労働組合が政治を動かす
国際労働財団(JILAF・高木剛理事長)が11月28日に行ったシンポジウムでの発言をもとに各国の事情を紹介する。
●全国ストで勝ち取る
決定的な役割を果たしたのが、労働組合による3波もの全国闘争だ。首都ジャカルタで政府へのデモを7月と11月に行い、10月には全国ストを繰り広げた。
インドネシア労働組合総連合金属労働者連盟のオーリア・ハフィズ・オスマン副委員長によると、90年代後半の通貨危機で急激なインフレに見舞われたが、外国資本を招くための賃金抑制政策により、物価上昇に見合う最賃の引き上げが行われず、国民の購買力が非常に弱くなったという。
大規模な闘いの末の大幅アップ。だが、労組の要求だった279・9万ルピア(約2万8000円)には届かない。一層の引き上げへ運動を強める構えだ。
オスマン副委員長は「ジャカルタでは人間らしい生活をできる水準ではない」「労働大臣との交渉が整わなければ、デモや抗議活動、全国ストを呼びかける」と語る。
この引き上げで「非正規労働者の大部分が恩恵を受ける」と話すのは、タイ自動車部品・金属労働者組合のトライラット・ジュージャローン執行委員。特に、労組が求めていた「全国一律」を歓迎する。
だが、タイも満足な水準ではない。同委員によると、99年から2010年までの間の最賃の伸び率は1・8%。名目GDP成長率(6・8%)、インフレ率(平均2・3%)を下回るなど、働く者への配分増は急務だ。1人が生活するのに労組が必要と試算する費用は日額462バーツ(1234円)。生活できる最賃をめざす。
額は、政治経済の中心であるマレーシア半島で月額900リンギット(2万4219円)。国内平均賃金の約半分の水準だ。マレーシア労働組合会議のアルフレッド・イルティアラジョ労使関係委員会書記は「妥当な水準」としつつ、「スターティング・ポイント(出発点)に過ぎない。物価に応じたものを要求していく」と今後の引き上げに意欲をみせた。
ベトナムでもこの間の引き上げにより、現在は首都ハノイで月200万ドン(7880円)。09年との対比では67%の伸びだ。政府は2015年までに最低限の生活を保証する賃金の実現という目標を掲げている。
一方、日本ではどうか。最賃額は先進国中最も低く、平均賃金の3割前後の水準にとどまる。貧困解消の仕組みとして機能していないのが現状だ。
低賃金の国に企業が流れるグローバル時代。生活できる最賃規制の整備は今や国際的な課題となった。2020年までに「全国平均1000円」を掲げた政労使合意の実現へ、アジア新興国の見本となるルールづくりが求められる。
労働政策審議会は2010年2月24日、政府に労働者派遣法改正案(法案要綱)を妥当とする答申を出しました。しかし、その内容は、派遣労働者保護のために以下のような大きな欠陥を抱えており、抜本修正が求められます。
1、「常用型派遣」を例外に
製造業への派遣は原則禁止としていますが、派遣されていない時でも派遣会社が給料を支払う「常用型派遣」は認めています。製造業派遣のうち約3分の2が「常用型」であり、しかも、現行法の「常用型」の定義はあいまいで、短期雇用契約の繰り返しで1年を超えたり、1年の雇用見込みを口頭で示すだけで「常用型」とみなされます。派遣先が派遣会社との契約を解除すれば「常用型」でも76.7%の労働者が解雇されているのが実態です。
2、「専門業務」26を例外に
登録型派遣を原則禁止としていますが、現行の26の「専門業務」をそのまま例外としています。しかし、現状でも26専門業務に従事する派遣労働者は約100万人に達し、その半数は「事務用機器操作」(パソコン操作)や「ファイリング」(書類整理)の名目で働かされています。それらは今では専門性が高いとはいえず、鳩山首相も「果たしてこのままにしていいのか、しっかり検討する必要がある」と表明しているほどです。
3、日雇い派遣禁止にも例外
日雇派遣の禁止についても例外を設けました。日雇労働者とは、「日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者」としていますが、「日雇労働者を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務」を例外として認め、抜け穴をつくっているのです。
4、「みなし雇用制度」も抜け穴
禁止業務への派遣や偽装請負などの違法派遣があった場合、派遣先が派遣労働者に労働契約を申し込んでいたものとみなす「みなし雇用制度」が導入されていますが、「知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない」として、故意・過失要件を加え、適用範囲を不必要に狭めています。しかも、短期のみなし雇用を容認し、「期間の定めのない契約」としていません。さらに、当該派遣労働者を就労させるべき旨の勧告、あるいは勧告に派遣先企業が従わなかったときにその旨を公表するだけで、実効性が担保されていません。
5、「均等待遇」を明記せず
派遣労働者と派遣先の労働者の待遇については、欧州では当たり前になっている「均等待遇」が明記されず、「均衡を考慮した待遇」「配慮」に止めています。これでは「考慮した」と言うことで済まされ、派遣労働者の差別待遇を是正するには不十分です。
6、派遣先企業の責任なし
派遣先企業の責任は大きく抜け落ちています。派遣先企業が団体交渉に応じないことが、派遣労働者の問題解決の大きな障害になっており、団交応諾義務も含め、派遣先企業の責任をきちんと明記すべきです。
7、長すぎる猶予期間
施行期日は公布の日から6ヶ月以内とされていますが、製造業派遣や登録型派遣の原則禁止などについては公布の日から3年、登録で問題のないものは5年まで実施を先延ばししています。これらの猶予期間は「実質的な先送り」とも言われています。