Essay
日々の雑文


 5   19920600●雑感『星の煌めく旗の国』
更新日時:
2006/01/09 
19920600
●雑感『星の煌めく旗の国』
 
 
            
星のきらめく旗の国   
 
 
 
 
 92年5月下旬に十日間ほどUSAに行ってきました。仕事でしたが、それよりも印象に残ったのは星条旗の鮮烈なカラーでありました。
@入国は団体よ!
 シアトルの空港に降りて、入国審査。一人一人英語で滞在目的とか期間を聞かれるので、こちらも英語の回答をうろ覚えして臨むのですが、アメリカ人の係官のおじさんはたった一言「ダンタイ?」
「イエース! アイム ダンタイ!」
 これでユーアー、ウェルカムのフリーパス。団体って信用されてるんですね。ちょっと恥ずかしい気もするけど。
 
A食事はテリヤキよ!
 街中のショッピングセンターには必ずあるフードコート。要するに日本で言えば西友の食品売場の隣にあるお好み焼きやタコ焼き、ソフトクリームのコーナーが集まった大型カフェテリアといったところ。アメリカでは中華、ハンバーガーにメキシコやベトナム風の料理コーナーが軒を並べている。ここで繁盛しているのが「テリヤキ&テンプラ」のコーナー。何のことはない、焼きそばの鉄板の上でビーフやシュリンプやチキンをじゅっといためて野菜といっしょに、皿のライスの上にどばっと載せて、トンカツソース風のタレをどぺっとかけたもの。「餃子の王将」の焼肉定食にきわめて似ている。4ドル半。食いきれないボリューム。ときどき店のスペルがまちがって「テリヤキ&テンプル」になっている。アメリカの庶民が集まる場所で、これは完全にアメリカの食事として定着しているから、臆せず食うべし。これの専門店は「ハッピー ボウル」とかいった名前で街角にある。ピンクのドンブリ・マークが目印であり、メニューがやや豊富。
 
B名物は軍事産業よ!
 シアトルといえばボーイング、ニューヨークといえばイントレピッド。これが軍事おたくの観光名所。なんてったって、アメリカ名物は巨大軍事兵器です。シアトルのダウンタウンからバスで三十分、めざすはボーイング社の航空博物館。本物のB47爆撃機や、ゼロ戦キラーだったコルセアなんかがぽんぽんと並べてある。地図ではボーイング本社の隣なので、本社前でバスを降りる。見回すがそれらしき建物はない。おかしいなと思いながら歩くこと歩くこと。そうです、本社敷地内の二千メートル級滑走路のはずれにあったのですから。
 その「ミュージアム・オブ・フライト」は日本の凧や竹とんぼまで展示してあり、ちゃんと日本語のパンフレットもありました。
 ニューヨークは、退役した航空母艦イントレピッド号がハドソン河の埠頭につながれてそのまま博物館となった「シー・エア&スペース・ミュージアム」。隣にこれも本物のミサイル潜水艦や駆逐艦もあってやはり中を見られるのがうれしい。空母の中の格納庫は戦闘機や第二次大戦の歴史の展示スペースとなっていて、リメンバー・パールハーバーのコーナーもしっかりある。アメリカ海軍の反撃にあって破れる日本艦隊のジオラマもあって、ここでは日本製ウォーターラインシリーズの大和や長門のプラモデルがやられ役をつとめていました。
 どちらの博物館も黄色いスクールバスが次々とやってきて、子供たちが戦闘機のコクピットに乗ったり、対空機関砲を操作したりして遊んでいる。こんな国と戦争したらただではすまない! ああ平和でよかったと実感したのでした。
 
C感動は星条旗よ!
 当然ですが、どの街でもかならず掲げられているスターズ&ストライプス。どのショッピングセンターにもフラッグショップがあって、星条旗や各国の旗を扱っている。これもアメリカ名物と本場の星条旗を24ドルで買い求めたのですが、そのパンフの説明がいかめしい。「この旗が古くなり、処分するにあたっては威厳ある手段をもってなすべし。たとえば燃やすのがのぞましい」とある。星条旗は自由の国アメリカの誇り。使いふるしたからといって、ゆめゆめテーブルクロスや玄関マットの代わりにしてはならないのです。ちなみに本場の星条旗は、赤白のストライプは一本一本が縫い合わせてあり、五十個の星はひとつひとつが刺繍されている。非常に丁寧なつくりです。
              *
 アメリカに行って最も心に残るのは、街角や広場にはためく星条旗の美しさ、そして星条旗を歌ったアメリカ国歌「スター・スパングルド・バナー(星の煌めく旗)」でしょう。子供の愛唱歌のカセットを買ったのですが、やはりちゃんと国歌が入っている。その歌詞がすごい。だいたいこんな内容です。
  君よ見るや、黎明の光に映える旗を。
  夕べの光消ゆるとき、われらが誇り高く呼び掛けたあの旗を。
  危険なる戦いのさなかにありて、城壁の頭上高く、
  星のきらめく旗、雄々しくはためかん。
  ロケットの赤き閃光、爆弾の炸裂が大気をゆるがす夜を超えて、  われらが旗、なおもそこにあり。
  おおスター・スパングルド・バナー、自由の国にひるがえれ。
  勇敢なる故郷の空に。
 ヒロイックファンタジーやスペースオペラの中に出てきてもいい、感動的なシーンですね。この歌が作られたのは一八一四年。英国との第二次独立戦争の真っ最中です。当時アメリカはまだ三流国家、海軍は早々に壊滅し、英国の陸上部隊がワシントンやボルティモアに侵入してきました。そのときボルティモア港の入り口にあるマックヘンリー要塞にたてこもったアメリカ軍は頑強な抵抗を試みる。九月十三日の夜半から十四日の払暁にかけて両軍の砲撃戦は激烈をきわめ、英国の司令官は戦死した。夜明け、英国軍の捕虜になっていたアメリカの検事フランシス・スコット・キイは早朝のぼんやりした光に目をこらした。要塞の城壁に白旗が上がっているのではないかと恐れて。しかし彼の目に映ったのは、ぼろぼろになってなおもひるがえる星条旗だった。その印象をキイ自身が歌にした、というものです。
 それはさておき、なぜこの歌がよかったかというと、帰りの飛行機で映画「カーリー・スー」を観たからです。日本の宣伝では少女サギ師の「悪い子」にされてしまったスーですが、実際は全然違う。貧しいけど誇り高くて純真なホームレス少女なんですね。その少女がベッドの上に立って、手を胸にあてて朗々と国歌を歌い上げるシーンがあって、ここで涙が出るほど感激した。「ホームレスだって、白い目で見られたって、れっきとした合衆国市民なんだから! あたしだってアメリカが大好きなのよ!」と宣言しているんですね。
 で、この映画は孤児のホームレス少女が温かい家庭を発見する話でありまして、そのためには恵まれた階級の人々が貧しい人々を同じ人間として接することから始まる、というすごくいいテーマで貫かれています。いろいろ問題があっても、私達はこの星条旗の国を見捨てない。もっとすばらしい国と家庭を築くんだ、というプライドですね。 アメリカの人々が自分たちの国をどのように形容しているのか、他の歌ではこうです。「かぐわしき自由の国。私が生まれた国。私の父が眠る国。巡礼たちの誇りの国。自由と正義の神の見えざる手があまねく差し伸べられた国」。この理想の高いこと、ここまで自分の国をヨイショできる脳天気さに驚いてしまいそうですが、しかしリバティとフリーとリパブリック(共和制)を讃えても、決して皇帝や女王陛下や独裁者を讃えていないところが、さすがアメリカです。
              *
【2005年の再録にあたって】
この米国旅行で、私はニューヨークのあのツインタワーに昇り、最上階付近の展望フロアから、アメリカの威容をながめました。あの場所が今はないことを寂しく思うとともに、それからのアメリカと日本の変わりように戦慄を覚えます。2001年のあの日以来、世界は変わったと人は言いますが、じつは、そうではないかもしれません。
変わってしまったのは世界でなく、アメリカと日本の方ではないか。私を感嘆させた心広きあめりかと、そのころの、まだ来世紀への夢を描くことのできたにっぽんは、どこへ行ってしまったのか。
よき世界はなにもかも、懐かしさのかなたに消えてゆくのかもしれません。二十世紀の私たちが心待ちにしていた“明るい未来”は、すでに過去の郷愁となってしまったのでしょうか。
 
 


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