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46    20100111『寅年はタイガー(3)』

20100110
 
フェルディナント(後にエレファント)。写真にカーソルを置くと別カット。
 
 
 
寅年はタイガー(3)
 
 
 
フェルディナント。
名のとおりフェルディナント・ポルシェ博士の執着と狡猾が生みだした怪物。
第二次大戦たけなわの独逸第三帝国。
ソ連戦車を確実に打ち破る無敵戦車のボディとなるべく
ポルシェ博士が心血注いで開発した車台。
(すなわち、砲塔なしの、エンジンと駆動装置と操縦席の部分)
しかし他社製ボディとの競争に敗れて不採用。
虎すなわちティーゲルTになりそこねてしまった。
とはいえ、ちゃっかり者のポ博士。
総統のお気に入りだった地位を利用してか、
不採用になる前に、車台のみ先行生産90輛の発注を獲得していたのだ。
「できちゃったものは仕方がない」と頭をかいて済ませたのか。
婚前交渉でできちゃったのに、できちゃった婚をしそこねた結末みたいに、
とにかく90輛だけはできちゃって、この世に生を受けた。
どことなく、イタリア的脳天気というか無責任の香りも漂うが……
砲塔なしの車台90輛の面倒をみるはめになった
独逸の戦車工房は困ってしまう。
この車台、どうしよう。
そこで頭のいい誰かが閃いた。(ポ博士自身かもしれないが)
大砲大好きの独逸が誇る88ミリ高射砲。
あれを対戦車砲に改変したものがある。
そいつを積むのにぴったりじゃないか、と。
本来タイガーTになるべく設計された車体だが、
そのエンジン位置を変え、とってつけたように巨大な戦闘室を載っけて、
にょっきり生やした88ミリ(アハト・アハト)。
ついでと言っては何だけど、前面装甲の厚みは前代未聞の200ミリ。
なんと二十センチもの厚さの鉄板を取り付けてしまった。
ちょっとした戦艦なみである。
翌年、独逸戦車の最高峰を極めるべく誕生する
ケーニヒスティーゲルに比べて、
速力は遅いが、防御や火力は遜色ない。
かくして新式の駆逐戦車、いっちょ上がり。
 
後日、小改造したフェルディナントは「エレファント」の名を頂戴したが、
それはまさに、必殺の88ミリを「象の牙」に例えたのではないだろうか。
そして、下半身は博士お手製の「できちゃったタイガー」。
マッドサイエンティストの連れ子というべきか、虎の体に象の牙、
ある意味、ポ博士のトンデモ・ナンセンスが生みだした、
虎と象のキメラ怪獣とも言えるだろう。
 
かくして1943年7月。
世にクルスク大戦車戦とも呼ばれる、ツィタデル作戦発動。
鉄の嵐吹き荒れる東部戦線のど真ん中に、
90輛のフェルディナントが投入される。
はるかクルスクをめざす絶望的な激戦の先頭に立ち、
翌年、西部戦線に現れる米軍のシャーマンよりも、
はるかに強力なソ連戦車T34の大群を引き受けて、
必殺の88ミリで、次々と芋刺しにしたものと思われる。
だが、一か月して生き残ったフェルディナントは50輛に半減。
ソ連側の記録では、鈍重なフ戦車は歩兵の肉薄攻撃によって、
あっけなく壊されたことになっているが、
最近の資料では、むしろその獅子奮迅ぶりが、
敵味方ともにサプライズをもたらしたことが判明してきた。
のちの戦闘では、わずか2輛のフ戦車で、
およそ50輛の敵戦車を撃破したという。
フェルディナント、ただものではなかったのだ。
ポ博士はやはり、天才だったのだろうか。
 
その後、東部戦線を渡り歩いたフ戦車たちは、
一輛また一輛と戦場についえていったが、
連合軍が独逸の首都伯林へせまる1945年4月でも、
まだしぶとく生き残ったフ戦車が、
近郊で戦っていたと伝えられる。
この世に生まれた、たった90輛の兄弟たちだが、
それでも消滅することなく、
今も戦車博物館に残るものがいるということは
フェルディナントの個性の凄さを物語るのであろう。
 
フェルディナントのデザインは、タイガーの兄弟たちと異なった
独特の魅力がある。
車体前面のエンジンと操縦部の複雑形状は、蒸気機関車の先端を思わせる。
主砲の防楯は平らな鉄板で、騎士の楯を思わせる。
戦闘室の傾斜した壁面は、中世の城郭を思わせる。
とはいえ、その形は、昔の霊柩馬車にも似ているような。
そう、なんとなく、クラシック、
鉄と蒸気の時代、19世紀の香りを残す、古強者の鎧武者。
20世紀のドン・キホーテというべきか。
誰が何と言おうと、世界イチの無敵戦車を作るのはワシしかおらんと、
この世もあの世も頑固一徹わが道を進みまくる
ポ博士の妄想が、周囲の意見や場の空気などあっさり無視して、
具現化したものといえまいか。
鋼の帝国・独逸の数ある戦車の中で、一番、墓場から化けて出てきそうな
ゲゲゲ的面構えのメカであろう。
 
どこまでも、ちゃっかり者のポ博士、
ケーニヒスティーゲルの砲塔も設計しては、
50輛で他社製に換えられてしまい、
戦争末期に登場する最強の虎、ヤークトティーゲルにも、
なぜかポルシェ型のシャーシを10輛だけ使って
あとは他社製に換えられてしまうなど、
とことん虎に執着して、口出ししては、スカを食らっているくせに、
無視できそうで無視できない、特異なキャラの持ち主だったようである。
 
タイガーの陰にポルシェあり。兵器の陰に狂気あり。
ティーゲル・シリーズの一家の中で、常にレア物の極道を歩み、
なにやらマッドな霊気をふりまくポ博士の姿も、
タイガー伝説の神秘性に一役買っているようである。
 
 
 
更新日時:
2010/01/11

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Last updated: 2010/1/11

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