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27    20070131『ヒースローの飛べない鳥』

『ヒースローの飛べない鳥』

ヒースローの飛べない鳥
 
1999年夏、英国へ旅した時、ロンドン郊外の
ヒースロー空港へ降りて、ターミナルへとタキシングする
乗機の窓から、ふと撮影した。
 
高いフェンスに囲われて、超巨大なハ〜リボテって感じの機体が、
じっと、うずくまっていた。
 
機体前半はボーイング747らしい形。
機体後半はマクダネルダグラスのDC-10らしい形の、
ダミー機体か、それともスクラップになった機体の再利用だろうか。
主翼は左右にエンジンポッドを一基ずつ残して、その先はカットされている。
ムカデみたいな数多くの足には、いちおう車輪はあるようだ。
 
その前に掲げられた、火災訓練区域の看板。
 
これは、たぶん、飛べない鳥。
直接燃やされることはないだろうけど、
空港の消防やレスキュー隊が、
航空機の火災消化や、人命救助の訓練のために、
消防車から消火剤を噴射したり、身をもって機内へ突入したりするのだろうか。
 
なんという名前だろう。
哀れな姿の飛べない鳥は、
歌を忘れて捨てられたカナリアみたいに、
寂しく一羽、目の前を飛び交う、ぴかぴかの航空機たちを見上げている。
 
彼女に魂があるなら、幸せだろうか。
 
傷んだボロボロの姿で、
本物の飛行機たちをうらやんでいるのだろうか。
本物の飛行機たちは、飛べない彼女を冷ややかに
見下しているのだろうか?
 
しかし、いつの日か、万が一、
この空港で本物の飛行機がクラッシュしたならば、
そのとき、飛べない彼女で訓練した消防士たちやレスキュー隊員が活躍し、
人命を救うことになるだろう。
 
それでも、彼女のことを思い出す人はいない。
ただしかし、彼女のもとで訓練した者たちは別なはずだ。
 
彼女の腹を痛め、彼女の胸に抱かれて
人の救い方を学んだ者たちは、
おそらく彼女を忘れはしまい。
 
彼らに思い出してもらったとき、
彼女はただ一羽、広い大空を見上げて
優しく静かに微笑むだろうか。
 
更新日時:
2007/01/31

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Last updated: 2010/1/11

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