Essay
日々の雑文


 64   20100303★アニメ解題『宮崎アニメの原風景な映画』
更新日時:
2010/03/03 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ジブリ&宮崎アニメの
原風景な映画
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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(1)■『未来少年コナン』
私たちを魅了するジブリ&宮崎アニメ作品。そのオリジナリティが爆発した、出発点ともいえるのが本作。以来発表された数々の傑作は、どことなく、1960年代以前の映画作品に、その発想やビジュアルのルーツを宿しているように見える。まるで宮崎アニメを再現もしくは実写化したかのような、いわば“原風景”にあたる、なつかしい名作を探してみた。以下に続けてご紹介します。
 
『太陽の王子ホルスの大冒険』1968
【『未来少年コナン』の原風景−1】
宮崎監督が関わった劇場漫画映画の本作(1968)だから当然かもしれないが、物語の冒頭で父を亡くしたホルスがひとり小舟で大海原へ旅立つシーンが、コナンの旅立ちと重なる。
 
『メトロポリス』1927
【『未来少年コナン』の原風景−2】
『メトロポリス』(1927)の未来都市。超高層に君臨するエリートたちと、地下住居に暮らして苛酷な労働に明け暮れる人々。この生活格差は、そのままインダストリアの社会構造にあてはまる。いや今の私たちの現実そのものかもしれない……
 
『キューポラのある街』1962
【『未来少年コナン』の原風景−3】
ラナやナウシカ、シータやキキのように、逆境にめげず、明るく健気に生きる少女は宮崎作品の華。『キューポラのある街』(1962)のヒロイン、ジュンもその典型。ヤクザにさらわれた弟を助けるため、口紅ひとつを武器に敵地へ乗り込む女子中学生ジュンの姿に、その原点を見る思いがしないだろうか。
 
(2)■『ルパン三世 カリオストロの城』
ルパンの活躍ぶりが意外と地味なのだが、渋さでは秀逸。他の宮崎作品では淡泊な描写で済まされがちなオトナの男女の友情が、本作ではさりげなくも濃密に描かれ、独特の見どころを作っている。敵の機関銃に倒れたルパンの救出劇と不二子。次元や五ェ門とクラリスの心の通い合い。ラストでは銭形の「あなたの心です!」の名セリフ。中高年まで共感できる、味わい深いマスターピースだ。その原風景を続けてご紹介。
 
『チキ・チキ・バン・バン』1967
【『ルパン三世カリオストロの城』の原風景−1】
本作(1967)を華麗に彩るのは、悪役の男爵が支配する古城、差し向ける蒸気艇や飛行船。そして正義の発明家が操るスーパー・クラシックカー。子供向け最新デザインの秘密兵器ではなく、見た目は古き伝統、中身は先端技術という、お洒落なオトナの乗り物といった風情が『カリ城』にも通じるのでは。
 
『大冒険…クレイジー・キャッツ結成10周年記念映画』1965
【『ルパン三世カリオストロの城』の原風景−2】
世界を騒がす国際ニセ札団。そのアジトはカリ城ならぬ秘密要塞。そこには、輪転機…ではなく、当時はまだSFだったカラーコピーのマシンがずらり。吐き出される総天然色複写の偽札には、円もあればドルもある…。これって『カリ城』の元ネタ? と勘繰りながらも、全編笑って楽しめる超大作(1965)。この大らかさに、拍手。
 
『冒険者たち』1967 
【『ルパン三世カリオストロの城』の原風景−3】
若者と中年、オトナの男同士、そして男女の小気味良い友情が、爽やかでそして悲しく切ない印象を残す『冒険者たち』(1967)。夢、冒険、愛、友情、すばらしい時間を分かち合ったけれど、それは永遠ではなく、儚く去ってゆく思い出でもある…そんな、叶いそうで叶わなかった願いを余韻として味わえるところが、『カリ城』との共通点だろう。
 
 
(3)■『名探偵ホームズ』
名探偵も警部も怪盗もみんな犬キャラなのに、その表情の豊かなこと。TV番組という制約がありながら、群衆のモブシーンや、車や飛行機のアクションなど贅沢なまでに作り込まれ、その動きやデフォルメやギャグを存分に堪能できる。宮崎監督の6本は、アニメ本来の魅力を再発見できる珠玉作ばかり。そんな楽しさに通じる、実写の2作品を続けてご紹介……
 
『素晴らしきヒコーキ野郎』1965
ドーバー海峡をまたぐ英仏国際飛行レース。本作(1965)を飛び回るクラシックプレーンの数々、その再現性の高さとともに、レースを妨害する不届き者や、滞空中の飛行機から飛行機への救出場面など、『ホームズ』の『ドーバーの白い崖』を思わせる冒険娯楽大作。
 
『グレート・レース』1965
北米からユーラシア大陸横断へ、破天荒な自動車レースを描く本作(1965)に、やはり登場する間抜けな悪役フェイト教授とその手下(ピーター・フォークが演じ、おかげでどうみても悪人に見えない)。あの手この手で主人公の冒険を邪魔する悪役カーの楽しいこと。モリアーティ教授の心意気がここにも……。
 
(4)■『天空の城ラピュタ』
男の子と女の子の、ちょっとドキドキだけど、とてもピュアな冒険物語。実写でなくアニメだからこそ、堂々と格調高く描かれる男の誇りと女の真心。比較的現代に近い時代設定で架空世界を構築したファンタジーとしても、先駆的な作品。その原風景を感じさせるのは次の3作品……。
 
『わが谷は緑なりき』1941
【『天空の城ラピュタ』の原風景−1】
本作(1941)の舞台は、『ラピュタ』と同じような、英国の典型的な炭鉱の街に暮らす少年とその一家。貧しくも心豊かな日々を願う人たちの、ささやかな日常。『ラピュタ』も、このような日常あってこその冒険譚ですね。
 
『空飛ぶ戦闘艦』1961
【『天空の城ラピュタ』の原風景−2】
ジュール・ヴェルヌのSFを下敷きにした本作(1961)の主人公が指揮するのは、飛行船のような流線型バルーンの船体に、数多くのシャフトを立て、ヘリコプターのようにプロペラを回して浮揚する空中戦艦。『ラピュタ』のゴリアテやタイガーモス号を彷彿とさせる。
 
『サイレント・ランニング』1972
【『天空の城ラピュタ』の原風景−3】
地球では自然の植物が死に絶えつつある未来を描く本作(1972)。衝撃的なラストシーンで、宇宙に浮かぶ庭園ドーム。人影はなく、黙していつまでも植物たちを守る園丁ロボット。『ラピュタ』を未来に移し替えたかのような美しい自然が、漆黒の宇宙に飛び去っていく。
 
(5)■『となりのトトロ』
昭和30年代の田園。現代日本人の心のふるさと。それが『トトロ』の真骨頂だ。トトロも猫バスも、月夜が美しい田舎の森にこそ顕現できる超自然の神様なのだろう。郷愁を誘うのどかな原風景は、まさに昭和30年代の日本映画に、そのままの形で残されている。
 
『馬鹿が戦車(タンク)でやって来る』1964
【『となりのトトロ』の原風景−1】
うねうねと続く田畑に散在するかやぶき屋根の農家、瓦葺きは昔の庄屋の屋敷、こじんまりした火見櫓、鎮守の森と雑木林。本作(1964)の舞台は、『トトロ』の村と同じ昭和30年代のリアル田舎。しかし、のんびりとした田園の道を突如突進してくるのは、猫バスならぬ自家用戦車! このシュールな場面とコミカルな大騒ぎが、あくまで叙情豊かに展開していくところが物凄い。
 
(6)■『紅の豚』
主人公は豚。なのにハンフリー・ボガートなみにダンディで、このモテモテぶり。男のプライドとカッコよさを、問答無用で描き切る快作。「飛べない豚は、ただの豚だ」とうそぶく主人公は、しかし一方で、いつか老いて飛べなくなり、ただの豚に戻る日が来ることを知っているはず。そんな哀愁あふれる原風景が、以下の2作品にも漂っている。
 
『華麗なるヒコーキ野郎』1975
【『紅の豚』の原風景−1】
第一次と第二次の大戦に挟まれた平和の時代、軍用パイロットを失業し、愛機とともに遊覧飛行で全国を巡業する男のしがない人生と、そして男の意地。まさに『紅の豚』の同時代を描く本作(1975)は、のどかな複葉機で大空の決闘に賭ける騎士たちが去り、ヒコーキが非人間的な冷たいメカに変身していく直前のノスタルジーに満ちている。
 
『豚と軍艦』1961
【『紅の豚』の原風景−2】
ラストのクライマックスで夜の横須賀を蹂躙する、豚また豚の大群! 本作(1961)の主人公だった与太者をはじめ、登場していた愚かな人類はみな、人間の仮面を被った豚だったのか…と思わせるほど強烈なインパクトで、豚にこだわった怪作。悪人たちの終始徹底したカッコ悪さは、『紅の豚』の反面作品と言えるだろう。
 
(7)■『崖の上のポニョ』
とある小さな港町。行き交う内航貨物船に渡し船。海を見下ろす丘に建つ家。そこに住む妻は航海する夫の帰りを待ちわびる。勤め先は、騒がしくも気のいい老人たちが集うデイケアのホーム。そしてある日、息子が連れてきたのは半魚人の娘! 主人公はあくまで海。凪いだ海、暴れる海、豊かな海、万物の生命を宿す海と、海が産んだ子、ポニョとの不思議な出会い。愛くるしい幻想の物語。
 
『愛の讃歌』1967
【『崖の上のポニョ』の原風景−1】
とある小さな港町。行き交う内航貨物船に渡し船。海を見下ろす丘に建つ診療所。そこに寓居するヒロイン。彼女は旅に出た恋人の帰りを待ち続ける。港では船待ちの店にたむろする、騒がしくも気のいい老人たち。…ラストでは幸せな涙があふれる本作(1967)には、ポニョ以外のすべてが揃っている。原作はフランスの戯曲。で、作者の名前はマルセル・パニョル…って、ポニョ?


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