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東南アジアで相次ぐ賃金の大幅アップ      トップへ

労働組合が政治を動かす

                   121206連合通信・隔日版より転載

 経済成長が堅調な東南アジアで、最低賃金が近年、大幅にアップしている。インドネシアの2013年の最低賃金は対前年比44%引き上げられ、タイは全国一律の水準が設けられた。生活できる賃金を求める労働組合の運動が、政治を動かしているのが大きな特徴だ。

 国際労働財団(JILAF・高木剛理事長)が11月28日に行ったシンポジウムでの発言をもとに各国の事情を紹介する。

   ●全国ストで勝ち取る

  インドネシアは13年の最低賃金を首都ジャカルタで月額220万ルピア(約2万2000円)に引き上げる。対前年比44%、前々年比では71%という急激な伸びをみせている。

  決定的な役割を果たしたのが、労働組合による3波もの全国闘争だ。首都ジャカルタで政府へのデモを7月と11月に行い、10月には全国ストを繰り広げた。

  インドネシア労働組合総連合金属労働者連盟のオーリア・ハフィズ・オスマン副委員長によると、90年代後半の通貨危機で急激なインフレに見舞われたが、外国資本を招くための賃金抑制政策により、物価上昇に見合う最賃の引き上げが行われず、国民の購買力が非常に弱くなったという。

  大規模な闘いの末の大幅アップ。だが、労組の要求だった279・9万ルピア(約2万8000円)には届かない。一層の引き上げへ運動を強める構えだ。

  オスマン副委員長は「ジャカルタでは人間らしい生活をできる水準ではない」「労働大臣との交渉が整わなければ、デモや抗議活動、全国ストを呼びかける」と語る。

    ●非正規が恩恵受ける 

  タイは来年から全ての県で日額300バーツ(約801円)に統一する。既にバンコクなどでは、対前年比40%増の300バーツに引き上げられている。

  この引き上げで「非正規労働者の大部分が恩恵を受ける」と話すのは、タイ自動車部品・金属労働者組合のトライラット・ジュージャローン執行委員。特に、労組が求めていた「全国一律」を歓迎する。

  だが、タイも満足な水準ではない。同委員によると、99年から2010年までの間の最賃の伸び率は1・8%。名目GDP成長率(6・8%)、インフレ率(平均2・3%)を下回るなど、働く者への配分増は急務だ。1人が生活するのに労組が必要と試算する費用は日額462バーツ(1234円)。生活できる最賃をめざす。

  ●引き上げがトレンドに

 マレーシアは最低賃金制度を新設し、来年1月に施行する。政府は、労組の最賃新設要求を長年拒否し続けてきたが、政策転換をアピールしたいナジブ首相の主導で実現した。

  額は、政治経済の中心であるマレーシア半島で月額900リンギット(2万4219円)。国内平均賃金の約半分の水準だ。マレーシア労働組合会議のアルフレッド・イルティアラジョ労使関係委員会書記は「妥当な水準」としつつ、「スターティング・ポイント(出発点)に過ぎない。物価に応じたものを要求していく」と今後の引き上げに意欲をみせた。

  ベトナムでもこの間の引き上げにより、現在は首都ハノイで月200万ドン(7880円)。09年との対比では67%の伸びだ。政府は2015年までに最低限の生活を保証する賃金の実現という目標を掲げている。

  一方、日本ではどうか。最賃額は先進国中最も低く、平均賃金の3割前後の水準にとどまる。貧困解消の仕組みとして機能していないのが現状だ。

  低賃金の国に企業が流れるグローバル時代。生活できる最賃規制の整備は今や国際的な課題となった。2020年までに「全国平均1000円」を掲げた政労使合意の実現へ、アジア新興国の見本となるルールづくりが求められる。

解雇規制の緩和と最低賃金制の改革

 その行き着く先

                    121204連合通信・隔日版より転載
日本維新の会(石原慎太郎代表)は1129日に発表した衆院選公約で、「労働市場の流動化」を打ち出しました。具体的には解雇規制の緩和と最低賃金制の改革です。いずれも労働者の側ではなく、企業の側に立った政策といえます。
 日本には解雇を規制する強い法律はありません。5年前にできた労働契約法も「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇」を無効としているだけ。裁判判例の大枠を法律化したもので、整理解雇のときに裁判で焦点になる「4要件」(解雇の必要性や回避努力の有無など)さえ、法律には書かれていないのです。
 合理性があろうがなかろうが、現実に電機業界などでリストラ解雇がまかり通っています。労働者が泣き寝入りして裁判に訴えなければ、それまでです。
 いまでも緩い解雇規制をこれ以上緩和してどうするというのでしょう。

  企業負担は軽減

 最賃制については、当初の公約で「廃止」と明記されていました。その後に「市場メカニズムを重視した最賃制への改革」に変えました。給付付き税額控除で所得保障するのだといいます。給付付き税額控除は米国などで行われていますが、要するに困窮した低所得層への補助金です。
 最賃制との組み合わせで実施するなら分かります。でも、最賃の働きを弱めて補助金を出すのは、企業の負担を軽くして国家財政の支出を増やすということです。「財政健全化を図る」という政策との整合性も問題になりそう。 
 日本維新の会は「企業減税」も公約しています。「日本を賢く強くする」と言いますが、強くなるのは企業だけ。働く者の立場は弱くなるばかりです。


生活保護引き下げに反対 餓死や孤立しを増やす恐れ
                      121108連合通信・隔日版より転載

 生活保護制度の「最低基準」をめぐる攻防がヤマ場を迎えている。7月時点で保護受給者数が212万人と過去最多となるなか、政府は基準引き下げに向けて検討を進めている。一方、日本弁護士連合会(日弁連)や市民団体などは「基準を引き下げれば餓死や孤立死が増える」と反発。引き下げ阻止の運動を強めている。

  ●生活保護予算、仕分けへ

 「生活保護予算が増えているなか、より効果的な制度改革に向けて新仕分けで専門家も入れて議論したい」。岡田克也副総理は11月5日、都内で記者団にこう語り、2013年度保護予算の概算要求3兆円(国庫負担分)を16日から始まる「新仕分け」の対象にする考えを示した。「受給者の自立を妨げる仕組みや必要性の薄いものがあれば見直す」とも述べ、予算削減に意欲を見せた。
 昨年11月の「政策提言仕分け」では、保護基準が年金や最低賃金の水準を上回っていることに「受給者の就労意欲を削ぐ」などの意見が相次ぎ、基準引き下げを求める提言が出された。今回も同じ結論になる可能性が高い。

  基準見直し議論進む

 政府は引き下げへの環境づくりを着々と進めている。7月に発表した「生活支援戦略」の中間まとめは、保護受給者の生活水準を下回る低所得層がいることを理由に見直す方針を表明。年内に結論を出す方向で、厚生労働省の審議会(保護基準部会)で見直し議論を進めている。
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 来年度予算編成の概算要求に関する8月の閣議決定では、保護予算の「合理化・効率化に最大限取り組み、極力圧縮に努める」と明記。財務省は10月、医療費の一部自己負担導入の検討を求めた。

  政府は政策責任果たせ

 こうした動きに日弁連は危機感を強めており、11月6日には都内で保護基準の引き下げについて考えるシンポジウムを開いた。貧困問題対策本部の猪俣正事務局長は「日本の生活保護の捕捉率はわずか2〜3割。(制度を利用していない)基準以下の人がたくさんいるなか、保護基準の方が高くなるのは当然だ」と苦言。「基準の引き下げは、貧困に苦しむ人を一層窮地に追い込み、餓死や孤立死が増える」と警鐘を鳴らした。
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 保護利用者の多くは高齢者や傷病者。「働ける」とされる年代についても、失業や低賃金雇用で生活保護に頼らざるを得ないのが実態だ。大阪市立大の木下秀雄教授(社会保障法)は「保護受給者が増えているのは年金や医療、雇用が充実していないからだ。そうしたところに手当てをせずに政府が基準を引き下げるのは無責任だ」と批判した。
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 生活保護制度をめぐっては0711月、舛添要一厚労大臣(当時)が基準引き下げを明言したが、日弁連や当時野党だった民主党が反対して、断念させた経緯がある。今回は、日弁連は各地方弁護士会に引き下げ反対の声明を呼びかけ、12月に市民大集会を開く。学者や弁護士の有志でつくる「STOP!生活保護基準引き下げ」アクションも署名活動を展開中だ。猪俣事務局長は「年末にかけてが正念場だ。幅広い連携でストップさせる」と話している。

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欠陥だらけの労働者派遣法改正案

労働政策審議会は2010年2月24日、政府に労働者派遣法改正案(法案要綱)を妥当とする答申を出しました。しかし、その内容は、派遣労働者保護のために以下のような大きな欠陥を抱えており、抜本修正が求められます。

1、「常用型派遣」を例外に

 製造業への派遣は原則禁止としていますが、派遣されていない時でも派遣会社が給料を支払う「常用型派遣」は認めています。製造業派遣のうち約3分の2が「常用型」であり、しかも、現行法の「常用型」の定義はあいまいで、短期雇用契約の繰り返しで1年を超えたり、1年の雇用見込みを口頭で示すだけで「常用型」とみなされます。派遣先が派遣会社との契約を解除すれば「常用型」でも76.7%の労働者が解雇されているのが実態です。

2、「専門業務」26を例外に

 登録型派遣を原則禁止としていますが、現行の26の「専門業務」をそのまま例外としています。しかし、現状でも26専門業務に従事する派遣労働者は約100万人に達し、その半数は「事務用機器操作」(パソコン操作)や「ファイリング」(書類整理)の名目で働かされています。それらは今では専門性が高いとはいえず、鳩山首相も「果たしてこのままにしていいのか、しっかり検討する必要がある」と表明しているほどです。

3、日雇い派遣禁止にも例外

 日雇派遣の禁止についても例外を設けました。日雇労働者とは、「日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者」としていますが、「日雇労働者を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務」を例外として認め、抜け穴をつくっているのです。

4、「みなし雇用制度」も抜け穴

 禁止業務への派遣や偽装請負などの違法派遣があった場合、派遣先が派遣労働者に労働契約を申し込んでいたものとみなす「みなし雇用制度」が導入されていますが、「知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない」として、故意・過失要件を加え、適用範囲を不必要に狭めています。しかも、短期のみなし雇用を容認し、「期間の定めのない契約」としていません。さらに、当該派遣労働者を就労させるべき旨の勧告、あるいは勧告に派遣先企業が従わなかったときにその旨を公表するだけで、実効性が担保されていません。

5、「均等待遇」を明記せず

 派遣労働者と派遣先の労働者の待遇については、欧州では当たり前になっている「均等待遇」が明記されず、「均衡を考慮した待遇」「配慮」に止めています。これでは「考慮した」と言うことで済まされ、派遣労働者の差別待遇を是正するには不十分です。

6、派遣先企業の責任なし

 派遣先企業の責任は大きく抜け落ちています。派遣先企業が団体交渉に応じないことが、派遣労働者の問題解決の大きな障害になっており、団交応諾義務も含め、派遣先企業の責任をきちんと明記すべきです。

7、長すぎる猶予期間

 施行期日は公布の日から6ヶ月以内とされていますが、製造業派遣や登録型派遣の原則禁止などについては公布の日から3年、登録で問題のないものは5年まで実施を先延ばししています。これらの猶予期間は「実質的な先送り」とも言われています。