「何考えてやがる! ……いや、介抱してやる。お前の宿に連れて行け」ゴランは女を指差しうながした。 「何言ってんの!!」アンジェリカは仰天しながら、「いや、」にわかに酒臭を帯びたであろう口唇を抑える。「そうだね、丁度いいからお昼にしようか。ついてきな」と、乗り合い馬車を見つけに陽光のもとへ出ていく。 「ほら、入って」ゴランは返事のかわりに静かに人差し指を立てる。アンジェリカは肩をすくめ二人は部屋に入った。 「ちぇっ、やすやす男を連れ込むんだな」アンジェリカは吹き出す。「あんた、何がしたいのさ。いっつも機嫌が悪いんだから」ゴランは再び黙って部屋の奥を指差した。 「はいはい」とアンジェリカは示された側を目指し、大袈裟な足取りで歩いた。そして緞帳を閉めて昼の部屋を暗く変えた。ゴランがうなずく。 「あんたの部屋にこんな良い絨毯、ある?」「さあ? 覚えてない」 「頭に入れとかないの?」アンジェリカは来客に歩み寄った。「脱がして」 「編み上げ靴だな。自分で脱げないやつか?」 「あっはっは! はっはっは!! ちゃんと引っかかって頂戴よ! ははは!」 「酔いが回ったか。落ち合う約束を俺が曲げた理由、分かってるだろ」 「ひい、ひい……。知らないよ。いつにもましてあんたがびくびくしてるくらいしか。メアリちゃんも隠しきれてなかった。お参り先でなんかあったんだね」 「まあな」「俺たちの目の前で盗人が捕まったのさ。この街は物騒だ。俺たちの仕事も盗まれないようにしたいね」ゴランはアンジェリカの信仰心を考慮してゾール神官たちの名を出すのは避けた。 「ふうん。でも、なに言ってんの」「誰が聞く耳を立てているかわからんということさ。だからここへ押しかけているわけだ」(神官マンモン。奴らの活動が何かの形で俺たちと交わるかも)ゴランはアンジェリカを見つめ返した。彼女はまだ怪訝な顔をしている。 「まあ……言われなくたって慎重にしてやるよ。夜でも人がいそうだ、あそこ」アンジェリカは脚を楽にして絨毯の上を心地よく歩き、寝台のそばに編み上げ靴を置く。 部屋の備えつけのつっかけを黒い肌に履いて扉に向かう。「さて、ご飯に行こう」 「おい」 「ああ、慎重にしないとね! 下でゆっくり仕事の話をしようと思ってた! 先生にまた怒られた、ははは、あっはっは!」 アンジェリカは寝台に戻って腰を下ろし、据えつけられた卓に手を伸ばす。 「あんた何がいい?」 「なんでもいい。これ以上くだらねえことに時間をかけるな」 「なんでもいいって、これ文章ばっかりで全然わかんないんだよねぇ。まとめ払いで良かったぁ」注文書をなんとか攻略しようとアンジェリカは目を凝らしている。 「よし決めた。静かに慎重に頼んできまぁす」「けっ」ゴランを置いて女は出ていった。 |
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