君 へ 最初から、ろくでもない奴だと思ってた。 スカした面で、いちいち人を馬鹿にした発言しか吐かなくて、団体行動は乱すわ、サクラちゃんを泣かすわ、どこまで行けばそこまで傍若無人になれるんだよって感じだった。 そのくせお前はむかつくほどカッコイイ奴だったと俺は思う。 「よお、大丈夫かよ。ビビリくん?」 俺、根に持ってるんだかんな。この言葉。つーか、一番聞きたくない言葉だったぜ、これは。 お前だけ緊張なんて言葉を知らないみたいだった。 俺らの代のナンバーワンルーキーっていう自信がアイツを支えてた。 最初の任務なんか、緊張して手が動かなかったのによ、俺は。サクラちゃんだって緊張してたし、涼しい顔で歩いてたのはお前だけだっつの。 白と戦った時、俺を庇った時、やっぱりテメェは最悪な奴だと思った。 勝ち逃げかよ。兄貴を殺すって言ったのは嘘なのかよ。 その面、歪めてやろうかって何度思ったかわからない。でも、お前はクールで、かっこよくて、割りといい所もある俺の友達だと思った。 何がお前とも戦いたい、だ。何がこの班も大切だ、だ。 俺ってばお前とかサクラちゃんとかみたいに、戦闘中冷静にもなれないし、馬鹿の部類に入ると思ってるけど。お前よりは遥かにマシな馬鹿だったんだな。 サスケへ。 ライバルだと思ってたのは、俺だけだったのか? 友達だと思ってあてにしてたのは、俺の勘違いでお前にとってはウザかったのか? 三人で任務をこなして生きていけると思ったのは、俺の甘さに過ぎなかったのか? 俺ってば、お前に助けられてばっかで。まだ一回も勝ててなくて。何も返してねえ。 転んだ時差し出されたお前の手が嬉しかった。もう、俺もお前も孤独じゃないんだと思った。 自分から手放してどうするんだよ。だからお前は馬鹿なんだよ。 それを間違ってたとは言わせねえぞ。笑顔だけ残して消えやがった!馬鹿野郎!! その面、今度こそ張り倒してやるから覚悟しやがれ。 ◇ ◆ ◇ 「お前は俺と違って落ちこぼれじゃないんだから」 ナルトがネジに言った言葉は、ボクから君に言っても、全然間違っていないように思えた。 忍者学校の時から、君はボクが欲しくてたまらなかったものを既に持っていたじゃないか。 君がボクをどう思ってたか、そんなのは知らない。同期だけど、ナンバーワンだった君と食べる事しか能がないボクとじゃ、何かの境界線があった。 それでもボクは、なんて強烈な存在なんだろうって思ってたよ。 触れたら切れそうな強さを持っている奴だなって。でも、悲しい奴だなって。 よくいのが、君のかっこよさを力説した。確かに君はカッコイイ。それじゃ駄目だったの? 笑っていたじゃないか。君は7班の中にいて、十分に強くなっていたじゃないか。 ボクの親友の初任務が、君を連れ戻す事だ。ボク達は実質追い忍になる。 こんな卑屈なことを考えるのはきっとボクだけだろうけど、里を抜けても君には選択肢が与えられてるんだよ。 例えばボクだったら、追い忍に殺されるのが末路だろう。君はそういうところでは、仲間が追いかけてきてくれるんだ。君と一緒に帰るために、手を差し伸べてくれるんだよ。 シカマルは厳しい顔だった。ボクは、彼にこんな顔をさせた君が少しだけ恨めしいのかもしれない。 ありきたりな言葉だけど、君は独りじゃないんだからね。 サスケへ。 シカマルに対しての憧れとは違う。でも、ボクは君みたいに強くなれたらと思っていた。 確かに昔は、近寄りがたくて悲しい影を背負っている陰気な奴だったけど。 中忍試験の時、本戦の時の君の強さは、本物に変わっていたのに気がついていなかったんだね。 君だけだよ、自分の存在を軽んじているのは。 木の葉の下忍の中で、君のポジションは君しか埋められないものになっているよ。皆が待ってる。里に組み込まれた仲間である君を待っている。 ナルトがへこんでたよ。サクラが泣いてたよ。三人組は誰が欠けても成り立たないんだよ。 力を抜きなよ。帰れる場所があるうちに、帰ってきなよ。そんな戻れない道に入っちゃ駄目だ。 ボク達の声が、手が。まだ君に届く範囲にあればいいのだけど。 ◇ ◆ ◇ 走りながら思う。この中で、お前が里を抜けた理由が一番わかるのは俺なのだろうと。 俺が彷徨ってきた闇は一族全てを失ったお前の孤独とは、相容れない。それでも、昔の俺と今のお前の差は憎むものが外にいるか、里の中にいるかの違いだけに思える。 この白眼。この呪い。俺が憎んでいた日向は里の内にあった。ただ、それだけだ。 中忍試験の時、それは不思議な光景だった。お前はナルトやサクラの中に溶け込んでいる、しかしお前の目だけは全く別の世界にいる。 写輪眼と白眼。復讐の闇を持つお前だけは、一番最初に目に付いていたのをよく覚えている。 お前の親友はお前を馬鹿だと言うだろう。しかし、どうしてかそれは必然だった予感もするのだ。 ―――必然は、永遠の必然ではない。 起こってしまった事は取り返しがつかないが、道を捻じ曲げる事が俺達には出来る。 俺はお前が羨ましかったのかもしれない。 俺を深淵から引き摺り上げたあの男が、ありったけの力を篭めてお前を追いかけるのが。 風を切る音が辺りに響く。白眼に、この行軍の行方は見えない。 それでも走るのは、可能性を捨てないために走るからだ。絡み合う無数の運命から、能動的に道を選ぶためだ。 誰の運命も他者の関与なくして決まらない。それこそ、お前が見失ったものだろうよ。 サスケへ。 写輪眼を馬鹿にされたくなくば、今一度後ろを振り返れ。 日向から派生したと言われるその目で、一番大切なものを読み取るがいい。 絆を追う、里の仲間たちの目を洞察しろ。その結果、お前がどちらを選ぼうと、どうでもいい。 俺はナルトから学んだ。欲しい物をこの手で掴み取る事を学んだ。 命ある限り選択し、走れ。サスケ、お前が欲する力は自分で掴むものだ。思い出せ。俺たちの行軍はお前にそれを思い出させることにあるのかもしれない。 断じて叫びはしないが、俺とお前は似ている。全ては分からないが、お前の悲痛、苦悩、そして暖かい日々への畏れを俺は知っているつもりだ。 復讐は虚しい。それでもお前はそれを選ばなくては行けない道にいるのか。 一時、お前のために走ってやる。出来れば、もう一度――― ◇ ◆ ◇ はっきり言わせてもらえば、俺は一生お前がわからないタイプの人間だと思う。 忍者学校の時も、お前の事は一族最後の生き残りの天才っていう有名人だって思ってて、すげーって思ってたけど一緒に遊ぼうとか思ったことねぇし。 もともと単純思考型の俺と、よく言えばクール、悪く言えばスカしてるお前じゃ謎ばっかだぜ。 この任務を受けた理由は三つある。 まず、自分勝手な理由は赤丸との新技を試すいい機会。二つ目は、ナルトとシカマルまでいなくなったらしゃれになんねえから、とりあえず戦力になろうと思った。 三つ目は―――誰にも言いたくないが、お前を放って置けなくなった気がする。 シカマルが言ってた。「サスケは特別仲のいいダチってわけでもないけど、仲間だ」って。 アイツは中忍で、お前は仮抜け忍で、俺たちが仮追い忍。俺たちは知らない間にこんな所まで来ている。 もう遊んでる時期は終わりで、お前はその時期さえ持っていなかったんだな。 くっだらないことで笑って、本気で教室で殴りあってイルカ先生に正座させられたり、そんな事もお前はしていなかった。 俺はお前の事を分かる気もないし、分かれない。 でも、俺、人を巻き込む能力すげーから。ネジとかだって楽勝だし。この行軍が終わったら、どんなに迷惑でも巻き込んでやるから。 絶対にそれが実現すると俺は信じている。 サスケへ。 何度でも言う、馬鹿野郎。お前って、クールだけど最大級の馬鹿。 ナルトが絶叫する気持ちには届かないかもしれないけど、俺もそう思う。 お前は俺たちに何も影響を与えてないとか思ってそうだけど、そりゃないぜ。お前みたいな強烈な仲間がごろごろ転がっててたまるかっつの。 仲間だと思うぜ、お前の事。ダチにだって普通になれると思うぜ。 そうじゃなきゃ俺含めこのメンバーが協力なんてするもんか。 このままお前がいなくなったら、ふとした拍子に「昔サスケって奴がいて」――そんな事をお前は俺たちに言わせるのか? その上、お前は戻れない。今しかない。音でもダチくらい出来るかもしれないけど、お前はいつでも木の葉を思い出すしかないんだぜ。 冷静になれ、いつものお前に、嫌みったらしいお前にもどれ!!目を覚ませ、アホサスケ! バーカ!ナルトの次に面かせ! ◇ ◆ ◇ めんどい。めんどくさい。百回言っても(言うのも嫌だが)足りないと思う。 まあ、世の中の仕組みとしてどーにもなんない事もあるわけで、これが俺の中忍初任務なわけだ。 つーかさ、お前は知らねえだろうけど、俺は間接的にお前のせいでめんどくさい事に巻き込まれてたんだぜ。 一。毎日のようにいのに聞かされるアバウトサスケ。 そのたびにお前もっと力抜いとけよーと思っていた。少しは俺の苦労もわかれって思っていた。 ニ。時々あったナルトの台風直撃事件。 だいたい、お前がそんなクールだからよ。しかもお前、ナルトのブレイクポイント突くの上手いよな。 三。今。 俺がお前を主観的に語ることは少ないが、今になって思えばこれほどめんどくさがりの俺でも"うちはサスケ"という人物を見ていたんだって思った。 そりゃ俺は、別に死ななくて大切な奴を守れるくらいに強ければいいと思ってて。お前みたいに力を追い求めるわけじゃねえけどさ。 それでも面と向かってはぜってぇ言ってやんねえけど、一人仲間がいなくなって寂しいと思う権利くらいはあるだろ。 まだ里に戻れる選択肢があるんなら、説得したいと思うのはめんどくせぇけど道理だと思う。 俺の初めての小隊は、今お前のためだけに走る。気がついてくんねぇかな。 サスケへ。 初めて与えられた小隊任務。俺は苦手な全力でお前を追う。 仲間を死なせるわけにもいかない。同時に、お前をこのまま行かせてたまるかって思うぜ、不思議な事に。 サクラにも言われたしな。ナルトもチョージもキバもネジも、昔は全然バラバラだった奴等が一緒にやってってるから、俺だけが抜けるわけにはいかねぇ。 誰にも言ってないけど、俺はどこかでもう無理なんじゃないかって思ってる。もう俺たちの声も手も、お前は振り払う気でいるのかもしれないって。 だが、そう思うたびにしかりつけてくる奴等がいてな。今はいなかったり、いたりだけど。 そういや、7班で冷静に戦ってたのはお前だった。ついでに、毅然と立ち上がって忍らしかったのも俺の目から見ればお前だった。 今は不吉な考えを、諦めの考えを捨てようと、少しだけ思えるものをお前は置いていった。 待てって、サスケ。 ◇ ◆ ◇ 彼が去ったと聞いたのは、シカマル達が出発してしまった後だった。 最初に感じたのは、不思議とサクラの事。泣いただろうなと思った。 だから今、彼女の家へ向かって私は歩く。 貴方を好きになったのがいつだったのか、私は覚えていない。 いつのまにか目で追っていた。そして、サクラが貴方の事を好きだと言った時に、私は真剣に貴方が欲しいと思った。 馬鹿みたいだ、私もサクラも貴方に振り回されてばかり。いつもそうだったね。 お世辞にも接点が多いとは言えなかった。そして去った貴方に感じたのは、何故か怒りだった。 私の親友を泣かせた。サクラを本気で傷つけた事に対する―――かすかな香りが流れる。 シカマルとチョージが彼を追っている。彼等がいなくなることが、これほど寂しいだなんて知らなかった。 貴方が寂しかったとようやく気が付いた。きっとナルトも同じように寂しかったんだろうと思う。 どうか無事に。たとえ理解しても、私は三人組が壊れるのが怖い愚か者だから。 早くサクラの家に行こう。同じ境遇に陥った親友と話し込むのだ。そして待とうと思った。 もしかしたら、流れた香りは恋心だったのかもしれない。 サスケ君へ。 どうかどうか、全員で帰ってきて。 私は貴方が好きだった。でも、シカマルとチョージが帰ってこなかったら貴方を許す事は出来ない。ナルトが帰ってこなくてサクラが泣いても同じ事。 里に残っていると欠けた人の大きさに気が付くの。貴方にもそれを見て欲しい。 今、うちの班、7班、8班、それからガイ先生の班。その中で誰かしらがいない。 任務だろうとシカマルは、どうでもイイ奴なんか探しに行く奴じゃないわよ。貴方のために走る彼らに、言える言い訳などあるのかな。 三人組。その重みがわかれば、もう一度木の葉の門をくぐれると思う。 その時まで、少しでも今を崩さないように私も頑張るから。 お願い、涙に気が付いて。 ◇ ◆ ◇ 実はなぁ、お前にもナルトにもサクラにも言わなかったけど、俺は下忍の担当なんてまっぴらだって思ってたよ。 ガイとか紅辺りは楽しくて仕方なかったみたいだけどね(アスマは俺と一緒かもしれない)。 今までに卒業生に試験して、期待を裏切られた事しかない。あ、これも言ってないけどそのどのチームもお前らよりはチームワークあったよ。 初対面からそれぞれ印象は悪かった。 その中で誰が一番と言われたら、俺は迷うことなくお前だって言うよ。 懐かしい感じがする三人組の中で、何処か俺に似てる嫌な奴に見えたからな。 ま、この最悪なチームも一日でお別れだって思ったら、もう……人生何があるかわからないものだ。 ナルトとサクラは気がついてなかったけど、お前の笑顔は柔らかかった。 俺はお前らが好きになった。いつかは離れていく三人組だとわかっていても、お前らを担当できてよかったと思った。任務も一人でこなすより、ずっと楽しかったんだよ。 お前に復讐者など似合わない。 嫌な予感はしつつも、笑顔を見るたびにその思考は追いやっていたよ。お前に千鳥を教えたのも、その確証が欲しかったのかもしれない。 ライバルってのは、怖いよな。わかるよ、痛いほど。でもお前には復讐じゃなくてこっちを選んで欲しかった。 何度も言うけど、気が乗らない話だった。上忍なんていいもんじゃないと思ってた。 今、俺の言葉がお前に届かなかった事が、身体を食い破られるほどつらい。 サスケへ。 あの後、サクラに先生の嘘つきって言われちゃったよ。また三人で笑えるって言ったじゃないって。 本当に孤独で、復讐だけを頼りに生きている奴の為に泣いてくれる奴なんていないんだよ。 お前がいない穴は、きっとお前が考えられないほど大きい。 俺はこの任務に行けない。殴り倒してでも取り戻したいが、そんなことはできない。 ナルトが行くよ。シカマルが行くよ。今、みんなの心を掌握しているのはお前なんだよ、サスケ。 サクラが一番つらい選択をしたよ。怒りでも悲しみでも、お前に帰属する感情があることを忘れないで。 帰って来い。お前は俺と同じ喪失を味わう必要なんてない。 帰ってきたら、また三人で任務に行けるんだから。お前には、選択肢が残っているんだから。 ◇ ◆ ◇ 重厚な扉が目の前にある。 任務の前には普通に入っていた、火影様に通じる扉だ。でも今日は、全く別の扉。 ノックをしようとする手が震えていることを認めたくなかった。 最初は本当にただの一目惚れって奴だったんだよ。 他の男から、貴方だけ浮きだっていたように思えたの。その時の私は、貴方をクールでカッコイイ男の子としか見れなかった。私には一生貴方の孤独はわからない。 三人組を組んで、思ったよ。本当にこの班で浮いているのは他でもない私なんだって。 貴方もナルトもカカシ先生も。最初は何か別の所を見ていた。 気が付いた時、どうしようもないんだって思って泣いた。私は親もいて、友達もいて、好きな人がいて、尊敬できる人がいて、守ってくれる仲間がいる。 慰めの言葉など一つも思いつかなかった。 中忍試験の時。貴方もナルトも動けなくなって、私はなんて情けない存在なんだろうって悔しかった。 私は貴方に好きという権利も、ナルトに説教する権利も持ってなかったんだって。 だって私はとても弱い。幸せな環境に甘えてて、外見だけ気にしてる最低な奴だった。 その時やっと、三人でやっていくんだって決意した。 手に入れるためには、強さがなければ駄目なんだと。わかってて、貴方に届かない。 扉が重い。 今、二人はこの里にいない。取り残されて泣くのはもう終わりだ。 サスケ君へ。 叫んだ言葉は本気でした。私はこれから忍の世界で生きる。貴方についていくと思いました。 ナルトを傷つけるってわかってた。いのも私を軽蔑するだろうってわかってた。 でも、貴方の後姿が悲しすぎて、理性に勝つことが出来なかった。 今まで、最低な私を庇って戦ってくれてありがとう。 待っているだけじゃ何も手に入らないんだと教えてくれてありがとう。 でも、これだけは言わせて。 貴方はいつでも、私が一番進みたくない道だけを示すんだね。 いつでも私が一番欲しい言葉をくれないんだね。 この決意だけはしたくなかった。 End アトガキ ――――――――――――――――――――――――――― サスケ里抜け事件の時のみんなの心境を妄想。 いろいろ対になる奴とか頑張ってます。 特に7班は気合がすごかった。 それからいのちゃんの恋の行く末はどうしても書きたかったです。 好きな子でも許せない事はあるよねってタイプの子に思うので。 |