「どうする? すぐに進退が窮まるぞ。ここを去ろうとしても気取られるな、赤い髪の魔女」 「ふん……検問所だけでなくちゃんと仕事をしてんのね」ディオシェリルは頭巾を押さえつつ見渡す。行列の前 でも後ろでも夜中に罵声が飛ぶ。兵士の連ねた槍の影が屋台の灯りのもとでときおり鈍い光を放つ。 「わたくしも仕事をしますよ。さっき言ったようにね。ついてきてください。平静であられますよう」バクーダは述べ た言葉の通りしずしずと列の先頭を目指し歩き始めた。 「……。君はそこらの出店に引っ込んでいたほうがいい」モンドールは指図する。「いいでしょう。お若い方も頭 巾をかぶって」青年魔術士は僧に従う。 黒衣の女隠者は気にいった店に入っていった。それを歩きながら見届けるモンドール。(手間賃が高くつきそ う店だな)と頭巾の下で思った。 「教団は昨晩から捜査に協力申し上げておりますよ。わたくしはゾール神官のバクーダ。事情はすでに心得て おりますから、取りまとめている方とお話がしたい」従者ひとりを連れて詰所にやってきた僧がダイヤモンドを取り 出す。七つの秘宝の一をかたどったものである。非常な値打ちの身分の証を見せられた兵たちが急いで責 任のある者を呼びに行った。 「神官様におかれましては何用でございましょう」年かさの風貌と豪壮な鎧を身に着けた兵が言う。相対した 人間は死臭を嗅ぎ取るのではないかとモンドールは心を冷やしている。神の加護を受けたと称する不死身の 奇怪な連れ。 神殿の香をたゆたわせてバクーダは言う。「関所に用といえば一つです。無辜の行列を長い時間苦しめるこ とになんの益がありますか? 現し世を心ならず離れあそばされた我らの君はこの現況に泉下で御心を痛め ておいでのことと拙僧は申し上げに参った次第です」 責任者は神官へ手のひらを向け、下げてみせた。「声をお低めになって。これはガートルード様のご下命に ござりますれば……」 「態勢に揺るぎは許されぬと申されますか。なればただ一つ。拙僧ひとりの密命の手助けのみしてくだされば 良いのです」 「密命とは……」 「秘密に対して明かせとは笑止ですな。関というのは怪しき者を引っ捕らえるのが役目と見受けますが、わたく しのどこにもとるところがあるとおっしゃるのです。わたくしはゾール神のひそやかな啓示によってのみ動いており、 帝家に福をもたらすとだけこのバクーダが表明しかたく誓いましょう。聖なる流れをいっときでも押し留めればウ ルフレンド大陸にいかな神罰が下るものか、我ら《死すべき者たち》にはわかりかねましょう」(相変わらず無駄 な弁が立つ)と傍らの従者は思った。 「……ではお通しいたします。お手続きを願います」暗い部屋のなか責任者は手拭きを取り出し額の汗をぬ ぐった。 「痛み入ります。従者はもう一人おりますから呼びにやらせましょう」バクーダは闇に沈む土気色の顔の皮に笑 顔を作った。 (早く戻ってきなさいよ、モンドール)客に長居をさせない作りの椅子の感触はもう十分味わった。暖を取るた めに安い酒を喉を通して胃に落とし込まければいけなない。 自分を目指してやって来る足音に気づいた。しかし一人もしくは二人ではなかった。 「お、おれ、頭巾のなかに見たんだ! メアリとおんなじ赤い髪! こいつ公園の魔女だよ!!」 (さっきの餓鬼)ディオシェリルは少年と兵士たち、それに空を飛んでくるこうもりの羽ばたきを眺めた。 |
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