1.騎馬隊 「止まるよ! 止まって! 止まれー!!」騎馬の群れは一頭ずつ制動をかけていった。 大人たちは先頭の少女に続き下馬していった。 「な、なにかいたのかよ、メナンドーサ!!」一人が棍を構えつつ言う。他の者たちも戦いの姿勢を見せたが一様に怯えている。 「逆だよ! なんで見つけらんないんだ!!」少女は懸命に周囲を見渡した。そのこうべの金色の長い髪も必死に動いた。「お前!」 メナンドーサは一人を指さし、「た、確かあんただよね。このへんでモンスターを見たって、報告にきたの!」 「えー、あんたじゃないのか。ごめん、お屋敷の召使いは大勢いすぎてわかんないよ」メナンドーサは気勢をそがれながら一人の前へ歩いていき、大人の顔を見上げた。「あぁ、あんただ。ほんとにこっちの方向に逃げたの? 馬ならもう追いつくはずでしょ」 「で、でもよ、洞窟熊なんて勝てるのか」 「なんだよ、やるしかないからあんたは知らせてきたんでしょ!」休息を始めていた周囲の大人たちが不安げな面持ちになる。 「大丈夫だってば。熊って単体で動くもんだから、こんなに大勢いれば楽勝だよ。あたしなんて空飛ぶでっかい虫をやっつけたばかりなんだから、楽なもんよ。元気出た? さあさあ、村を守るんだから、気合い入れろー。そうだ、家族の顔を思い浮かべなよ」(あたしは恥ずかしいからそんなことしたくないけど)メナンドーサは鐙を踏んで再び小馬に乗り込む。 「す、進むのかい」他の一人が声をかけてきた。「なぁに? 怖気づくのもうやめてよ」「そ、そうじゃねえよ。しかし、バラン様は待ってくれねぇ」 もう一人が空を見上げている。メナンドーサは馬にまたがっていて、大人の目線を上回っている。「いま夕方になったばかりでしょ。モンスターをおどかして、追い詰めてやることが必要なんだ。人間にびくついたモンスターがまたこそこそ荒らしに来るかといったら来ないでしょー?」 風切る中、人の声が混じっている。「止まれよ」「止まってくれ」メナンドーサは後ろの大人たちの申し入れに応じる。各々が馬の首にくくりつけたカンテラの灯りも今や心もとない。 「熊一頭だけがモンスターじゃないだろ」「もう何に襲われるか分かったもんじゃない!」闇の中、気色ばむ男たちは自ら吐き出す荒い息に苛まれている。 「わかってるよ。もういいよ、帰ろう」メナンドーサも汗をかいており、それが夜の闇に触れて寒さを呼び込む。(馬の上にずっと座ってても疲れるもんだなぁ……) 小馬を帰路へ向けようとして、「待って!」 少女は下馬する。「この子、だいぶ疲れてるなぁ……。小馬だからね、休み終わるまで待っててよ」再び地面に降り立つと肩甲も脚絆も重さが足されたように感じる。 「よしよし」馬の首を撫でてやってなだめる。馬のすべすべした毛が彼女にも心地よい。 「? ……!!」メナンドーサは背後に静かな気配を感じ取ったのである。馬を撫でていたのが左手だったのを幸運に思った。右手で素早く抜刀、振り向きざま《キリジ》で一撃を受け止めることに成功した。 刀に触れたものが斬れた。 |
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