COLUMN

      作品世界の補完
1    19930600●作品コメンタリー『地球防衛艦隊1945』(同人誌)
19930600
●作品コメンタリー
 
 
『地球防衛艦隊
1945』(同人誌)
用語解説
 
 
※1993年に同人誌に書いた作品の解説です。信憑性は責任持てませんのでご了承下さい。
 
 
 
 
 おひさ! マッド博士による用語解説です。前中編で三百枚超の「地球防衛艦隊1945」を戦争フリークでない正常な皆様にお読みいただくにはやはり必要ということで、これまでの原稿で登場した順番に難解な戦争用語を解説。これでアナタもパットン将軍みたいな戦争大好き人間?
              *
 
●メインタンク・ブロー 潜航中の潜水艦の、海水で満タンになったバラストタンク内に圧搾空気を噴射(ブロー)する、という意味の号令。こうやってタンクに浮力をつけて浮上する。もちろん敵性語のため、大戦中にこのまま使われたかどうかは不明。つまり作者の怠慢であります。しかし戦争映画の東宝潜水艦ではそう言っていたし、いずれ本編では怪獣も登場するので、まあよいわ、というアバウト感覚で使っています。日本語にしたらたぶん「主水槽排水!」なんでしょうが::。英語の方がキマりますね。
●東京パラダイス 作者のマチガイ。正しくは「東京ラプソディー」一円銀貨 これもたぶん誤り。すでに紙幣だったでしょうね。
●南青山少女歌劇団 もちろん実在していません。
●アンカレッジ経由 実際の歴史では昭和二十年八月三十日、マ元帥はフィリピン発・沖縄経由で厚木飛行場に降りたっています。この作品世界では、彼はアンドロ星人に対抗する作戦を練るためと女優との逢瀬をかねてハリウッド近郊のマリンビル(EDO秘密基地)におり、そこから日本に飛んだのですが、ハワイが危険なため、アンカレッジとペドロパブロフスクを経由しました。
●VT信管 バリアブル・タイム・クローズの略で、対空射撃の高射砲弾に使用される信管。弾頭に電波感知機を仕込み、目標の航空機に命中しなくても、近くを通過するだけで起爆し、その爆圧と破片で敵機を撃墜する。大戦中はマリアナ沖海戦でアメリカ軍が多用。機動部隊を襲った日本機はこのVT信管つきの弾丸によって面白いほど簡単に撃墜された。アメリカ兵はこの戦いをマリアナの七面鳥射ちと呼んだ。
●ヘッジホッグ 1941年に英国海軍が開発した対潜水艦兵器で、ワンセット二十四発の小型ロケット弾を、駆逐艦などによって前方に発射する。直径約四十メートルの円形に着水し、海中の潜水艦に一本でも命中するとその衝撃で残り全部の弾が誘爆する。駆逐艦から側面や後方に落とす爆雷に比べて、前方向に発射するため、先制攻撃をかけることができる。さきのVT信管とあわせて、当時の日本軍には実用化できていなかった兵器である。
●原爆 史実では広島に落とされたリトルボーイ、長崎のファットマンともに、三月のこの時点では未完成でした。この作品世界では、ドイツが44年秋に和平しており、その際、ドイツの新兵器開発を一手に引き受けていた華僑系アーリア人ホン・ブラウン博士がアメリカへ移籍、たちどころに原爆を完成させたことにしています。
●記念艦・三笠 実在。現在でも横須賀の観光名所になっています。航空巡洋艦・利根 Loddfafnirさんのご指摘通り、別に航空巡洋艦に改装された重巡・最上が実在していましたが、すでにレイテ沖海戦で沈没。利根は後甲板に五機の偵察機を搭載する重巡でしたが、作品世界では空母の攻撃機不足を補うため、水上攻撃機・強風を十機搭載できる格納庫つきの甲板をとりつけ、その重量増加の代償として前甲板の二十センチ主砲を二門廃止したものです。ヒューズ社の三次元対空レーダー ヒューズ社はもちろんハワード・ヒューズの創設になる米国一流の兵器メーカー。でも三次元レーダーは、この時点ではまだ空想の産物ですね。
●ボフォース スウェーデンの火砲メーカー。
●ポムポム砲 2ポンド(九百グラム)の砲弾をベルト給弾式で高速発射する口径四十ミリの砲身を八本まとめた対空速射砲。英国が開発。あまり精確ではないが、すさまじい弾幕を張れると評価されている。
●スプルース・グース号 実在。この巨大飛行艇は1988年以来、米国ロングビーチで展示公開されてきたが、92年以降にオレゴン州近郊のマクミンビル市の博物館に移籍されることになっている。現在でも世界最大の木製飛行機である。
●フェリックス・フォン・ルックナー 伯爵。旧ドイツ海軍の実在人物。第一次大戦中は旧式帆船で海賊まがいの戦法によって、敵の商船をつぎつぎと撃破し、しかも一人も殺すことがなかったという騎士道精神あふれる指揮官であった。後日その人道的な行為に対してローマ法王から表彰された。詳しくはフジ出版社の「海の鷲」ローウェル・トーマス著・69年刊を参考に。なお田中芳樹氏が「アップフェルラント物語」264ページで触れたルックナー伯爵の描写はこの本をネタにしたのかも。
●フランス艦隊の旗艦〈ジャン・バール〉 これも作者のポカミスでして、同艦は物語の時点ではまだ船体の上部構造が未完成でした。すでに完成していた同型艦〈リシュリュー〉に訂正します。
●EDO アース・ディフェンス・オーガニゼーション(地球防衛機構)の略。地球防衛艦隊EDFの上部組織。対アンドロ戦終結後は秘密組織SHADO(シュープリーム・ヘッドクウォーターズ、エイリアン・ディフェンス・オーガニゼーション)となって現在に至っているのは皆様ご存じのはずがない。
●後半がタイクツ ご指摘の通りでして、反省。話に展開がなく、艦名表が続くだけで、自分でも読むに耐えません。話を全部書き上げていたら真っ先に削る箇所でしょう。が、困ったことに、話のなりゆきによって、他国の艦隊に今後活躍してもらおうとしたら、必要な部分もあるような気がして……という優柔不断のページでした。〈中編〉
●プリフライト・チェック 飛行前の各種の機体点検のこと。これを省略するのは自殺行為であり、そんなバカはこの物語の中にしかいません。
●トーイング・カー 陸上で機体を移動するときに使う牽引車。押すこともできます。飛行機は原則として自力で陸上をバックすることはできないので、こういった特殊車両が必要です。
●ペトリの滞空時間 十年あまりで二万時間も飛ぶとしたら毎日五〜六時間は飛んでいることになるので、ホラとしか思えない。
●フライング・トルーパー 空飛ぶ騎兵の意味。F騎兵隊ともいう。
●ドン亀 「潜水艦」の蔑称。鈍重な亀の略であろう。サブマリン707を読むと、よく出てくる差別用語。
●ホランド型潜水艇 潜水艦の父、アイルランド人ジョン・ホランドが1872年以降に設計建造した潜水艇。アメリカ海軍に採用されて有名となる。日露戦争(1904)のとき日本とロシアはこの潜水艇に注目、日本は五隻、ロシアは六隻を購入した。ひょっとすると史上初の本格的な潜水艦戦が日露戦争で起こっていたかもしれない。しかし歴史は皮肉なもので、潜水艦の浮上・潜航に欠かせないキングストン弁という部品が、日本に送られたものはすべて右舷用で、同様にロシアに送られたのは左舷用ばかりだったのである。メーカーの発送ミスにより、最新鋭の潜水艇は戦争中、ドックの中でほされてしまったのだった。
●巡洋戦艦フッド 第一次大戦直後における、世界最大の英国軍艦。空母発艦用の補助ロケット・ブースター 大戦中に日本海軍が開発していたが、実用化したとき、すでに機動部隊は壊滅していたので未使用の在庫が残っていた。
●スキージャンプ勾配、蒸気カタパルト、アフターバーナ、オットー・メララ社の七六ミリ速射砲 いずれも1950〜60年代の産物であり、この物語世界にはマッド博士のような戦争フリークがわんさかいて、軍事技術だけ急速に進歩していたと考えるしかない。
●酒井三郎 史実では坂井三郎。零戦の撃墜王。その自叙伝「大空のサムライ」は空戦マニアのバイブルである。
●スキップジャック 架空の兵器。言葉の意味はトビウオのこと。ただしスキッドは当時英国海軍が実用化していた前方発射型のロケット兵器で、駆逐艦などから三発同時に発射された。
●スティングレイとノーチラス 大戦中に実在したアメリカ潜水艦。スーパー・ダンボ 史実では、B29改装の救難飛行機で、日本を空襲したB29が帰途に不時着水したとき、海上に脱出した乗組員を助けるため救命装備を投下した。この種の救難軍用機が日本軍には一機もなかったことは言うまでもない。
●魚雷艇PT109 史実では大戦中にジョン・F・ケネディが艇長をつとめた。日本の駆逐艦に体当たりされ、九死に一生を得たケネディたちが無人島に漂着、その後自力で生還したエピソードは有名である。彼の兄も軍に参加して死亡するなど、欧米では有力政治家の子弟が前線に出撃した例が多い。日本でそうした話が聞かれないのは、おくゆかしい国民性ゆえだろうか。
●ダッフルを着てココア アリステア・マクリーンの戦争小説「女王陛下のユリシーズ号」を参照下さい。なおダッフルコートは北欧の漁師の服だったのを第二次大戦中に英国海軍が活用して一般のファッションになったもの。ちなみにトレンチコートは第一次大戦のおりに塹壕(トレンチ)に入って戦う兵士のために考案された軍用コートがファッション化したもの。ラグランコートはクリミア戦争のおり、冬服が補給されなかった兵士のために英国のラグラン元帥が天幕の布で考案した応急のコート。ブレザーは英国軍艦ブレザー号の艦長が定めた乗組員ユニフォーム。長ズボンやネクタイはフランス革命のときに貧しい市民軍が着用したパンタロンやスカーフが発祥であり、ジャケットは十七世紀ごろに鎧を買えなかった貧しい農民兵が着た厚手の布製の護身服のこと。サラリーマンのファッションにはどこか戦場の哀愁が漂う。
●B級タイトル 60年代の日本に大流行した映画・TV番組のタイトル群をさしている。パットン大戦車軍団、史上最大の作戦をはじめ、空軍大戦略、戦略大作戦、大侵略、潜航大作戦、海底大戦争、海底科学作戦、宇宙大作戦、宇宙大戦争、世界大戦争、日本海大海戦、怪獣総進撃など。並べてみるとじつに景気がいいが、発想の貧困と言われればそれまでである。ちなみに最近は出版界を中心に、沈黙の戦艦、沈黙の艦隊、帝国の艦隊、旭日の艦隊、紺碧の艦隊、八八艦隊物語::と、相変わらずである。
●甲標的 けったいなネーミングだが、秘密裏に開発した特殊潜航艇のため、その存在を隠蔽し、演習用の標的の一種と誤認させる意図でこのように命名されたもの。同じ趣旨で、甲標的の改造型はS金物などと命名されている。
●ナンブ十五年式 日本の新型拳銃。架空の型式。
タンデム座席 直列(前後)式に配置した座席のこと。
●ジューコフ ソビエト陸軍の元帥。
●タンクメンの歌 本来の名称はパンツァー・リート。映画「バルジ大作戦」の公開当時のサントラ盤では「タンクメンの歌」とされていたと記憶する。歌詞は吉岡平氏作「大宇宙のサムライ」(富士見ファンタジア文庫)に詳しい。
●お料理行進曲 本来の歌詞はこうである。 いざ進めやキッチン、めざすはジャガイモ/ゆでたら皮をむいて、グニグニとつぶせ/さあ勇気を出し、みじん切りだ包丁/玉葱目にしみても、涙こらえて/炒めようミンチ、塩コショウで/混ぜたなら、ポテト、丸くにぎれ/小麦粉、卵に、パン粉をまぶして/揚げればコロッケだよ/キャベツはどうした::まだまだあるメニュー、鍋の熱いプール/スパゲッティ泳がせたら、ざるに上げてOK/天にかざせ包丁、玉葱ピーマン、ハム/輝くフライパンで、ダンス踊るよ/炒めよう、軽く塩コショウで/忘れるな、スパゲッティ、ケチャップまぜて/ウットリするママ、もう我が家のシェフ/食べればペロリヤーナ/赤いナポリタン。
●トミーガン アメリカ軍が使用したトンプソン短機関銃の愛称。
●Kレーション 軍用の携帯食料の一種。カロリー満点の濃縮食品。
●「おれは死ぬほど戦争が好きなんだ」 史実でもパットン将軍はこう発言したのだから、驚きである。
●NJ号 戦艦ニュー・ジャージーの頭文字をとっただけの安易なネーミングであり、マイティ・ジャックのMJ号と大同小異である。               *
 半世紀も前の戦争についてですが、調べてもわからないことが多く、また資料によって異なったり、常識では信じられないような記述もあり、思えば謎だらけの時代です。
 たとえば、いくつかの出版物によれば……。
 東京大空襲の犠牲者はその数すらはっきりせず、遺族補償の実態も不明。大空襲の夜、火に追われた被災者が皇居の一角に避難しようとしたら、「ここは陛下の野菜畑である」と拒否されたこと。空襲がなかったとされる京都でも、小規模ながら二、三回は爆撃を受けていること。戦後に流行った「一億総懺悔」の意味は、アメリカに懺悔することではなく「敗けた責任は国民にあるので陛下に懺悔せよ」と、責任ある戦争指導者だった元陸軍大将が発言した言葉であったこと。戦後シベリアに抑留された日本人が虐待の末に死亡していった一因は、実は収容所の中を牛耳る一部の日本人が同胞を酷使し、労働ノルマに達しない者に対して行なった内輪リンチにあったこと……等々。ある一面から、こうだと断定できる材料は何もないのが歴史の真の姿のようです。
 「地球防衛艦隊1945」で資料とした本も大小のくいちがいがあって、たとえばドイツの列車砲グスタフとドーラは、それぞれ一基の兵器だったとするものと、じつは一基の列車砲グスタフがのちにドーラに改名されただけだ、とか。船の名前や写真キャプションになるとなおさらで、一流の出版社が出した歴史百科事典でも戦艦ドレッドノートの写真を間違えたり、しっかり考証されている戦争ノンフィクションでも写真とその艦名の不一致くらいは日常茶飯事。ということで、もともといいかげんな話なのです。ではまた!
 
 
更新日時:
2006/02/15

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