Essay
日々の雑文


 34   20070624★作品解題『ハリー・ポッター』最終巻の結末予測
更新日時:
2007/06/26 
20070624
 
 
 
ハリー・ポッター
最終巻の結末予測
 
 
 
 
 
知らない人はいない『ハリー・ポッター』。
そのシリーズ最終巻(第7巻・英語版)が、7月21日に世界同時発売されるとか。全世界の読者が長年気にかけていた(そして待ち望んでいた)ラストシーンを、ついに目のあたりにできるわけです。
とはいえ、残り一ヵ月をただ何も考えずに待つよりは、結末がどうなるのか、好き好きに想像をめぐらし、予測してみるのも、読者に与えられた楽しみではないでしょうか。
 
そこで、私なりに最終巻の内容を推理してみました。情けないことに、私は『ハリー・ポッター』シリーズを第1巻の三分の一くらいで挫折して久しく、映画では、これまでに公開された4作を見ただけで、あとはせいぜいウィキペディアの関係項目を参照する程度です。この乏しい知識で、いきなり、「こんなふうに終わるのかも」と当てずっぽうにやるのですから、相当にいいかげんですが、これは、あくまで個人的かつ主観的な推理ゲームということで、お許し下さい。
 
 
作品設定の特徴と、クライマックス盛り上げの大原則
 
まず、『ハリー・ポッター』シリーズにみる、物語設定の特徴を確認しておきましょう。この作品には、全編を通じて、このような基本設定がみられます。
 
(1)主要な舞台は、ホグワーツ学園とその周辺に限られる。……基本的に学園という閉鎖空間の中で、主要な事件が進行します。物語の舞台が国際化して、アメリカやアフリカに飛ぶことはないのです。
(2)魔法使いたちは、一般の人間(マグル)の社会に干渉してはならない。……ハリーたちはその闘いに「普通の人間を巻き込んではならない」という制約を背負っています。
(3)宿敵ヴォルデモートは、実体のない霊魂のようなものであり、登場人物の誰かに憑依することで活動することができる。……ということは、自分の力が、憑依する依代(よりしろ)によって制限される面もあるということです。どうせなら、弱い者よりも強い者に乗り移ったほうが、効率的に戦えるわけですね。
 
さて、この三点を確認した上で、物語作りの普遍的な大原則を考えてみましょう。最終話のクライマックスの緊張と感動を盛り上げるために、ファンタジー作品でよく使われる定番の常套手段は……
 
(ア)味方の裏切り。
(イ)敵方の寝返り。
(ウ)ヒーローもしくはヒロインの自己犠牲。
 
三番目の「自己犠牲」は、必ずしも死ぬことに限定するのではなく、やや広い意味で、「自分の大切なものと、勝利を引き替えにする」ことも含まれます。
 
いちいち例をあげなくても、エンタテイメント系の映画やアニメでは、ほとんどの場合(ア)(イ)(ウ)の要素の二つほどは、最終三十分のストーリーに盛り込まれていることがおわかりいただけるでしょう。
 
そこで、『ハリー・ポッター』の最終巻の内容を予測するには、上記(1)(2)(3)の設定と、(ア)(イ)(ウ)の要素を組合せるのが、最も確実だということになります。ホントかな? でも、なんとなく理屈が合っていると思いませんか?
 
ということで、『ハリー・ポッター』の最終巻について、他人の憶測など知りたくもないとお考えの方は、この先をお読みにならないように。念のため。
 
 
● 味方の裏切り……それは、だれ?
 
物語において、ただ敵が強いというだけでは、なんら驚くに値しません。そこでハラハラドキドキ感覚を盛り上げるのは、なんといっても、ここ一番の勝負時に、信頼していた味方に裏切られるということです。主人公、絶体絶命! のピンチを演出する上で、頼りにしていた盟友の裏切りは欠かせません。
さてそうすると、最終巻の大事なところで、主人公ハリー・ポッターは、最も信じていた友人に裏切られ、敵に回られてしまうという悲劇があっても不思議はないのです。
敵方に回るとすれば、それは、誰でしょうか?
 
候補の筆頭は、ハーマイオニー嬢ですね。これがロン・ウィーズリーだったら、ハリーもそれなりに魔法で対抗し、ポカリと殴って失神させる程度の反撃は可能ですが、相手がハーマイオニーとなると、なにしろ女の子、手荒な反撃はできません。ハリーにとって、敵に回したら、精神的に一番苦戦する相手です。
 
では、どうやってハーマイオニーが敵に回るのか。
単純ですが、ハーマイオニー自身にヴォルデモートが憑依するのが、最もありがちな方法になりそうです。
 
その手段として着目されるのは、ハーマイオニーの家族です。ハーマイオニーの家族は魔法使いでなく普通のマグルらしいですから、ハリーたちの側からみると、絶対に闘いに巻きこんではならない人たちです。その誰かがヴォルデモートの人質になれば、ハリーにとっても、ハーマイオニーにとっても、まずは手の下しようがなくなるでしょう。
そうやって抵抗力を奪われ、ヴォルデモートに取りつかれたハーマイオニーは、悪鬼と化してハリーに襲いかかるのです。危うしハリー!
 
 
● 敵方の寝返り……それは、だれ?
 
敵が敵のまま主人公にやっつけられる筋書きは、なんら驚くに値しません。あっと驚くサプライズは、やはり、普段から敵対していた人物が、突如として翻意し、味方に回ってくれることですね。敵だって人格があり迷いもあるならば、それが幸いして、主人公が最悪のピンチを脱することもあるのです。
さてそれでは、普段からハリーの敵役を務めている人物は?
 
もちろんドラコ・マルフォイと、スネイプ先生ですね。
二人とも、少なくとも表面上は、なにかにつけてハリーにいやがらせをし、辛く当って、ハリーの健全な学園生活を阻害してきました。
とりわけマルフォイは、各巻毎回のごとくハリーにちょっかいを出しては、自ら墓穴を掘って痛い目に合っています。積もり積もった積年の恨み、なんとしても物語が終わるまでにハリーに一矢を報いたいものです。だがもはや最終巻、後がありません。ここはひとつ、いかなる卑怯な手段を用いてでも、ハリーをメタメタに叩きのめしてやりたい。そう考えるのが人情でありましょう。
 
ピンチのハリーに、マルフォイは襲いかかります。このとき彼は、ヴォルデモートに支配されるか、あるいは実際にヴォルデモートか、その手下に憑依されていてもよいでしょう。
マルフォイはハーマイオニーとともに、ハリーを攻めます。
ハリー、さすがに不利、ボコボコにされます。
しかしそこで、なにかのきっかけで、マルフォイに良心がよみがえるのです。はっと我に返り、必死になってハーマイオニーの攻撃を防ぎ、ハリーを救おうとします。
しかし、良心に目覚めてヴォルデモートに反抗するマルフォイを、ヴォルデモートはあっけなく殺してしまいます。良心に惑わされる人物は、悪の帝王にとって、不潔なゴキブリにも等しいのですからね。邪魔だとばかりにパシッとイチコロでしょう。
哀れ、マルフォイ君。
 
しかしここで、もうひとつの“寝返り”が発生します。
スネイプです。
スネイプはおそらく、ヴォルデモートの手下を演じながら、ヴォルデモートの弱点を探る二重スパイの役柄だと思われます。ヴォルデモートの近くにいて、隙を見て必殺の一撃をヴォルデモートに与えようと、機会をうかがっていました。
マルフォイのおかげで攻撃の矛先が乱れた今こそ好機、ヴォルデモートをハーマイオニーから離脱させて殲滅する、そんなチャンスをスネイプはつかむのですが……
 
残念なことに、スネイプはヴォルデモートに決定的な攻撃をかける寸前に、マルフォイを救うことを優先してしまうのです。
無情にも死をもたらされたマルフォイの魂を、スネイプは全力を振り絞って守ります。おそらく、身を挺してヴォルデモートの死の一撃を引きうけてやり、自分の生命と引換えにしてマルフォイに新たな命を与えてやるのでしょう。
 
マルフォイは、嫌われ者の敵役のままバッサリとやられてしまうのではなく、最後に救われなくてはなりません。いっときは人生を誤った少年の心に更正の道を与えることが、全世界の良い子の読者たちの期待でもあるはずなのですから。
 
マルフォイのかわりに、スネイプが殺される。
“先生”として生徒を守りきったスネイプの行為はまさに聖職の礎。マルフォイは涙して、正しく生きることを誓うのです。
 
 
● ヒーローの自己犠牲……ハリーが失ったもの。
 
ヴォルデモートが憑依したハーマイオニーと、防戦一方のハリーとの闘いはいよいよ佳境を迎えます。おそらくロン・ウィーズリーもハリーとともに、ハーマイオニーからヴォルデモートを追い出そうとして戦いますが、とてもかないません。
 
戦力を使い果たして、敗北の一歩手前を自覚したハリーは、ついにありったけの魔法力を振り絞って、渾身の賭けに出ます。
みずからを暗黒の魔法へとゆだね、心を開放して、ヴォルデモートを受け入れるのです。
ハリー自身の肉体と精神の中へと。
これはある種の取引です。ハリーはヴォルデモートに提案するのです。「その女の子と僕と、どっちが欲しい? 僕は彼女を救いたい。だから今なら、僕をあげるよ。僕をしもべにすればいいさ」と。
 
ヴォルデモートは、迷わずハリーを選びます。実体なき魂である自分の乗り物として、魔法の総合力では、ハーマイオニーよりもハリーの方がはるかに優秀なのですから。
 
ヴォルデモートはハーマイオニーを捨ててハリーに憑依し、ハリーを支配します。
ハリーの額の傷痕は恐怖の輝きを放ち、勝利を得たヴォルデモートは勝鬨の声を上げます。
しかしそこで……
ハリーは残った最後の意志で、決死の反撃をかけるのです。
それは、自滅の呪文。
 
みずからの中にヴォルデモートを閉じ込めたまま、ハリーはみずからの意志で、みずからを殲滅しようというのです。
 
ハリーという罠から脱出しようと、暴れ狂うヴォルデモート。
しかし、脱出はなりません。ヴォルデモートはこの世に復活するとき、ハリーの血を摂取していました。ヴォルデモートの血はハリーの血。そのDNAはハリーのDNAにがっちりと適合させられ、からみつかれてしまったのです。
 
ヴォルデモートの魂を自分の中にくわえ込んだまま、しかしハリーも弱っていきます。彼は、最後の希望を親友ロンに託します。
「ロン、僕に代わって、僕に破滅の呪文を!」
 
ヴォルデモートと精神も肉体も強く一体化してしまったハリーの魂を救済する手段は、もはや、それしか残されていませんでした。
ロンはぼろぼろと涙をこぼしながら、ハリーに最後の引導を渡す呪文を唱えます。
ハリーは死にました。宿敵ヴォルデモートを道連れにして……
 
 
● そして、大切なものと引き替えに、ハリーが得た人生。
 
ハリーは死にましたが、魂はまだ滅びていませんでした。
彼の魂は、生と死の境の世界で、両親の魂と出会います。
じつは、ハリーの中には、両親の魂のかけらが封じられていたのです。その封印のしるしこそが、ハリーの額の傷痕でした。
 
両親は語ります。ヴォルデモートの不幸な悪の魂は、私たちが引きうける。ハリー、きみは生きなさい。生きかえる代償として、きみは大切なものを失う。これからの人生は厳しいだろう。けれど、生きなくてはならないよ。生きなさい……と。
 
(ご都合主義であろうが何であろうが、これは絶対に必要な展開なのです。なぜならば、このお話はキリスト教文化圏の産物。キリスト教では自殺が禁じられており、だからハリーの自爆的最期は、修正されなくてはならないのです)
 
(このとき同時に、すでに亡きダンブルドア校長の魂も現れて、ハリーを励ましてくれることでしょう)
 
ハリーはよみがえります。
歓喜するロン、ハーマイオニー。
しかし、ハリーは自分の生命を取り戻すかわりに、大切なものを手放したことを自覚します。
それは、魔法の力
もう、いくら杖を振り、呪文を唱えても、大山鳴動どころかネズミ一匹出てきてくれません。
ハリーはこのときより、魔法使いではなく、マグルとして生きることを宿命づけられたのです。
魔法力を失ったハリー。それは、この物語のスタートで、びくびくと縮こまって生きていた、無力なハリーに戻ることを意味するのでしょうか。
そうではありません。
ハリーは魔法の闘いを経て、成長しました。無二の親友も得ました。
強い意志の力も。
そして最後に、彼が得たものは……
 
魔法に頼らなくても力強く生きていける自分だったのです。
 
ハリーは歩みだします。
魔法を信じていた子供の自分を脱ぎ落とし、大人になるために……
魔法使いとしてなすべきことを成し遂げて、そして再びゼロに戻って歩みはじめるハリー。その額からは、ヴォルデモートとの宿縁を刻み、ハリーを魔法の世界へといざなった、あの傷痕がきれいに消え去っていました。
 
そして……
物語はこの1行で締めくくられます。
 
そこに、傷はない。……There is no scar.
 
 
 
● 当たらないことを祈って。
 
以上は、私の個人的かつ主観的な、創作的妄想による予測です。
当たらないことを祈っています。読者が予測できる範囲で終わる物語は、やはり、おもしろさに欠けるでしょうから。
願わくば、私の予測をはるかに越えた、意表をつく結末に出会えますように。
ハリーのそれからが、楽しみです。
                              (2007.06.24)
 
 
 
 
 


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