Essay
日々の雑文


 55   20090220●雑感『とある惑星の貧乏長屋で』
更新日時:
2009/02/19 
20090219
 
 
 
とある惑星の貧乏長屋で
   ……最近、こんな感じ
 
 
 
 
 
 どうだい、熊さん。
 あいよ、八っつあん。あんたこそ、どうしなすった。珍しくホッコリした顔で。
 そりゃ、あんたのことさね。熊さんも最近なんだか、ほわーんとのんびり顔になっちまってさ。世の中こんなに不景気だっちゅうのに。
 あー、まあ、言われてみればそうだよなあ。未曾有の金融危機の渦中っちゅーのは辛いけど、その割にゃ、なーんかここ一月ばかし、気分がのどかになったみたいな。
 おいらもさ。この一ヶ月、イライラ、ムカムカがめっきり減ったさね。漢方の胃薬を毎晩服らなくても平気になっちまった。
 そいつぁめでたい。正月までキリキリ顔だったあんさんが、そんなホトケ顔になるなんて、お釈迦様でもびっくりあるよ。なんせ、への字だった口が、フの字になるってあんばいだ。
 それってどんな口なんだよ。ま、とにかく、なーんか変わったのは確かなんだよな。お天道様の日差しとか風向きっちゅーのか……。
 ああ、変わった変わった。変わったといえば、川向こうのでっけーメリケン屋敷にお住まいの、お代官様が代わられただ。
 あの白壁の豪邸で、お出かけのときゃいつもお庭から自家用のからくり回転凧に乗って、飛んでいきなさるお偉いさんだわな。
 そのお代官様が交代なすって、今は確か、小浜の守さまと言いなさる。
 へ、そうかいな。そういや瓦版に何んか出ていたな。伊豆羅江の郷のもんが、仲の悪い我座村へ攻めこんで、いけない爆弾で子供や老人までボコボコにいちびったりしとったのが(※1)、メリケン屋敷の代官さまがもうすぐ交代となったら、その寸前にぴたーっといぢめをやめて家へ引き揚げたっちゅー話だ。
 それそれ、正月の二十日だったか、新しい代官さまに変わったとたん、伊豆羅江と我座村の騒動はおさまったそうだがや。それというのも新代官に就きなすった小浜の守さまのおかげ。前のお代官さまとは大違いで、顔は黒いが、腹黒いお方ではなかろう(※2)と、巷ですこぶる評判よろしいとか。
 そんでおいらの胃痛も和らいだっつーわけか。前のお代官さまの顔、瓦版で毎朝毎夕見とった時期は、なんか理由はわからんけど、慢性的にムカムカと胃がねじれとったからな。それが、顔を見んでもよくなってこのかた、腹の虫の収まりがだんだんと良くなったみてえだ。不思議なこった。
 あっしもそうでんな。エレキ紙芝居の報道薔薇江亭で毎朝毎晩見せられとったあの顔を見なくてもようなったら、なんか気持ちがほーっとして、心にゆとりができたみたいだにゃあ。
 前の代官さまは、なんかしら、えげつなかったしなあ。逆らうもんがいたら、問答無用で切り捨て空爆、相手が国でもないのに戦さじゃ戦さじゃ(※3)とやかましい御仁だったし。その顔を見ないだけで、人間こんなに気が晴れるもんかね。まったく驚きだぜ。
 どっかの惑星の諺に「現大統領の最大の功績は、前大統領の顔を見ないで済むようにしてくれたことだ」というのがあるんだとか。(※4)
 ははあ、どこの星も長屋事情は似たりよったり。で、前のお代官さまのお名前は、何と言ったっけ。……ええと。思い出せねえ。確か、物……なんとか。物取の守? 物主、物朱、物首……
 言われてみると……うーん、あっしも思い出せまへんな。まあ、よろしおま。人間、もう関わり持たずに早う忘れたい人って、たまにはいるもんで。
 そりゃそうだ。鬱陶しいことは早く忘れっちまうのが、貧乏長屋のアクティブシンキング。
 そいでもって、メリケン屋敷のお女中頭も交代してな、米子さんちゅう人がいなくなって、栗子さんいう人が来なすった。先日、うちの長屋にも挨拶に来られてな。大家の太郎さんにはもちろんのこと、三軒隣の一郎さんにも会うていきなすったと。
 へー。三軒隣の一郎さんいうと、今の大家の太郎さんが近々夜逃げ……もとい、引っ越ししたら、新しい大家さんになるっちゅー噂のご浪人だ。
 ほー、それはそれは。つうことは、メリケンの女中頭の栗子さんは、太郎さんよりも一郎さんに「今度からよろしゅう」いうことでんな。
 まあ、太郎さんもいろいろ大変で、もう、大家の仕事がきついらしいや。不景気でおいらたちの家賃の払いが悪い上に、酒飲みの友達がドジ踏んだり、仲間のみんなに冷たくされて、もう、尻尾振ってくれるのは犬だけだってさ。
 ああ、あの「KY」いうやつでんな。空気が読めない大家さん……
 空気が読めないに加えて、“漢字も読めない”。
 いろいろありましたな、太郎さんの「みぞうゆう」に、こないだ酔っぱらって家出した昭一さんの「うずちゅう」。漢字検定協会が大繁盛するはずで。
 ここまできても、“解散、やりたくてもやれない”のKYかな。
 はてさて、あっしらの長屋はどうなることやら。お後がよろしいようで……
 
《以上は関西人の創作的妄想ですから、深読みしないでくださいね》
 
(※1)犠牲者千三百人に上ると伝えられる。
(※2)もちろん日本語の伝統的ボキャブラリにあるところの「腹黒い」を指すのであり、その意味は肌の色とは無関係である。
(※3)イラク等において、爆破テロで超音速の爆風衝撃を受けた帰還米兵に、身体の外見は無事でも脳機能に深刻なダメージが残るという“外傷性脳損傷”が二万人も発生しているとの報道が2009年2月にあった。これを戦争と考えると、二万人もが事実上戦闘能力を失ったのであり、戦力的には二万人が戦死したに等しい。これでは戦争として“勝った”とはお世辞にも言えないだろう。このことはもっと前からわかっていたはずなのに、前大統領の在任中は音沙汰もなかったことに、何やら不自然さを感じるのは私だけだろうか?
(※4)真偽は不明である。
 
 


prev. index next



HOME

akiyamakan@msn.comakiyamakan@msn.com