暗がりに二人のドワーフが座っている。ランタンに油を差す暇も惜しむかのような話しぶりだった。無風の中で飢えた灯りがゆらめいた。 「ノームは親戚で俺たちのためになるんだ。なにも弱い者贔屓をしているわけじゃねえ」若いほうのドワーフが言う。地底の中で力強く、声は小さく。 「俺たちはいろんな国と商売をしてんだ。家族だけ贔屓してどうする?」ゴルボワはニムレムに言葉を返す。 「得じゃないって言うのか? 大陸中に武器を売ってるのもどうなんだ」席を蹴るように腰を浮かせ、ニムレムは座り直した。地底に音が響きやすい。 「俺たちの武器はモンスターへの護身と武芸者のたしなみだ。大戦争なんか見世物にもならん」ゴルボワは懐をひとしきりさぐると不意に止める。(ここで煙管を吸おうとしたのか?)とニムレムは思った。 「でもよゴルボワ、小国は無視されるだけじゃ済まねえかもしれねぇだろ。今が乱世って言うなら、ヒューマンやオーク、エルフだって押し寄せてくるかも」 「喧嘩してる奴らが東部までやってくるってのか?」ゴルボワが再びにたりと両の頬を吊り上げる。「今から戦後のことまで考えてくださって、がきとは思えぬ偉さだが、考えすぎも毒だぜ! 勝つのは癪だがエルフだな。しかし、奴らはそれ以上することはない。もともと最初に争いを収めようとして火傷した形だからさ。また森の暇人に逆戻りしたいだろうぜ。やり込められたオークの軍隊が崩壊して付近を荒らすことくらいは気をつけるべきかもしれんな。ケフルのヒューマン兵は来れない。奴らは他のヒューマン国に遠慮しなきゃならんのよ」 「やっぱり一番強いのはエサランバルかい」 「だが油断はしちゃならねえ」ゴルボワはまた頬を落として白ひげを揺らした。「オークとヒューマンの隊列に動きがあったようだ。エルフを挟み撃ちだな。オークが北、ヒューマンが南を担当ってわけだ。奴らが肩を並べて戦えるはずはないから、作戦というより当然だな」 「エルフども、いいかっこしようとブルガンディの?、ゴブリン?だったか、そいつらを助けてやろうとしたのが、回り回って大陸を荒らす形になるなんてな。森のもぐらが表舞台へわざわざ出てこなきゃよかったんだよ」 ゴルボワは洞穴で哄笑をあげて若き鉱夫見習いの肝を冷やさせた。「もぐらは、エルフの使う俺たちへの悪口じゃねえか! やるな!!」 「お、おれはもぐらじゃねえ。休みが取れたらダンシネインを超えてヒューマンの集落まで旅したいって思ってるくらいだぜ」 「暇な仕事をたくさん与えてすまねえな。でもやめとけよ、あんな迷いの森なんか。修行より労働したほうがたくさん得だと思うがね」ゴルボワの大きな手袋がニムレムのかぶる、なめらかだが堅い作りの兜にぐっぐっと力を込めて降りてくる。撫でられた兜はぐらぐら振れ、ニムレムは恥をかいたと思った。頭の骨はもっともっと大きくなるからと、母が持ってきた不格好な防具。 「今のお前さんでもコボルトとノームの二人くらいやっつけられるだろう。ガルテーの他の奴らもそれくらい強いといいな!」 「な、なんで、ドワーフがハッシュバッシュとやり合わなきゃいけないんだよ」酒も入ってないのにはぐらかしを始めるのか、とドワーフの子は思う。 「さっきの、もぐらな。世間知らずといつ意味で使ったんだろう?」(だめだ、止まらねえ)とドワーフの子は諦念を覚えさせられた。 すかさずゴルボワが攻撃した。「ううぅー!!」ニムレムの悲鳴はくぐもる。口に多大な不快感。厚手の手袋で隙をつかれて口の端を掴まれれば魔獣型のモンスターでもこらえられない。 「まず、未だにひげが一本もないのはいけねぇ。斬りやすそうなほっぺたをしてんじゃねえよ」ニムレムは責任者の笑顔に血の凍る思いをさせられるのだった。 |
|