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42    20090811『すかいぽーく』

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すかいぽーく
 
 
ダグラスA−4E/Fスカイホーク。攻撃機。
小ぶりなボディに、単発の太いエンジン。私の好きなデルタ翼。
初期型はスリムだったけど、いろいろ改造が加えられて、
いつのまにか、ちまちまずんぐりの、ちびメタボ。
ホークというよりは、豚のもも肉が空飛ぶみたいな、
いかにも強くなさそうなシルエット。
この機体の造形は、しかし見惚れる何かがある。
寿命は長い。初飛行は1954年。
以来2003年までの半世紀、米国空軍で働いて、
今でも南米やアジアの国々で現役という。
なんといっても特徴は、小さいこと。
大戦中の国産戦闘機・零戦21型と並べてみよう。
その全長は零戦の横幅よりも短く、
その横幅は零戦の全長よりも短い。
ち、小さい……
翼を折りたたまなくても空母のエレベータにちょこんと載せられる、
便利な艦載機として、重宝されたとか。
小さい機体は、だから軽い。
大戦中の単発プロペラ攻撃機でも、4トン以上するものがあるのに、
スカイホークの自重は約4.5トン。
これまた軽く、ゆえに低燃費を実現した、
日本車みたいな機体だったのだ。
ビッグでヘビーな兵器が大好きなアメリカ国民には、
人気いまいちだったようで、
ファントムやイーグルやトムキャットやファルコンが颯爽と風切る後ろで、
もたもたと飛ぶ背景扱いのキャラにされてしまった。
『トップガン』では訓練標的機として“やられ役”に回り、
戦闘機アクション映画でも、たいてい敵役で落っこちたり、
味方役でも敵に落とされたり、
フォークランド紛争ではアルゼンチン側で本当にバタバタ落とされて、
その他大勢の脇役に甘んじること半世紀、
一向に日の目を見ぬまま、消え去る運命かと思われる。
しかし、しかし……
半世紀、飛び続けてきたのは伊達じゃない。
約4.5トンの小さな身体に、強力なJ52エンジンを積んだものだから、
約4.5トンの機外ペイロードがOKという、力持ち。
なんと、自分の体重と同じ荷物を背負って、空を飛べるのである。
失敬ながら、いまどきの女の子にはもてそうもない、
切ないチビデブの体型だけど、
きっと、戦後軍用機界随一の働き者だったんだなあ。
初期型から進化して、背中にラクダのコブみたいな
アビオニクス・ベイを装着し、本当にラクダみたいに、
世界の空を地道に、愚直に、汗水たらしてこつこつと
飛び続けた、そんなヒコーキなのかもしれない。
スカイホークの性能を、見る人は見ていたらしく、70年代から80年代、
曲技チーム『ブルーエンジェルス』に採用され、
主役の座に輝いたことがある。
コンパクトで軽い機体に強いエンジン、操縦性も優秀だったのだ。
チビデブな印象とはいえ、コクピットから背中のコブへ、
そして垂直尾翼へと続くラインのカーブは絶妙で、
英国風のエレガンスすら漂う。
武骨なアメリカ機の中で、珍しくソフトな造形。
目的と機能が調和して、カッコをつけることなく、黙々と働くマシンの
ひたむきな美しさ。
しかしスカイホークは、血まみれのアタッカー。
ずっしりと爆弾を抱いて空母を飛び立ち、
ベトナムの人々を焼き払った殺戮者。
それとも地域紛争で、独裁者の手先となって、
無辜の市民を虐殺したか……
その翼の下、子供も老人も、数知れずむごたらしく
苦しみ死んでいったことだろう。
働き者であるがゆえに、花形の戦闘機の影となって、
ヒトが見たがらぬ、語りたがらぬダーティな汚れ役を引き受けた攻撃機。
その数、半世紀で三千機にせまるという。
悲しいことながら、多分、スカイホークが現役であることは、
人類にとって不幸なことだったのだ。
やがて、空でのすべての役割を終えたスカイホークと、
いつか地上の博物館で出会いたい。
そのとき、スカイホークは、何を語ることだろう。
かつて蒼穹の天使となって……
つかのま、平和な空を舞った幸せな夢だろうか。
 
 
更新日時:
2009/08/13

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Last updated: 2010/1/11

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