Essay
日々の雑文


 1   19900800●雑感『佐渡コピーは語る』
更新日時:
2006/09/30 
900800
 
路上観察レポート 
 
 
佐渡コピーは語る 
 
 
 
 
 
 直江津を経由して佐渡へ向かうことにした。妻と二人の旅である。直江津と佐渡、といえば芭蕉の句
 
 荒海や 佐渡によこたふ 天河
 
なのだが、この句は、文芸作品というだけでなく、私達に佐渡という島のイメージを焼き付けてしまう、力強いコピーでもある。すると、妻が車窓のかなたを指差した。おそらく地域の下水処理場であろう、その建物に、
 
 子に遺す 大きな遺産 下水道
 
と大書してある。歴史的な名句は句碑として観光地に残るが、こういった身近な看板のコピーもまた、土地のイメージを私達に与えてくれる言葉のパフォーマンスである。
 そこで、佐渡・小木港に上陸した私達は、定期観光バスの車中から、道端の看板を飾る「佐渡コピー」を探してみた。まず、船着場の向かい、簡易郵便局の隣に、
 
 新潟(フルサト)に おいしい米あり コシヒカリ
 
とある。外来者にはやや意外だが、佐渡は米どころなのである。ガイド嬢によると、当地の米の生産量は年間五十五万俵もあり、島の人口八万二千人の需要を充たして、島外に「輸出」されている。お米にちなんだ看板コピーは多くて、このほかに
 
 かみしめよう お米の味を まごころを
 
と、基幹産業としての米作を印象づけるものがあり、また行政からのハードなお達し作品
 
 米は全量 正規のルートで 売り渡せ
 
という厳しい表現もある。食料行政の最前線から、緊迫した空気が伝わってくる。一方、車のドライバーに、子供の飛び出しに注意せよと呼び掛ける標語も、この地では
 
 朝ごはん 食べて飛び出す 元気な子
 
となるのである。
 米どころ、すなわち酒どころである。島内七カ所の酒蔵の内、四カ所が集まる真野町では「アルコール共和国」を宣言して、佐渡の地酒をアピールしている。その近辺では
 
 年中無休 無料実施 酒蔵見学
 
が目立つ。とはいえマイカーの観光客に酔いどれ運転を奨めているのではない。
 
 事故を呼ぶ 酒が疲労が スピードが
 
とか、
 
 飲酒運転 国民の敵
 
と、酒好きのドライバーを戒める作品も並べて、ちゃんとバランスを取っている。
 佐渡、といえば金(きん)である。妙見山から大佐渡スカイラインを下ると金山跡があり、「ゴールデン佐渡」という会社が経営し、古い坑道を観光用に整備してある。坑内にはコンピュータで動く人形を配し、江戸時代の採掘風景を再現してある。薄暗くひんやりとした坑道を歩くのだが、ふと天井の梁に目をやると、
 
 スリが狙う あなたの尻ポケット
 
と書いてある。金鉱に目がくらんで、我が身の懐中を忘れていた私達は、あわてて財布の金を確かめる。世俗的な欲心にクギを刺す、心にくいコピーである。
 鉄道がないので、島の交通はもっぱら車に頼る。美しい島の環境を守り、交通事故を防ぐために、ドライバーの目をキャッチする看板コピーにも独特の味わいがある。
 
 車窓から ゴミポイやめてね 佐渡の道
 
だとか、めずらしく関西弁で、
 
 クリーン・ザ・さど 捨てたらア・カン
 
とくれば、関西人として空き缶のポイ捨てマナーを反省せずにおれない。表現はソフトであるが、かえって説得力がある。事実、佐渡の道はきれいで、ゴミは見受けられない。次は、いかにも佐渡らしいマナー三部作、
 
 スピード違反一0000円
 佐渡わかめ八00円
 
この作品に続いて、
 
 追越し違反九000円
 佐渡するめ五00円
 
真面目な主題に、さり気なく土地の名産品を詠み込む心配りがうれしい。いささか唐突な語感がしないでもないが、交通違反で罰金を食らうよりは土産物をお買いなさい、と諭す親心にはうなずいてしまう。最後に、
 
 美人多し スピード落とせ
 
と盛り上げることで、ドライバーの下心まで見事につかんでいる。「佐渡コピー」の代表作であろう。
 さて、尖閣湾に接して「達者」という町があり、遊覧船が出ている。地名の由来は省略するが、町に近付くと、
 
 もうすぐ達者です
 
と、親切な表示に迎えられる。町の入り口では、
 
 ここが達者です
 
と繰り返される。思わず元気のでるコピーである。遊覧船の中で流れる観光アナウンスのしめくくりも、もちろんこうである。
 
 それではみなさま お達者で
 
地名がそのまま、旅人へのメッセージに転化する好例といえよう。
 旅の終わりには、小木港近くの、電話会社の大看板に注目したい。
 
 ハァ〜 佐渡コール
 
これだけの短い言葉だが、主題は明快である。佐渡おけさの節回しに載せて、佐渡はいつもあなたを呼んでいるのである。
 
(コピーの文言に、筆者の記憶違いがありましたら、地元の皆様どうかお許し下さい)
 
 


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