Essay
日々の雑文


 54   20090215★映画解題『心に残るロケット打ち上げ』
更新日時:
2009/02/19 

20090214
 
心に残るロケット打ち上げ
 
 
ロケット、それはSFファンならずとも、胸躍らせるスペースクラフト。フロリダにも種子島にも行ったことのない私でも、爆炎まぶしく白煙を巻いて垂直に天をめざす打ち上げシークエンスをイメージするだけで、興奮を覚えるのはなぜだろう。人はだれしも心の内に一機のロケットを持っている。青春の熱き思いをノズルにこめて、きっとカウントダウンを繰り返しながら日々を生きているのだ……
 
そんな、印象に残るロケット打ち上げシーンを映画やアニメから選んでみました。
 
 
1 『サンダーバード』
太陽号の打ち上げ(1965)……第3話冒頭の発射シーン。地球からはるばる太陽へ、コロナ物質を採取するため飛び立つ巨大ロケット。なんと単段式で地球の重力圏を脱出、そのまま太陽まで往復できる高性能。当時の子供たちの心に、未来科学のパワーを強烈に印象づけた。発射の瞬間では「リフトオフ(離昇)!」のセリフを「リフト取り外し」と吹き替えた“名訳”が時代を感じさせて可愛い。
 
2 『アポロ13』
アポロ13号の打ち上げ(1995)……CG技術を駆使し、徹底してリアリティを追求した緻密な発射シーン。機体表面の氷が割れて飛び散る美しさ、噴出した推進ガスが作る雲の重たさが実に荘厳で、かえって、後に搭乗員へ襲いかかる不運を予感させる。超セレブが札束の力で豪勢な宇宙旅行を楽しむ21世紀、人類は神々の領域への畏怖心を忘れてはいないだろうか。いつか神罰が下るのではと、そんな教訓も漂ってくるのです。
 
3 『ルパン三世 ルパンvs複製人間』
敵の地球脱出ロケットの打ち上げ(1978)……世界の命運を牛耳ってきた不滅の超天才が、ルパンたちの追撃を逃れる最終手段とは……。悪役にお定まりの“脱出ロケット”は轟然と打ち上がり、悪の天才は望み通り永遠を手に入れたかに見えたが、それがまた、永遠に還ることなき片道切符となった皮肉が、いかにもルパンらしい。還るべき場所のないロケットの旅路は、やはり一抹の寂しさが残りますね。
 
4 『スカイキャプテン』
方舟ロケットの打ち上げ(2004)……世界の命運を牛耳ってきた不滅の超天才が、スカイキャプテンの追撃をかわす最終手段とは……。悪役にお定まりの“脱出ロケット”は轟然と打ち上がり、悪の天才は望み通り勝利を手に入れたかに見えたが、次から次へとトラブル続出し、ボロボロと壊れてゆくスリリングな展開がいかにもアメコミ。で、結局はハッピーエンド。悪の末路はロケットとともに。
 
5 『バンパイアハンターD』
吸血貴族の脱出ロケット打ち上げ(2001)……世界の命運を牛耳ってきた不滅の吸血貴族が、ハンターの追撃を逃れて脱出する最終手段とは……。悪役にお定まりの“脱出ロケット”は轟然と炎を吐き、永遠の愛を乗せて宇宙へ去っていく。発射のさい、周囲のお城の余分な建物を崩して現われるその姿はゴシック・ゴシックで豪華絢爛! アニメ史上最もお耽美なロケットと言って過言ではないでしょう。
 
6 『プリズナー No.6』
No.1の脱出ロケット打ち上げ(1968)……世界の命運を牛耳ってきた不滅のNo.1が、No.6の追撃を逃れて脱出する最終手段とは……。悪役にお定まりの“脱出ロケット”は轟然と炎を吐き、幾多の謎を置き去りに宇宙へと消え去っていく。ビートルズ・ナンバーに乗って、のどかなリゾート村のど真ん中から忽然と発進するタイタン型ロケット。そのポップさで観客のド胆を抜く「ありえねー発射」の決定版ではないかと。
 
7 『ムーンレイカー』
ムーンレイカーの打ち上げ(1979)……本物シャトルが打ち上げられる二年前の作品。実写の使い回しなしで計六機も連続発射するのは序の口。宇宙服の兵士たちがレーザーを応酬する白兵戦といい、ステーションの破壊シーンといい、CGでなく光学フィルムの重ね撮りでここまでやるとは……。アナログ特撮の進化の極致を見られる貴重な場面。ムーンレイカー号の座席が本物シャトルより豪華なところも007らしい。
 
8 『ロスト・イン・スペース』
ジュピター・ワンの打ち上げ(1998)……巨大な恒星間宇宙船を、よりによって大都市のど真ん中で、しかも摩天楼のてっぺんにランチャーを建設して打ち上げるとは……。大音響の大噴射で猛烈に推進ガスを撒き散らし、おそらく周辺器材もバラまいて上昇する傲慢さは、いったいなにゆえの愚挙であろうか。ストーリーはさておき、SF映画史上、最も近所迷惑な打ち上げシーンであることは論を待たない……ですね。
 
9 『R.O.D(OVA)』
偉人ロケットの打ち上げ(2004)……世界の命運を牛耳る敵が強行する、やぶれかぶれの最終手段とは……。悪役にお定まりの“世界破滅ロケット”は轟然と炎を吐き、軌道をめざす。太平洋上の移動発射台から、ちょっと珍しい海上ローンチング。ベートーベンの“歓喜の歌”とともに主人公に訪れる、大事な友達との切ない別れ。天へ昇る者、そして降りねばならぬ者。ロケットが心を引き裂くこともあるのです。
 
10 『千年女優』
千年女優のロケット打ち上げ(2002)……月世界のラストシーン。主人公の少女の深き自己愛を乗せて、還ることなきナルシスの旅路。月面から蓮の花のごとく開く発射口から宇宙の涯をめざして、永遠の夢が旅立つ。優美で豪華な打ち上げというよりは、「私を追ってもダメよ」とばかりに男たちの恋心を拒否する、毅然としたキッパリ型の発射シーンというべきでしょう。
 
11 『アリーテ姫』
“星への船”の打ち上げ(1999)……悪役の魔法使いが、ふと純朴な童心を取り戻したとき現われる白昼夢。きらきらと波さざめく渚、バベルの塔とおぼしき発射基地より碧き天空を裂いて、まっすぐに昇りゆく光のすじ。はるかな過去、魔法という名の科学が生み出した星々への船。それはまた、老いたタマシイの望郷のきらめきではなかっただろうか。一瞬だけど、最も美しい打ち上げシーンだと思うのです。
 
12 『秒速5センチメートル』
ELISHの打ち上げ(2007)……夕暮の発射、一番星の如く輝くロケット、噴射煙が落とす影、この情景の叙情的なこと。衛星がどこまでも透明な真空の世界をひとり飛び続ける孤独と寂寥感は『ほしのこえ』『雲のむこう』と、常に“青春の喪失”をテーマにしてきた新海アニメならでは。汚れなき少年少女だったころの心の豊かさを、あとはただ少しずつ失うことでしか、私たちは生きていけないのか。それとも……?
 
13 『王立宇宙軍 オネアミスの翼』
“宇宙戦艦”の打ち上げ(1987)……仰々しく宇宙戦艦にされてしまい、国家間のパワーゲームに翻弄される人類初の有人ロケット。敵味方の戦闘のさなか、政治のエゴが作り出した殺戮の野から、主人公の「立派にやるんだ!」の檄とともに、決然と炎を吐き、雲をついて天へ昇りゆくその姿の堂々たること。そして宇宙で主人公が出会ったのは、ただ平和な静謐と祈りの時間……。ロケットが、人と神とをつなぐとき。
 
14 『ガリバーの宇宙旅行』
ガリバー号の打ち上げ(1965)……乗組むのは、老いてよぼよぼのガリバー博士と、孤児のホームレス少年、同じく野良犬、捨てられた玩具の兵隊……。人生の絶望に直面する彼らが、超光速宇宙船ガリバー号に託す夢は“希望”! 森の中に広がる草原に立つ発射台から、抜けるような青空へと昇りゆく真っ白なロケット。ああ、打ち上げって、こうなのだ。宇宙旅行って、こうなのだ……と、青春を呼び戻す瞬間なのです。
 
15 『スペースキャンプ』
シャトル“アトランティス”の打ち上げ(1986)……見学の子供たちが乗ったとたん、なぜか唐突にエンジン点火、フルパワー、止まらない。オーマイガッ! マジかよ! そんなつもりじゃなかった「なんちゃって宇宙旅行」の始まり。行くのはいいけど、どうやって降りる? そこで、これまでケンカしていた子供たちが一致協力して生還を果たそうとするところに、素直に感動できる。ロケットは真の友情も育むのです。
 
16 『遠い空の向こうに』
ラスト・ロケットの打ち上げ(1999)……町の大人たちからバカにされ疎まれたロケット少年たちを優しく見守り、本当の意味で立派な大人へと成長するチャンスを作ってくれた恩師の女先生。少年たちにとって、まさに救いの女神だった。そんな彼女が病床に伏したとき、少年たちの感謝と祈りを乗せて、最後のロケットは飛ぶ。たかが手作りの打ち上げ花火……しかし、その清らかさと神々しさにホロリとくるのです。
 
17 『カウボーイビバップ』
シャトル“コロンビア”の打ち上げ(1998)……軌道から落ちつつある主人公を救うために地表から飛び立つシャトル。これがなんと払い下げの廃棄再生船で、貨物室に燃料を満載し、船首を上向ける外付けスラスターを装着して、轟音一発、単段で軌道までブチ揚げる荒っぽさ。これぞスペースマンの心意気。放映の数年後、本物の“コロンビア”が大気圏突入事故で散華し、この打ち上げは伝説となりました。
 
18 『明日があるさ THE MOVIE』
浜田課長の打ち上げ(2002)……個人の力で、しかも日曜大工で、発射場は高層ビル群のはずれの空き地、そこから純国産の有人ロケットを打ち上げるのだ。軌道を回るなんて贅沢を言わずに弾道飛行でガマン、発射制御はノートパソコン一台、建築工事用の足場をランチャーに、飛び立てサラリーマン・ロケット! セットとはいえ本当に飛びそうな姿に拍手。カネよりも技術よりも、精神力でイグニションだ!
 
19 『宇宙からの脱出』
救出船の打ち上げ(1969)……カプセルに乗ったまま軌道から降りられない仲間を救うには、大至急、救出船を揚げるしかない。グレゴリー・ペック演じるNASA責任者は発射チェックをばっさり省略、しかもハリケーンの眼を衝いて打ち上げを敢行する。普通なら失敗して当然の暴挙、しかし人々が勇気を結集して「GO!」を叫ぶ中、タイタン型救出船は点火する。これぞ珠玉のローンチング。DVD化を切望する。
 
 


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