「黒い長衣に黒い頭巾をかぶった者です。よしなに」「承りました。丁重にお迎えせよ」バクーダの指示を検問 所の隊長は部下へ通す。 ゾールの高僧の従者が伴われてやってくる。帝都の闇が人の形を取って抜け出たようなその姿がしずしずと 歩く。両袖の口を合わせてゆっくり進むさまは葬列を思い起こさせる。 「では従者のお歴々も頭巾をお取りになってご記帳ください」 「このふたりは取るに足らぬ者、責任者はこのバクーダです」 「お身元の確認は何ぶん規則にございまして……」 「このわたくしの顔で足りませぬか」土気色の肌が冷笑の形を取った。 「い、いえ、御一行を案ずるがゆえでございます。お歴々の風貌をしたためた連絡状を発行いたしますから、 ゆく先々の安全が保たれます」 「非礼という言葉を使わなくてはいけないようですな。それは回状ではないか!!」裂帛の罵声を浴びせかけ られた隊長は身をこごめた。 と、従者の一人が頭巾を下ろした。もう片方の者は戸惑うような沈黙を見せたが、黒衣の同輩に従うよう に薄青の頭巾を取る。 「お……」隊長とバクーダが目を見張る。髪も眉もない無毛の者が二人。しかし黒衣の者の装いと対照的な 美しい目鼻立ちがかえって女を感じさせた。 「こ……これはたいへんな失礼をいたしました」「お気づかいなく……。私はもう何も感じませぬからこのような 姿でいるのです」禿頭の女はまなざしを伏せて部屋のどの男とも視線を合わさぬようでいる。 隊長はまた部下を呼び従者ふたりの顔を描き取らせてなお急がせた。ふたりも記帳をした。バクーダにはこ の部屋でいま書かれている全てに意味がないことだけわかった。 女が隣の男と目配せをした。ふたりは同時に頭巾をかぶった。通行証を受け取る主人を尻目に従者たちは 城の外を目指し出ていった。 「幻の術でしたか! 魔法で毛を全て消し飛ばしてしまったのかと思いました」足早に追ってきたバクーダがふ たりの前へ回り込んできた。 「はははは! 冗談!」「まだ頭巾を取るなよ」赤髪の女は笑い、灰色髪の青年は言う。 「あの餓鬼の驚きようと兵隊たちのすまなそうな顔を見比べるのは楽しかったわよ。牢につながれりゃいいの に、あの餓鬼」「誰だ。ま、君が手を下してなければいい」 「これからどうなさいます?」後にした都の城門に目を配ってからバクーダが言う。 「あの森がいいな。立ち寄ろう」「森……何があるのです」「いいからあんたは行く先を決めといて」三人の隠 者は兵士たちの武装が夜に起こす煌めきと金属の音から逃れていった。 「怖い? 噛みつきゃしないわ」ディオシェリルは燃えるような顔色で言う。 「メルド河を避けるというのはいくさの只中のエサランバルに近寄ることです。ですがわたくしはそうしたいと思い ます。貴方がたの術の力はたいへんよくわかりましたから」先程からバクーダの視線は中空に浮かぶ炎の塊に 吸い寄せられてならない。 「いいモンスター除けだろう?」モンドールの痩せた顔も赤らんで見える。 「じゃあバクーダは馬を手に入れて。大金をはたいてなんとかしなさい」「それでも夜半に馬を買い揃えるのは 至難の業です」 「一人分でいいんだ。こちらは呼び寄せてある」そこで不死身の僧は竦み上がった。天から剥がれた二つの破 片が降ってくると見えたから。 「馬の首に付けられるカンテラも買ってね。空から《ファイヤーボール》で照らしたら目立ってしょうがない」ふたり の魔術士は空から降りてきた自分たちの箒に跨る。 |
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