Essay
日々の雑文


 63   20100303●雑感『五輪の思ひ出とバンクーバー』
更新日時:
2010/03/03 

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五輪の思ひ出とバンクーバー
 
 
バンクーバー五輪が終わった。
なんだか、あっという間に過ぎ去ってしまったので、ゆっくりと、開会式のことを思い返す余裕がなかったような。
 
開会式で気がついたこと。
 
(1)氷の柱を三本かけあわせた形の聖火台。燃え上がったその姿は、漢字の「火」に火がついてぼうぼうの、「火の用心」ポスターの図柄そっくりだった。点火の後、屋外の一般市民向け聖火台に点火するため、ランナーがトーチを持って裏口みたいな普通のドアからこそこそ出ていったのが、妙に可愛いというか……。あっちをメインにすればいいのに。
 
(2)国際オリンピック委員会のロゲ会長はじめ、VIPが立つ演壇の下には、建物二階分ほどの巨大な五輪のネオンが輝き、その背後は暗がりになっている。でも、カメラが引きで映すと、暗がりの中に、小さな電灯が二つついたままになっており、ちょうど五輪の三つ並んだ真ん中の輪に、二つの目玉ができてしまった。つまり五輪の輪のひとつが、ニコちゃん顔というか、ガンダムのハロ顔になってしまい…。こちらも妙に可愛い。
 
(3)ロゲ会長の公式挨拶。その最後の決めゼリフは…「責任あっての栄光です。皆さん、ドーピングはいけません!」。その後に続いた選手宣誓も、「私たち、絶対にドーピングしません!」。…もう、「テメーラ、クスリだけはやるんじゃねえよ! やったらタダじゃおかネエからな!」的な脅しっぷりだった。こうなると、よほど問題というか、やるヤツ多いんだ。こりゃあ、みんなやってるんじゃ…と勘ぐってしまいそう。なにぶん昨今のオリンピックは国家的収益事業。事前練習から競技を経て表彰まで、秒単位で映像が売られている。そこをドーピングで台無しにされたら、昔みたいにゴメンで済まない事情もあるんだろうなあ…。ズルしないで頑張ろうね。メダル取れなくてもいいからさ。そのあたりがロゲさんの本音だったのかもしれない。
 
開会式の映像を交えたアトラクションはすばらしかった。北京のときみたいな、一糸乱れぬ群衆の統制ぶりは、かえって見ていて窮屈さを感じたが、バンクーバーはむしろ、乱れ飛ぶ感覚を生かして、吊り上げられた人たちが映像の光の渦の中、アドリブで自由に演技しているような演出で楽しかった。実際は緻密に統制された動きなのだろうが、それを感じさせないところが、名人の領域だと思う。
 
とはいえ、私の記憶に最も強く残る開会式アトラクションは、今からもう半世紀近く昔の東京五輪だ。国立競技場の上空に5機の自衛隊機(F86セイバー?)が飛来し、スモークを引きながらそれぞれが旋回して円を描き、真っ青な快晴の大空に飛行機雲の五輪マークを出現させたのだ。実際にその場にいたのではなく、何かの録画か、新聞の写真とかで見たのだが、これが、物凄く綺麗で、感動的で、身震いしそうだった。
(今にしてみれば、まったく、アニメ『シムーン』のリ・マージョンそのものだ)
本当に綺麗な輪だった。歪みも、はみ出しも感じられなかった。世界最大の五輪マークとして、ギネスに載っているのかもしれない。
いったいどうやって、あんなに綺麗に描けたのだろう。GPSもない時代に。5機の相対位置、円の描きはじめとその直径のコントロール。円の重なり部分でニアミスしないよう、微妙に高度をずらしたのだろうが、それにしても、いかなるノウハウで……。
あのころ、五輪はまだ収益事業ではなく、オリンポスの神々に捧げるスポーツの神事だった。「オリムピックは、勝つことでなく、参加することに意義があるのだ」といったクーベルタンの言葉を、僕たちは覚えた。世界のどこからでも、平等に参加のチャンスが与えられることは、平和の証であり、だからこそオリムピックは神聖なのだと。
選手たちは国のため、金のために戦っているのでなく、スポーツの神様が戦わしめているのだと、そんな空気を感じたものだった。アベベもチャスラフスカも、バーベルの三宅も、東洋の魔女たちも、みな、ある意味、スポーツの神様だった。ドーピングなんて、想像にもなかった。
だから、大空に忽然と結ばれた五つの輪に、なにか人知を超えた神業を見るような思いもしたのだ。
あの1964年10月10日、東京には世界の神々が集い、おそらくニッポンの地元の神様たちが、聖火とともに降臨したオリンポスの神様を盛大な歓迎で迎えたのではないかと思う。大空の五輪は、世界の神様たちに捧げられた、雲の注連縄であったのではないか。
現代の五輪には、あまり神様の居場所はないように思えるが、あの時代はあったのだ。神様たちこそ、開会式の場に降臨した、最も大切な、目に見えない主人公でありVIPだったのだと、そんな印象がいまだに残り、何度も思い返してしまうのだ。
 


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