COLUMN

      作品世界の補完
2    19960200●作品コメンタリー『リバティ・ランドの鐘』解説
リバティ・ランドの鐘
960200
 
 
リバティ・ランド百科 
 
 
 
 
 
『リバティ・ランドの鐘』は、未来の星間社会を舞台にしていますが、話の背景には、古代(現代の地球)の文化が引き継がれ、その余韻が作中のネーミングや歌詞に残っています。また、元原稿を百枚近く縮めたため、説明不足も目立ちます。
 そこで本編では説明していない、用語の出典などの注釈を試みました。
 
  ※なるべく本編の登場順に用語を収録しました。
  ※注意! この『百科』の信憑性については、筆者は責任を持ちません。多少はホラも吹いていると思います。あらかじめご承知おき下さい。
 
                   *
 
●リバティ・ランド  銀河を巡業する巨大遊園地船。その内部施設は古代地球にあった某テーマパークに類似しているが、版権上の制約から、既存プロダクションのオリジナルキャラクターは使用していない。それでもこれだけ似てしまうのは不思議である。
●リバティーランド  某朝日新聞の子供向け広告欄のタイトル名称。本編とは無関係。
●リバティ・ベル  一七五一年、米国ペンシルバニアの州議事堂の発注によって英国で鋳造された鐘。翌年ペンシルバニア州に到着し、一発鳴らしたとたんに割れたという不運な鐘である。その残骸を再び鋳なおして再生されたが、一八三五年にまたもひび割れた。その後この鐘の銘文(宣せよ、自由を。あまねく国に、すべての人々に=jが奴隷解放運動の推進者によって広められ、その運動のシンボルとして、リバティ・ベルと呼ばれるようになった。今はフィラデルフィアのインデペンデンス・ホールに展示されている。歴史的記念物である。
●ミケル(ミカエル)とミニアム  この二人を愛称で呼ぶと、ミッキーとミニー≠ニなるが、深い意味はない。
●ミニアム・オークリー  一九世紀末の米国西部で、射撃の名手として知られるアニー・オークリーという美少女が実在し、後年、『アニーよ銃を取れ』というミュージカルにもなった。ミニアムはその子孫と思われる。
●ジェニー・マクドウェル  米国を代表する大衆作曲家スティーブン・フォスターの名曲『金髪のジェニー(ジェニー・ウィズ・ザ・ライト・ブラウン・ヘア)』のモデルはジェニー(ジェーン?)・マクドウェルという実在人物、のちのフォスター夫人とされている。本編のジェニーも、その子孫かもしれない。
●オスカー・キハナ  米国の有名なミュージカル『ショウボート』(一九二七年)の作詞者はオスカー・ハマースタインという。また『ドン・キホーテ』の主人公の名前はアロンソ・キハーナ。思えば安易な芸名である。
●リーグラント中佐  アメリカ南北戦争で、リーとグラントという二人の将軍が活躍した。後年、戦車の名前にもなった。これも安易なネーミング。
●アニマトロイド  アニメーションとアンドロイドの合成語。ちなみにディズニーランドのロボットキャラクターを動かすシステムはオーディオ・アニマトロニクスと呼ばれている。これはアニメーションとエレクトロニクスの合成語である。
●アラン・ミラー  第二次大戦中に米国陸軍に入隊、楽団を率いて演奏活動を展開し、兵士を勇気づけるため前線を慰問、ヌーアダイン型連絡機でドーバー海峡を飛行中に消息不明となったミュージシャンがいた。グレン・ミラーである。
●ドジソン博士  『不思議の国のアリス』の作者ルイス・キャロルはペンネームで、その正体は英国クライストチャーチで教鞭を取っていたチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン博士。ロボットのドジソンは、シルクハットのかわりにティーポットを被っているが、その他の外観はおおむね似ている。
●アンクル・ロム  『アンクル・トムの小屋』を連想される方も多いと思うが、ロムはロボットであるから、その名前はROMすなわち読出し専用メモリ≠フ意味がある。
●吸血鬼ブラッド伯爵  本家トランシルバニアに実在する吸血鬼の城の城主はヴラド・ツェペシュという名である。
●プリンセス・アーネシルド  『ドン・キホーテ』に登場する夢想の姫君の名はドルシネーアである。安直なネーミングにお許しを。けど一度使ってみたかった! なおアーネシルドの故郷オーランドは、たまたま某ワールドの所在地名と同じである。彼女の番組がヒットしたアナハイム星系も同様に、某ランドの所在地名と同じである。またリバティ・ランドを所有するAPS社の本社があるバーバンク星系も某テーマパーク本社の所在地名であるが、すべて偶然の一致と解釈していただきたい。
●魔女アップルシード  米国の伝説に、西部開拓地に林檎の木を植え、地場産業に育て上げたジョン・アップルシードという人物がいる。こちらは男性である。
●クイーン・オブ・スペード  プーシキンの中編『スペードの女王』というのがある。
 
●シュタルケンファウスト  一八世紀米国の作家トマス・アーヴィングの短編『幽霊花婿』に登場する騎士の名前。アーヴィングは『リップ・ヴァン・ウィンクル』という作品(アメリカ版浦島太郎)で有名。この作品でタイム・スリップの奇蹟が起る場所がカーツキル山脈である。
●ネル・グイン  一七世紀の英国王チャールズU世の実在の愛人。ヌードの肖像画が残っている。二人の愛の巣となったのがロンドン北郊外の館ソールズベリー・ホール。ここは第一次大戦前にチャーチルの母親の住居にもなった。そして一九四○年春、ネル・グインの幽霊が出るとされていたこの館はデハビランド社の秘密工場となり、その広大な台所を使って、大戦中最速の戦闘爆撃機の一号機が完成した。モスキート爆撃機である。
●フック・ファン・ホランド  ドーバー海峡に面した、実在のオランダの港である。フリーゲンデ・ホレンダーは伝説のさまよえるオランダ人≠フこと。ワーグナーのオペラにもなった。
●トマス・フィン  マーク・トウェインの子供向け冒険小説の主人公にトム・ソーヤーとハックルベリー・フィンがあり、これまた安易なネーミング。ちなみにマーク・トウェインは某テーマパークの蒸気船の名前にも使われているが、これはペンネームで、彼の本名はサミュエル・クレメンスである。
●ウィジェット  グレムリンは本来、航空機やスペースシャトルなんかにとりついて悪戯する空の妖精。二十世紀も現役の妖精である。ウィジェットはその腕白な子供。
●ナパージ  JAPANのスペルの逆さ読みである、とウラ読みしないでね!
●反ナパージ条約機構  NATOのスペルのNAをアンチ・ナパージにしただけです。
●パンツァーヘムト  和独辞典で甲冑≠ひくと、こう載っています。
●ウイング、クランプロール::  タップダンスのリズムの名称。ミュージカル『フォーティセカンド・ストリート』に出てくる。なおジェニーの住む町アレンタウンは、このミュージカルのヒロインの故郷である。
●星弓(スターボウ)  虹のことをレインボーというのは、雨と弓(ボウ)の造語。
●ピータートムソン・ドレス  ピーター・トムソンとは、米国海軍のセーラー服を振り出しに、フィラデルフィアでデザイナーを開業した男の名前で、彼の作になるワンピース型セーラー服は米国の私立学校の多くで制服に採用された。
●尼寺へ行け!  シェイクスピアの『ハムレット』で「生きるべきか死すべきか」に並ぶ名セリフ。またアランが愛読している古書は『お気に召すまま(アズ・ユー・ライク・イット)』の脚本であり、その中のセリフを引用している。ちなみに「アズ・ユー・ライク・イット」はサンダーバードの執事パーカーがペネロープお嬢様に対して多用するセリフでもあり、ここに彼の教養がにじみ出ている。
●アーデンの森  これも『お気に召すまま』の舞台となる森の名前。フランス読みしたらアルデンヌで、一九四四年のクリスマス前後にドイツ軍最後の大反撃バルジ大作戦≠フ舞台となった戦場でもある。本編では遊園地のアーデンの森が最後に動き出すが、これはシェイクスピアの『マクベス』でバーナムの森を動かした戦術を実戦に応用したもの。
●惑星チェスナット  栗≠ニいう意味。戦争に巻き込まれたリバティ・ランドの人々にとって、この惑星はまさに火中の栗であった。
●接客マニュアル  某テーマパークのマニュアルでは、従業員が子供のお客さまに話し掛けるときには、身をかがめて視線の高さを合わせるように指導している。リバティ・ランドでも同様であり、ミケルやキハナはそれを実践している。
●家ごと竜巻::月蛾の背中に乗って  前者は『オズの魔法使い』のイントロ。後者は『ドリトル先生月に行く』のワンシーン。
●シャルフィード洋服店  純愛ミュージカル『心をつなぐ六ペンス』(なんとH・G・ウェルズ原作!)に登場する。
●シェーネン・シェファーリン手袋店  大戦前の映画『会議は踊る』に登場する。
●マシューズ・ギャラリー  ロバート・ネイサン作の傑作ファンタジー『ジェニーの肖像』に登場する画廊にちなむ。主人公の少女の名はジェニー・アップルトンである。ケイト・ウィルヘルムという人の短編に『翼のジェニー』というのもあり、ファンタジックなお話の主人公にジェニーという名前はなぜかハマっている。
●イッツ・ア・ロングウェイ・トゥ・ティッペラリ  第一次大戦中の英国で愛唱された歌(軍歌?)。戦争映画『暁の出撃』でジュリー・アンドリュースが熱唱していた。とても気持ちいい歌で、次の大戦ではドイツ軍にも歌われたらしい。映画『U・ボート』でUボートが危機を脱して母港へ帰っていくシーンで、このレコードをガンガンかけていた。敵の歌でも良いものは良いのである。
●なつかしき窓辺よ::  遊園地の閉園の歌。これは『ホーム・オン・ザ・レンジ(峠の我が家)』の英語歌詞の内容が時代とともに大きく変化したものだろう。
●マウント・プラズマ  第二次世界大戦の硫黄島上陸戦で、米国海兵隊が甚大な損害と引き替えに攻略したスリバチ山≠フことを、マウント・プラズマ(血漿の山)≠ニ呼んだ故事にちなむ。このプラズマとは、戦場で負傷した兵士に投与するパック入り血漿製剤のことである。スペースマウンテンとはなんら関係がない、はずである。
●エイジング技術  これは実際に某テーマパークでもちいられている。
●ダンシング・ビーチ  リバティ・ランドでお客さまを送迎するダンスを展開する広場でもあるので、こう呼ばれている。東京近郊の舞浜≠ニは無関係、のはずである。
●ジャックス・バンブー  ジャックの竹≠ナある。巨大宇宙構造物を建造するための素材として、他に豆の木も研究されたが、成長速度・耐久性ともに竹が優っていた。
●死は鴻毛よりも軽し  旧日本軍においてしばしば使われたキャッチフレーズ。まったくとんでもない人命軽視のセリフである。
●マーチヘア  すなわち三月ウサギ≠フこと。
●分散処理型コンピュータ  リバティ・ランドには、よくSFに出てくる巨大マザーコンピュータは存在しない。多数のアニマトロイドが必要に応じて連携し、それぞれの電子脳の特徴を活かしてネットワークし、問題を処理する。この手法はここ十年ばかりのコンピュータのトレンドであり、単体の超巨大コンピュータが人類の敵役として登場するSFはすでに時代遅れとなりつつある。
●ビューティフル・ドリーマー・ハウス  フォスターの名曲『夢見る佳人』にちなむ。この歌は、一八六四年一月十三日、ポケットにわずか38セントを残して貧困の中に亡くなったフォスター最後の遺作であり、最高の名曲とされる。この佳人のイメージも、前述したジェニー(ジェーン?)・マクドウェル嬢の思い出といわれている。
●緑の破風  ビューティフル・ドリーマー・ハウスの屋根には緑の破風、すなわちグリン・ゲイブルスがある。
●コットン・ブロッサム  リバティ・ランドと同様の遊園地船だが、なぜかミュージカル『ショウボート』の船名と同じである。船長も同名のアンディ・ホークスになっているのは、わざとらしい偶然というほかない。
●パンツァーヘムトの標準型VK4503H::  旧ドイツ陸軍のティーゲル重戦車と型式番号や車体重量のスペックが一致しているが、これはナパージのパンツァーヘムト設計担当が極端なナチスドイツ・マニアであったことによる。
●デスミラー・ドア  古来より鏡は魔除けの道具であった。邪眼を持つ魔物が最もきらうのは、自分の邪眼を見ることである。また、多くの人にとって鏡とは、現実の自分が他人にどう見えているのか教えてくれる、ややありがたくない道具である。ただし自己陶酔する人間にとっては自画自賛の快感を誘う、うれしい道具となる。どちらが良いのかわからない。ただペデラムが自己陶酔型の人間であることは間違いない。腐乱屍体の自分ですら、うっとりとながめているのだから。
●彼方へ(オーバー・ゼア)!::  やはり『オーバー・ゼア』という名で、第一次大戦に参戦した米国で流行った歌(一種の軍歌?)があった。その英語歌詞が時代を経て換骨奪胎されたものと思われる。とにかく景気のいいマーチである。
●アイザック・エニアック神  ロボットが信仰する、かれらの始祖。アイザックはアシモフのこと。エニアックは一九四六年に誕生した史上初の本格的コンピュータ。
●ここはわが楽園::  鐘に刻まれているこの歌は、どうやら英国国歌のメロディで歌われる『わが故郷、そは汝のもの』という歌が変化したものらしい。
●バベル以前  旧約聖書にいうバベルの塔が崩壊する前の時代は、世界の言葉がひとつであり、人間と神々とのコミュニケーションも容易だったと伝えられる。現代において、世界の共通言語に近いのは英語だが、すでにコンピュータにおいては全世界共通の機械言語が使用されているといってよく、未来のロボットはもちろん、最初から絶対的な共通言語をもって文化を築く存在になるとも考えられる。つまり、かれらはバベル以前≠フ神の子≠ノ近い立場になるのではないか::と想像される。
●モロトフ・カクテル  一九三九年十二月、強大なソ連軍が突如として北欧の小国フィンランドに侵略を開始。これは同年九月以降、ポーランドやバルト海沿岸の各国を併合していったナチスドイツの侵略行動に便乗した火事場泥棒的な違法行為であったが、ソ連は力ずくでフィンランドのカレリア地方を奪い取った。これがフィンランド冬戦争で、被害者のフィンランドは、戦って勝てるはずのないソ連軍に対して絶望的な防衛戦を展開、それでも味方よりも多くの損害をソ連軍に与えるなど、善戦した。文字どおりかれらは、自分の家と家族を守るために戦ったのである。このときソ連軍戦車を撃退するために使用されたのがこの火炎瓶::モロトフ・カクテルであった。スウォミはフィンランドの自国名称である。
●毒林檎焼酎  成分不明の火炎酒。ただしチケットブースの激戦からもちいられたモロトフ・カクテルは、ナパームに類する高熱発火成分を含んだ特別製である。その製造ノウハウは秘密であり、本編では省略しているが、人間の排泄物を発酵処理して火薬を製造することが可能であり、そういった方法によったものと思われる。
●カレリア条約  物語の時代の、戦時捕虜の待遇と人権保護を定めた条約。銀河第二腕の中立国家カレリア共和国の首都惑星カレリアで各国が調印した。
●セイント  この時代の通貨単位。現代の日本円にして一円から二円。
●〈クリサンチャマム〉  花の名前にすれば菊≠ナあるが、実際にそのような意味であるかどうかは不明。おそらく花ではなく、人物名などにちなんだものだろう。
●パンツァーヘムトの発艦  艦載兵器の発着艦時には無線を封止するのが常識である。交信して敵にキャッチされたら、艦載機収容中などの身動きならないところにミサイルが飛んでくるからである。だから、間違っても「行きまーす!」なんて叫んではならない、とナパージの発艦マニュアルに定めてある。
●ハンドレページ・ヴィクター、アブロ・ヴァルカン、ヴィッカース・ヴァリアント  戦後の英国の核搭載可能な爆撃機にこの名前がある。ヴィクターは三日月型の翼、ヴァルカンはデルタ翼が特徴。なおショート・スペリンはこの三種の爆撃機(3Vボマーともいう)の登場前にごく少数が生産されて消えたカッコ悪い爆撃機。またティエス・アールトゥ(TSR2)は一九六四年に原型機が初飛行した、画期的な超音速戦術攻撃偵察機。開発が中止され、幻と消えたが、その純白の機体は妖艶なまでに美しく、英国機マニアの郷愁をそそってやまない。
●銀ラメ入りブラック・キットンのドレス  あるSF作家が飼育した架空生物キットンは狂暴なミンクの一種である。男をノックアウトするのに、これ以上のドレスはない。
●バターぶっちゃけ旗(バター・スパングルド・バナー)  米国国旗スターズ&ストライプス(星条旗)をスター・スパングルド・バナー(星をちりばめた旗)とも呼ぶ。
●二日酔いで乗ると、また格別という人も::  筆者は二日酔いでスペースマウンテンに乗ったことがある。回転ティーカップにも乗った。その不快感はまことに格別である。気をつけよう。ごく少数だが、スペースマウンテンで心臓マヒなど起こして病院にかつぎこまれ、本当に昇天した人もいるというのである。
●テンマイル・トレイン  米国の貨物列車は、強力な機関車に長大な貨物車を引かせることがあり、あまりの長さゆえにワンマイル・トレインと呼ばれる。
●氷の層  リバティ・ランド防衛の為、その外殻を包んだ氷の層は、ただの氷でなく、特殊樹脂などを混ぜて強化した、パイクリートという氷である。本編の原稿短縮のさいに書き落としてしまったので、補足しておきます。
●信天翁(あほうどり)  おそらく、オービルという名前の信天翁である。この鳥はニューヨークのパンナム・ビル屋上から発着するアルバトロス・エアラインズという航空会社を経営しており、その背中にバーナードとビアンカというネズミを乗せて、冒険に旅立つという話がある。
●宇宙空間における、幽霊海賊船などの推進方法  もとの原稿では、ジャックス・バンブーの筒に、人間の排泄物発酵によって製造した大量の火薬と酸化剤を仕込み、巨大な固体燃料ロケットとして、あらかじめ進路上の空間に投射しておき、固有動力のない幽霊海賊船と蒸気外輪船は進路途上の、軌道変更を必要とする空位で竹筒ロケットとドッキングして加減速する::つまり現代の多段式ロケットと逆のプロセス。進路途中でブースターを拾いながら進む方式::にしていた。しかし枚数短縮のため割愛した。
●砲撃を受ける〈サミュエル・クレメンス〉号に開くリバティ・ランドの旗  この旗が英国海軍の戦闘旗であれば、某海洋戦記小説のクライマックス・シーンを連想することになるが、ここでは関係ない。だが船に心があれば、魂があれば、〈サミュエル・クレメンス〉号はまさにこのような最期を欲したことであろう!
●タリ・ホー!  やっぱ、エロール・フリンがこう叫んで海賊やってくれると、サマになるんですが、ね。ちなみにリバティ・ランドの骸骨海賊のチームはドライボーンズ・パイレーツといいます。クロスボーン・バンガードじゃないよ。
●与圧区画は20%程度  宇宙戦艦が、海上の軍艦と同じように、艦体のすみずみまで空気が通っていると思ったら大間違いでして、人間の居住が必要な最小限の区画しか、呼吸大気を通さないはずです。したがって、艦橋がガラス張りで、巨大スクリーンを前に、雛壇状の操艦席がNASAのコントロール・センターよろしく並んでいるような設計は、空間の無駄が多く、しかも被弾時に危ないってことになります。絵にならないのですが、軍艦の艦橋は狭い! Uボートの艦内に近いと考えた方がリアルです。
●ヨウルプッキ  いわゆるサンタクロースのフィンランド語名。
●魔女飛行隊  彼女たちの黒ずくめのコスチュームは魔女としてノーマルではありますが::某宅配便に従事する魔女と似ているといえば似ている。::ま、いいか。
●ロッサム・インダストリーズ  ロボットメーカーの老舗。最初の社名はロッサム・ユニバーサル・ロボット(R・U・R)であった。
●ネズミのディートリヒ  その昔『ラット・パトロール』という北アフリカの戦場を舞台にしたTVシリーズがありました。ほとんど憶えていませんが、敵役のドイツ士官にディートリヒという人がいて、なんともカッコ良かったように記憶してます。もしビデオとか参考資料を持っておられましたら、ぜひ貸して下さい。
●はじめての聖夜  賛美歌第一○三番『牧人ひつじを(ザ・ファースト・ノエル)』の英語歌詞内容がかなり意訳され変化して伝わっていたものでしょう。人類最初のクリスマスには、もちろんツリーやサンタの贈り物などなかったはずでして、それが本物のクリスマスなわけです。
●ナタリス祭日  NATALIS、これはクリスマスの聖夜(ノエル)のラテン語名。
 
●サニーブルックの星から::  この歌のサリィとウォルトは、O・ヘンリの短編『アラカルトの春』に登場する二人。歌の方は西部開拓時代のパイオニア・ソング『スウィート・ベッツイ・フロム・パイク』が原型をとどめぬほどに変化したものでしょう。
●ヘスラー社のピアノ  連合軍とドイツの戦車隊が激突するスペクタクル戦争映画『バルジ大作戦』でドイツ戦車隊指揮官をつとめたのがヘスラー大佐。その子孫はなぜか楽器メーカーに転業しているようです。ヘスラー大佐は「戦争が永遠に続くことこそ、最も好もしい状況だ」と言い放った職業軍人の鏡。東の神宮寺艦長に並ぶ、西の戦争キ○ガイ::でしょうね。デスラーではない、ヘスラーである。
●ティーゲル中隊::  前述の『バルジ大作戦』で快進撃するヘスラー大佐が戦車の砲塔に立ち、インカムで号令するセリフ「タイガーよりパンサー、タイガーよりパンサー」が、敵ながらカッコいいという声も。ティーゲルは虎。パンテル、ヤグアル、レオパルドはそれぞれ豹の一種。ヴィーゼルはいたちのことです。
●原住民の酋長  ペデラムがもちいた蔑視的表現。これに対してミケルは「先住民の族長」と表現し直している。見識ある人間は、後者をもちいるのが望ましい。
●おばさん  ナパージの辞書にない言葉。ナパージの総裁スカーリア・キルシュバウム女史は大変なご高齢であるが、若返り魔術によって二十代半ばの容貌を保ち続けているというバケモノである。したがって「おばさん」はナパージ組織内では禁句となっている。
●極楽鳥の羽飾りと虎皮  いずれも汎銀河ワシントン条約によって保護されている希少生物であるため、ミケルが身につけているのは偽物である。
●グレート・ウォール  万里の長城のことでもあるが、ここでは山脈の尾根伝いに建設されたマスドライバーのカタパルトを指す。
●トドのぬいぐるみ  作者の趣味である。あれば欲しい。
●停戦の夜  なぜかクリスマス・イブの夜と一致している。できすぎた偶然である。しかし一般に、停戦するならイブの夜、という慣習もある。第一次大戦中、一九一四年のクリスマスに、ドイツ軍が歌う『きよしこの夜』にイギリス軍が和し、即席の休戦協定が結ばれ、それまで両軍がにらみ合っていた緩衝地帯で英独対抗の親善サッカー試合まで行なわれた::という逸話がある。
●きみよ見るや::  この歌は、フランシス・スコット・キイ作の詩を誤訳したパロディのようだ。たまたまアメリカ合衆国国家として歌われているものとなにやら似ている。
●この世で最も真実なことは::  一八九七年、バージニアという少女がニューヨークのザ・サン新聞に手紙を書いた。「サンタクロースは、本当にいるんですか?」。その返事はベテラン記者フランシス・P・チャーチが書き、歴史に残る美しいメッセージとなった。アーネシルドたちが歌うこの詞も、その返事の意図を汲んでいる。ほぼ百年前に書かれた、この返事はまた、ファンタジーの本質を見事に語りきった傑作である。
●サルビアの葉と::  これはクリスマスの食事として、歴史的なメニュー。ディケンズ作の『クリスマス・キャロル』で、貧しいボブ・クラシット一家の食卓に用意されたものです。なお、ポークチョップはやはりクリスマスの話、O・ヘンリの『賢者の贈り物』で用意される貧しいディナー。またグロッグは木の実とシナモンの入った、温かいワインであり、クリスマス時期の飲み物です。映画『シベールの日曜日』で少女シベールがレストランで注文したのがこれではないかと思われる。
●デスペラード  スペイン語で無法者≠フ意味。
●ロシナンテ型  『ドン・キホーテ』の愛馬::じゃなくて愛ロバ。ほとんどバカにしたネーミングであるが、そのコードネームエスタンピーダ≠ヘスペイン語で猛々しく疾走する荒馬の意味。ナパージにとって、決してあなどれない好敵手だったらしい。
●シウダー・レアル  『ドン・キホーテ』の作者セルバンテスが住んだラ・マンチャ地方の県名。
●停戦期間終了の三分前  アニマトロイド集団は武器を使用していないので、厳密には停戦期間を破ったのはペデラムの方になる。
●ダマンケ  ロシナンテの武器である。その起源は子供の古い遊び道具にある。地方により名称は違うだろうが、ケンダマというものに似ているらしい。
●ぴかぴか光るゴールデン・ヘルメット::  アロンゾ騎士団の愛唱歌。徹夜でロボットを整備する、腹部コクピットの下士官たちに好まれた。一種の労働歌であり、歌詞はロシア語で、『インターナショナル』のメロディで歌われたという説もある。
●登龍門の卵  そのまま訳せば「ドラゴンゲート・ボール」となる?
●ロシナンテとミニアムの会話  戦闘しながらこんなに呑気な会話ができるとは思えないが、戦闘できわめてハイになった精神状態において、情報を圧縮した言葉で、かつきわめて早口で喋っていたと解釈したい。苦しい設定である。
●からっぽのロッキングチェア  じつは東京ディズニーランドの、西部の町並みにも、家屋の前にロッキングチェアを置いた場所がある。観光客の写真撮影スポットとなっている。知られざる名所である。
●ウイ・ハブ・ア・ドリーム  「アイ・ハブ・ア・ドリーム」はキング牧師がワシントンで行なった名演説の冒頭のセリフである。たかが夢、とバカにはできない。夢を持つ自分を自覚することは、その人に生きるための存在意義::アイデンティティが生まれることなのだから。
●光あれ  熱心な信者ではないが、ジェニーはプロテスタントの教会に通っている。 
●嚮導駆逐艦  やや大型で高速の駆逐艦であり、複数の駆逐艦が集まって水雷戦隊を形成するとき、その旗艦として先頭に立つ艦種。フロッテラ・リーダーともいう。この時代においては、宇宙艦隊の主力よりも先に空間跳躍して戦場へ突入し、敵状を探り、情報を収集して本隊に伝え、本隊を最も有利な空間位置へと誘導する艦種。何隻かのレーダー・ピケット艦を率いて行動することが多い。真っ先に敵空間へ突入するため、その任務は危険きわまりない。
●〈ソローフル・カウンテナンス〉  ドン・キホーテが宿屋の主人に、無理矢理に騎士の名を授けろと要求したとき、宿屋の主人が彼に与えた名にちなむ。憂い顔の騎士≠フ意味。ミュージカルのサントラ盤では、ウォーフル・カウンテナンスとなっているが、ここでは東宝プロデュースのミュージカル『ラ・マンチャの男』のパンフレットによった。
●〈ガルガンチュワ〉と〈ミュンヒハウゼン〉  前者はフランスの伝説にある巨人。後者はドイツ伝説にあるホラ吹き男爵。強力な宇宙タグボートにふさわしい船名?
●戦艦〈ドリンコート〉::  これはバーネット作『小公子』の舞台となる城であり、アヴォンリーは『赤毛のアン』の舞台。ロック・ウィロウは『あしながおじさん』に出てくる農場。ウェントワースは『はるかなるわがラスカル』の故郷。いずれも地名である。日本戦艦の〈長門〉や〈大和〉同様、この時代の航宙戦艦も地名を艦名に採用する風習があるらしい。
●オールド・ブラック・ジョー  フォスターの名曲。これを切々と歌われると、なかなか感涙ものである。
●両舷全速!  航宙船が二軸のスクリューで推進しているはずがない。これは便宜上、艦体の左右側に別系統になっている機関システムを、両方ともフル稼働するという意味。敵の攻撃で損害を受けたさいの生残性向上のため、軍艦は機関システムを複数備え、そのひとつが機能喪失しても航行を継続できるよう設計されている。
●ゲティスバーグ  アメリカ南北戦争の天王山ともいえる激戦地。リンカーンが有名な演説「人民の、人民による、人民のための政治」を語った地としても知られる。もちろん『リバティ・ランドの鐘』は、「ロボットの、ロボットによる、ロボットのためのファンタジー」なのであります。
●〈エルジイ・リースン〉  O・ヘンリの短編『天窓のある部屋』のヒロインの名前。
 
●今世紀最大のテーマパーク・キャラクター  一九二八年十一月十八日、世界初の音声つきアニメ映画『蒸気船ウィリー』が公開された。その主人公こそウォルト・ディズニーご本人がアテレコしたミッキー・マウスである。なおディズニーがかわいがった実在のネズミはモーティマーという。                     ●●●
 
 
更新日時:
2006/02/15

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