「ひどい人だなあ」ジングが言って、ガルーフも悪態をつこうとするが、そこで短く不吉な唸りが耳に入った。 順調に駆けていったペガサスがけたたましく鳴いて跳ねた。ガルーフは狩人の経験から反射的に身をこごめていた。例えダグデルの喧騒の中であっても、その音ははっきり聞こえるようにガルーフの耳は鍛えられている。 「矢!?」ともかくグロールのそばを目指した。「おい、当てられたか!?」 どう、どうと真剣な声が聞こえた。跳ね回っているけれども人馬に傷は無いと見えた。ガルーフは素早く踵を返して矢の飛んできた方角へ走った。 「次は当てるぞ、逃亡犯め! 至急戻ってガーグレン様を支えろ」多数の弓兵を抱えたオークの騎士の姿を見た。 |
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