ガルーフは音を立ててサーベルの鞘を掴んだ。「この野郎。馬に当てたかったのか」 「大切な軍馬に私が傷をつけさせるものか、愚か者!」オークの騎士は片手をさっとあげた。立派な鎧と外套を身に着け、頭には両角の生えた黄金の兜をかぶっている。いかにもブルグナの貴族だとガルーフにも思われた。 騎士の片手は指令を発しており、取り巻きの兵は一斉に武器を構える。ガルーフの周辺にて個々の仕事を抱え往来していたダグデルの雑兵たちは向けられた鏃の輝きにたまげた。オークたちの悲鳴が上がった。 吟遊詩人のジングは味方の矢を浴びそうな友人をどう扱うべきか命のための選択を迫られることになった。「また!?」無鉄砲な友人よ。 雑兵たちは逃げ惑う。混雑極まるダグデルで押し合いへし合い。 「腕に自信があって素晴らしいな。しかし、もしもグロールがへまな野郎で馬をなだめられなかったら大騒ぎだったぜ」騎士を睨みつけるガルーフの利き腕は今にもサーベルの柄を手に入れそうである。しかし剣に触れば彼の生涯は終わるだろう。 「あっしのことは一つも心配してないのね」グロールは嫌がるペガサスをなんとか引っ張って戻ってきた。 「グロール殿が珍しく調子に乗られたからこんなことに」ジングがそっと近付いた。「すまんす」 「敵前逃亡は死罪、任務怠慢。わざわざ申し開いてやる義理でもあるのか!?」 「馬に怠慢もなにもあるか」ガルーフが剣の柄に触って、グロールが飛び込んだ。オークの騎士は思わずのけぞった。弓兵たちは待った。 「グルルフ様、待ってくんなし! ね、あっしをいま矢ぶすまに仕立てたら将軍も困るでしょう。グロール隊長はガーグレン将軍の元へ帰還します。そこで命をポイしますから」 「わ、分かればよろしいよ。さあ、早く戻って将軍をお助け申そう」 「そういや事情を聞くところだったんだ。俺もガーグレンには話があるんだ。たまには味方についてやっても悪くない」「ちょっと、余計なことを」ガルーフがいつもの調子に戻ってしまって、ジングが思わず顔を手で覆う。 「一体なんなんだお前は! 後続部隊のくせに生意気な! 読めた。分け前が少なくなる一方なので斜めの方向から分配制度に割り込み、将軍に対して恫喝でも行うつもりであろう」オークの騎士グルルフは自身のロングソードの柄に手をかけてみせた。 「なんだ、やっぱり分け前で揉め出したのか……」ガルーフは鼻を一つ鳴らして腕を大きく組んだ。「そうなったら諦めるしかないな。諦めて勇者らしく構えていろよ。俺たちゃどうせヒューマンに働かされるのさ」 「しかしバランの御心が閉ざされるわけではないと思ってるぜ」 |
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