Essay
日々の雑文


 41   20071221★アニメ解題『シムーン』(5)
更新日時:
2007/12/24 

英国の名機ホーカー・テンペスト。大好きな機体。
 
 
 
『シムーン』(5) なぜなんだ? 編(続)
 
 
 
●礁国飛行機械開発物語……かれらのプロジェクトX
 
宮国へ大挙侵攻し、その数の多さでシムーンを圧倒してゆく礁国飛行機械。
やなやつですね。メカとしては、やっぱり悪役。黒っぽく骨張ったその形は、いかにも有害な虫の群れを思わせます。毒針つきブラック・カトンボって感じでしょうか。
 
とはいうものの、礁国の科学力はあなどれないものがあって、物語の後半、とくに第16話では、礁国飛行機械は飛躍的な進歩を遂げて、アーエルたちの前に姿を現します。双発のプロペラで、複座化した中型機ですね。
その編隊を目撃したシヴュラが「あんなに高く……」と驚くほど高空へ達し、仕掛けられたリ・マージョンを回避する速度も運動力も向上し、超高性能のシムーンですら手を焼く存在になりました。
 
やはり、気になるところは礁国飛行機械のメカニズムです。なんといっても、私たちの常識で思い浮かぶ“翼”がほとんどついていないのに……
どうやって、空飛べるんだ?
 
冷静に考えてみると、礁国飛行機械が空を飛べるのは、シムーンが空を舞うのと同じくらい、謎めいているのですね。
やはり最後まで、なぜなんだ? が引っ掛かったメカなのです。
 
例によって、勝手に想像してしまいましょう。ここからは私の創作的妄想です。
 
そもそも、第一話に登場した礁国飛行船と飛行機械の群れからして、見ていてうならされるものがありました。
まず、第一話ラスト近くで出てきた偵察機が、燃料の増艚タンクらしいものを携えて飛んでいて、空中戦になったら投棄していること。
 
つまり、礁国飛行機械はまだ、単機としては航続力が不十分であり、長距離の飛行はできない。単純に言って、燃費はよくなさそうです。
そのため、宮国への侵攻には飛行船の母艦が必要であり、第一話冒頭で、搭乗員ごとぶらさげて運んでいることがわかります。
 
飛行機械のメカの特徴は、やはり尾部の巨大なプロペラ。
あれはどうみても、地上に着陸するには、邪魔になります。
そのデメリットを逆手に取って、おそらく、地表の滑走路に着陸することは最初から放棄して、母艦からの“空中発進・空中回収”に撤したのでは。頭いいぞ。
それはまた、飛行中は単なるデッドウェイトにしかならない着陸脚などの降着装置を省いた分、機体の重量軽減にも貢献していると思われますね。
 
しかしやはり、用兵者としては尾部の巨大プロペラは扱いに困ったらしく、プロペラ直径を小さくして双発とした中型機を開発しました。これなら着陸脚を装備しやすくなり、空中母艦の甲板から離発着できます。
 
と、まあ、礁国飛行機械は、かなり理屈にあった運用をしているように見えるのですが……
 
どうやって、飛んでいるのだろう?
 
第一話から登場している単発機は、竹を縦に割った形の“京都の八ツ橋形”パーツを上下に広げますので、あれがたぶん、翼に相当する揚力を生み出しているのでしょう。
翼を、左右に延ばすのでなく、前後に延ばすという発想ですね。
すごいなあ、と素直に思います。やれば、飛べそうな気もしますし……
 
もうひとつ、大変気になる巨大プロペラ。
あれはただ前方への推進力を生み出すだけでなく、揚力を生み出す翼の役割も兼ねているのかもしれません。
回転するプロペラのブレードが水平位置に来たときだけ、ブレードの角度をほぼ水平に変えて、左右に延ばす翼と同じ機能を発揮しているのかも……と。
もしもそうだとしたら、超絶の可変ピッチプロペラであり、その技術力は絶賛に値することでしょう。すごいですよ、ほんとに。
 
驚愕のプロペラ技術に加えて、たぶん、ホバリングの技術も併用していたのではないかと思います。
礁国飛行機械は、基本的に内燃機関でしょう。ガソリンのような燃料を燃やして、その圧力を回転運動に変えて、プロペラを駆動している。
すると同時に、機関から排気が生じます。燃費の悪さもあいまって、かなり大量の排気がどどどと出てくることでしょう。
プロペラ軸の付け根がロケットノズルのような形態になっているので、レシプロではなくタービン機関なのかもしれません。いずれにせよ、排気量は相当なものと思われます。
その排気をただ捨てるのでなく、たとえばスリット・ノズルを介して機体下方へ噴射して、機体の揚力を助ける仕組みも付随していたのではないか。その垂直排気噴射をフル稼働すれば、機体を静止に近い状態でホバリングさせることもできたのでは……とも想像します。
 
さてそこで、双発中型機の場合です。
だとすると、性能を向上したはずの双発の中型機は、翼の機能を果たすプロペラが小さくなり、“京都の八ツ橋形”パーツを上下に広げているわけでもなく、揚力を確保するには、やや不利な感じがします。
 
そこでかなり目につくのが、三胴構造の機体の中央胴体の尾部に開いた、噴射ノズルのような装備です。ここにも機関がついている。こちらはプロペラを回すのでなく、おそらく噴射力を目的とした、ジェットエンジンかロケットモーターが内蔵されているのでしょう。
 
左右胴体の尾部に回転する大形のプロペラによって、推進力と、部分的に揚力を得る。そして中央胴体には噴射力を主体としたジェット機関があり、巡航時には下方へ噴射して揚力を助け、戦闘時には後方へ噴射して強力な推進力を得ていたのではないか……と考えます。
 
注目するのは第22話で礁国飛行機械が見せた、垂直上昇能力です。まさに神の昇天のごとく、まっすぐに空へ飛び上がってゆくシムーンに食い下がって、ほぼ垂直になって追跡する飛行機械の群れ。
このときはプロペラの回転揚力と、尾部からの排気を真下に集中して、まるでロケットのように、シムーンへ向かっていきます。見よ、礁国パイロットの意地を! ド根性を!
 
このために、礁国の技術者は心血を注いだのでしょう。シムーンが急上昇したとき、ついていけない悔しさ、そして常に上空から弾丸を撃ち下ろされる屈辱。敵機シムーンをいつも見上げて戦うしかなかった礁国パイロットたちの執念が、機体の垂直上昇力を渇望し、かたや戦闘機開発者たちは、その熱望に見事に答えたというところでしょうか。
 
悲しいかな。追っ掛けたシムーンはあざやかなラフベリー・サークルを描いて余裕の散開を見せ、太陽をバックに陣取っていたアルクス・プリーマの大口径砲の撃ちおろしにとらえられたのが運の尽き。礁国の編隊は、滝を登れなかった鯉みたいに弾丸シャワーの露と消えることになってしまいましたが……
 
礁国パイロットたちに冥福あれ。
 
ラフベリー・サークルは、空中戦で用いられる防御陣形。要するに、味方機だけで円を作って飛ぶというものです。この円周の中に敵機が割り込んだら、その後ろの味方機が攻撃、撃退します。そうすることで、敵機に後方の死角から攻撃されない安全な体勢をつくり、その上で、敵機に対して攻勢に出るか、撤退するかを判断するというものですね。
上空に昇ったシムーンの編隊は、いったんラフベリー・サークルを作って、敵機に追いつかれていないことを確認し、安全を確保してから、四方へ散開したことになります。まことに見事な編隊運動でした。
 
それにしてもこの戦闘、母艦との共同作戦とはいえ、コール・テンペストがリ・マージョンを用いることなく敵の大編隊を一網打尽にしたのであり、それは航空戦闘史に残る大事件だったと思われます。
 
リ・マージョンという超自然的神罰ではなく、基本的に礁国の戦闘方法と同じ、弾丸の応酬による空中戦で、コール・テンペストが勝利した。
これはすなわち、コール・テンペストがもはや“神の巫女”ではなく、空中戦を目的とした“戦闘機部隊”として完成したと読み取ることもできるでしょう。リ・マージョンを行なうことなく、敵を殺戮する、純然たる戦闘機として使用されたシムーン。しかしそのようなシムーンの使い方は、搭乗するシヴュラたちにとって、おそらく最も忌み嫌うべき、神の乗機への冒涜であったはずです。
 
嬉々として戦い、輝かしい勝利をおさめたシヴュラたちは、この戦いで、冒してはならない一線を越え、その心を地獄へ堕としたことになるのかもしれません。
神に祈る巫女から、人を殺す兵士へ……いや、大量殺戮の前歴を背負った、血塗れの殺人鬼へと……。
 
この先、戦争が続けば、少女たちを待ち受けているのは、地獄の堕落と人殺しの日々……となったことでしょう。
この戦いがコール・テンペスト最後の戦いになったことは、ある意味、不幸中の幸いというべきかもしれませんね。
 
(このことを考慮して、お話の筋書きが組み立てられていたと考えてもよさそうです。この回のサブタイトルは『出撃』でした。それまでに何度もコール・テンペストは戦闘しているのに、なぜこの回になって『出撃』なのか。そう、コール・テンペストはここに至ってついに、全員が心を合わせて、“祈り”ではなく“戦争”に出撃したのだということ……みずからシヴュラであることを捨て、祖国を守って戦う兵士となったことを意味しているのではないでしょうか)
 
さて、それにしても、科学と根性の産物というべき、礁国飛行機械。
 
常識を越えた、その飛行アイデア。
私たちが考える形の翼ではなく、巨大なプロペラの制御と、噴射によるホバリング技術の併用によって、礁国飛行機械は驚異的な進化を遂げ、戦闘時には短時間ながらシムーンに対抗できるほどの性能を獲得するに至ったのでしょう。
 
この飛行機械の開発力。なにはともあれ、あの短期間で性能を恐ろしく向上し、果ては空中母艦まで建造してしまうマッドサイエンティスト的パッションとエネルギー。
悪役の戦闘機とはいえ、礁国にもニッポンのゼロ戦の開発者・堀越技師のような人物がいて、身を粉にして働いたことと想像されます。それはNHKの名物番組であった『プロジェクトX』に値する偉業でありましょう。
 
戦後、礁国の飛行機械開発主任は、どのような思いでみずからが開発した戦闘機と、そしてシムーンをながめたことでしょうか。
 
物量の戦争で宮国には勝った。
けれど、肝心のシムーンは、おそらく乗りこなせるパイロットが嶺国の巫女に限られてしまったため、今度は嶺国の独占物になってしまったのではないか。
結局、そのために二つの戦勝国の関係は悪化し、再び大空陸の空は、礁国飛行機械と嶺国シムーンの熾烈な戦争の場になってしまうのではないか……
 
戦争には勝った、けれど、祝杯を挙げる気分になれたかどうか……
 
科学はいったい、人に何をもたらすのだろう?
礁国の飛行技術者の立場に身を置いてみると、そんなシリアスなテーマが、別な角度から浮かび上がってくるのです。
 
 
 
 
 


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