夜叉の残滓と三人の男





ある雪の日。なぜか自分は寒空の中、鳥肌だらけの腕をさすりながら屋台で呑んだくれており、そしていつのまにか隣にあの男が来ていた。 小粒で流れるような白銀とは色を除いて似ても似つかぬくせ毛をいじりながら、男はほとんど正気を残していない虚ろな目でしきりと雪が積もるかと気にした。
自分も気分がよかったので、雪が好きなのかと問うと、男はそこだけはっきりと「大嫌い」と言葉を返す。
「俺は雪に埋没しちまいそうな形で、雪原でぶっ倒れたらなかなか見つからない」
「怖いよ。誰にも見つけてもらえない一人の空間は」
忌々しそうに己の髪をかき回しながら、男は熱燗の残りを一気に流し込む。
すぐに頭が重い振り子のように傾き、鮮やかな銀色が静かに机に伏していく。

そのスローモーションが、映画の中で描かれる生命の終りのように鮮明で惨たらしかったものだから目が離せなかった。

「―――俺は、一度あの中で死んだんだよ」

死にゆく者の切望を宿した紅の瞳が、にやりと、寂しげに嗤った。







さぞかし嫌な顔をするだろうと内心楽しみにしつつ、深夜を待って尋ねた男には、予想に反して待ちかまえられていたらしい。 家に近づくやいなや、髪を振り乱して玄関から走り出てきた桂に、高杉は有無を言わさずに客間へと引きずり込まれた。
「待っていたぞ、高杉!」
桂は普段ならば決して言わない歓迎の言葉を述べ、高杉の肩を待ちきれないと揺さぶる。
その目は危うい熱情に燃え、もはや情欲にも等しい滾りを放っている。だが、桂は「彼」に欲情しない。
「はん、その調子じゃ聞いたな?」
「聞かないわけがあるか」
もっと暗く、冷たく、自己中心的な、執着よりもなお浅ましく、未練よりもなお激しい何か。
小指の先でも絡め捕れれば、すぐにでも肌を這い、血流を逆走し、心臓を鷲掴みにしてしまおうという狂おしい切望を、長年の報われない日々を生き抜く間に薄める術を学んだ結果として、劣情の名を借りた言い訳が無意識のうちにできるようになっただけだ。

にやりと不穏な笑いを残したまま桂は一度台所に消え、すぐに両手に一升瓶を持って戻ってきた。
「今日は吐くまで呑むぞ、高杉」
そうして自分の年もわきまえずに堂々と宣言する。高杉は思わずため息をついた。
「何の為に呑まれる?」
「祝い酒とやけ酒だ」
「そりゃァ、最悪の組み合わせだ」
口に含んだ酒は、桂の好まない火を呑む込むような粗悪で強いものだった。


桂は水を飲むように酒を流し込んでいく。日頃は節制を語る男の無茶な呑み方は、鬼気迫るものがある。
「それで、まずは起きたことを確認しよう」
前置きは一切なかった。
「銀時は白夜叉を名乗った。こともあろうにあの狗にそれを見せた挙句、共に戦った。間違いないな」
予想はしていたが、こうもはっきりと彼以外の情報がそぎ落とされた発言を聞くとおかしく、高杉は少し焦らした。
「本当は江戸の二大警察が内紛を起こし、三天の怪物がとんでもねえ悪党だというのが本筋なんだがな?」
「そんなものはどうでもいい」
桂は一言で片づけた。
そのまま、二人を隔てるちゃぶ台から身を乗り出して高杉の襟を力任せに引き寄せる。
「貴様の目から見てどうだった?」
息がかかり、瞳の奥まで見通せるほどの距離。
「遠目だったが、あれは不思議なモンだった。―――白夜叉に酷く似ていたが、殺意がなかった」
桂は目をむいた。
しばらく考え込み、再び酒を煽ってから言う。
「とても一言では表しきれん……。殺意のない夜叉、それは奴なのか、いやより憎悪が深くなったのか」
「それとも夜叉は優しさと幸福に誘惑されて、助っ人になり下がったのか」
「嫌だな、それは。狗どもだぞ?」
「奴には、目の前で零れ落ちそうなモンを抱え込む癖があっただろォ。あの場に、奴と同じ方法でテメーを救うしかない奴がいて、思わず手が出てしまったとしたらどうだ」
言葉の指す意味に気が付いた桂の顔こそ見ものだった。
元が美形なだけに、すべての表情がそぎ落とされ、体温が失われていく様はよくできた能面のようだ。

だが美しい面はすぐに割れ、桂は表情を取り戻し、にんまりと笑った。

無意識のうちに高杉は身を引く。
桂がこの笑い方をする時には、この男しか考え付かない無茶をやらかす前兆だ。
案の定逃げようとした腕を捕まえ、桂は言った。


「実は俺もその推論に辿りついてな。それならば、奴と共に戦ったご本人に聞いた方がよかろうと、少々拉致してみたんだ」


「………はァ?」
間抜けな反応を返してしまった己を悔やむ。
よく武市やら万斉やらが、自分の策を「耳を疑う」と言うが、このような気持ちだったのだろうか。高杉は不覚にも自らを省みた。 スイッチの入った桂の思考の吹き飛び方にはついていけないと幾度も思ったが、毎回更新されていく様にはめまいがする。

「今日あたりに貴様が来そうな気がしたから、夜を徹して検討しようと思い立ったところに、また運よく通りかかるのだ。まあ、いい身分だぞ。ほろ酔い気分な 奴の上気した顔を見ていたら、不意に腹が立って、ああ銀時はこの首を守ったのかと考え始めたらつい体が動いてしまって―――」

手刀を入れてしまった、と素面と全く変わらぬ調子で言う。

「その気の立ち方で、よく殺らなかったもんだ」
高杉は幾分疲れたように言った。
「ああ、一撃で決まれば殺したくなったかもしれないが、一度は躱され、こちらも手傷を負った。これまで何度か会っているが、あの男があれほど純粋に殺気に 反応し、人斬りになる瞬間は始めて見たのでな。それが悔しいことに見覚えがあるものだから、捕まえてやろうと思ったのさ」
「―――似ている、と?」
これが桂が己を煽る時の技だと知っていても、喉の奥から熱い泥濘が湧き上がるような感触は抑えられない。
「さあ? 知りたいだろう?」
追い打ちをかけるように、甘く囁かれる。
「あァ、知りたいねェ」
桂には、時折「こいつとならば堕ちてもよい」と思わせる天賦の才がある。
今がまさにそれだと一方の自分が諦め、もう一方の酔狂な自分が哄笑する。表に現れたのは、乾いた哄笑の方だった。




◆ ◇ ◆




鬼の目に射すくめられた気がして跳ね起きた。だが、目を覚ました土方の周囲は、あのさびれた屋台ではなく、殺風景な板の間があるばかりだ。
その部屋には畳一枚敷かれておらず、一つの家具もないために、嫌にむき出しの木の床が寒々しく感じる。引っ越し直後の部屋に近いだろうか。

(違うな)

すぐに自分の考えを打ち消す。
ここは人の住まうような場所ではない。いくら部屋ががら空きでも必ず存在するはずの人の気配のようなものがまるでなく、唯一床の間に置き去りにされた一輪の椿だけが生きた色彩を放つ。
椿は燃えるように赤い。置き捨てられた生の気配こそが、この部屋に蔓延する死の臭いを際立たせる。
―――あの世ならぬ、あの世。

「お目覚めかね、鬼の副長さん?」

だからこそ、その濃密な死にあまりに近い気配には気が付かなかった。
予想していた人物とは悪い方向で異なる男が姿を現し、土方は絶句した。

「………高杉!!」

高杉は柱に寄りかかり、にやにやと人を小馬鹿にした笑みを浮かべながら床に転がった土方を見ている。

「ああ。ちぃと、待て。お前さんをここに呼び寄せた野郎は、掃除をしていてな」
なぜ、桂に気絶させられたはずの自分の前に高杉が現れるのか、という疑問を口に出す前にたたみかけられた。
「一番物がない部屋でも空にするのは骨だからなァ。放り出したまではよかったが、次は廊下が悲惨な状態になっちまった」
「……テメェ、人の話聞く気ねえな」
土方は唸るように言った。
こちらの言いたいことなどとうに察していながら、掃除について語るなんぞ、おちょくられている以外には理由がない。

「―――とんでもない」

土方は思わず、後ろ手に縛られて不自由な体をひねって顔を上げた。不意に嫌に真剣そのものの声が目の前の男から放たれたので。

「なァ、土方よ」

顔を上げたところを、いつのまにか近づいていた高杉の足に蹴り上げられて息がつまる。
高杉は片足で土方の顎を引きあげ、一言一言確かめるように言った。


「俺たちは、お前さんの話を、一言一句逃さずに聞こうとしているんだぜ。なァ、ヅラァ」
「ヅラじゃない桂だ」


半ば諦めに近い己の声を聞く。あの男が、他の誰とも異なる声音とリズムで桂の綽名を呼ぶのとまったく同じように、高杉はその名を口にする。

彼らの日常のリズムが無機質に押し込まれた部屋に浸透する。ああこの部屋は、殺すための場だ。自分は今まさに殺されようとしている。


「さて、土方。何から聞こうか。その貧相な首がつながってうれしいか、というところからかな」
無表情で見下ろしながら言う桂はしたたかに酔っていた。なにしろ床に転がった状態でも、酒の臭いが分かるのだ。
土方は間違いなく人生最大級の危機の中、売られた喧嘩を言い値で買うことを決意した。
酔っ払いで人を尋問するとは、馬鹿にするにもほどがある。
「ああ、うれしいね。テメェらの豪華な首に比べて貧相ゆえに冥界の誰も欲しがらなかったんだろうよ」
「狗のくせになかなかいい返しをするなァ」
返答を気に入ったらしい高杉が足をどけ、土方の体を起こして座らせた。そして言う。
「そうやって夜叉をたぶらかしたのか?」
遊里で言葉の戯れをするような軽薄で甘い口調。合わさる酷薄に光る隻眼が不釣り合い極まりない。
本能的にこの質問の答えを知られたら死ぬ、と思った。

「―――さあ? 夜叉とは喧嘩をしねェんだ。俺が斬るのは同じ人間なんでね」
軽くかわす。さあ、どうでる。


「ふむ。少しどけ、高杉」

言葉を発したのは桂で、高杉が横によけ、その姿が見えたときにはいつのまにか抜刀して構えている。
土方は刀を睨み、腕の先から漏れる物の正体を探ろうと目を凝らした。殺意ではあるが、殺気ではない。

「貴様の目は綺麗だな」

桂は土方の首筋に刀を当て、言った。

「見てみろ。混ざり物がない。この刀と同じように澄みわたり、鋭い」
昔そんなものを持っていた気がするよ、と桂は言う。
「貴様は数多の人間を斬ろうとも、夥しい死体の山に立つことになろうとも、可哀そうな己を救えなくとも、その瞳だけは濁らず、最期の一瞬まで冴え冴えとした魂で果てるだろう」
お前にその清々しさを与えた者を奪われない限り、と高杉は無言で付け加え、煙管に火を入れる。
桂は立ち上ってきた煙を左手で抱えるようにして土方の顔に突き付け、そのまま頬をがっしりと掴んだ。
目が合うと激しく燃えさかる炎とあきらめと絶望を冷やした冷気が混ざり合い、水蒸気の膜で包まれたように奥底が見えない双眸の闇に呑まれそうになる。それでも、土方は目を逸らさずに、にやりと笑う男を見据えた。

「―――だが、その見事な生き様。俺は大嫌いだ」

それは夜叉にとって、否“俺たちにとって”よくないものだ。容赦なく奴を魅了する。
桂はそう断言し、続けてつぶやいた。「とうの昔に忘れたものを―――」

「桂、」

途中で高杉が止めた。それ以上言えば、俺たちの負けだ。

蜃気楼に飲み込まれてうわ言を言っていた旅人が正気に返るように、桂が己を取り戻すまでに一瞬の間が空いた。 土方はその隙に言葉をねじ込んだ。

「可哀そうだな、テメーらは」

地獄の幽鬼もかくやと思われる形相で、高杉と桂が同時に土方を見た。ほくそ笑む。
土方は、異常なまでに強く満足感を覚えた。この顔が見たかったのだ。無法の世界から自分たちを見下す輩、双方が恐るべきカリスマ性を持ち、人を容赦なく嵐 の中に攫う無頼者。幾度煮え湯を飲まされたか分からず、何より警察の総力をもってしてただの二人に近づけない歯がゆさと怒り。
―――馬鹿野郎。テメーらの言う狗が這いずるぬかるみにまで、自分たちで落ちてきやがった。

「そんなに“白夜叉だった男”に捨てられたのが、野郎がテメーらの手の届かない所に歩いていくのが怖いのか」
テメーらが嘲笑う狗を、あの夜叉と会ったというだけの理由で、豪華な雁首を並べて尋問しなければならないのが何よりの証拠だ。
土方は高らかに笑いながら、刀の波紋に移る己の笑みが口裂けの化け物のように歪む様を見た。

「ハハッ、確かに俺は見たよ。『白夜叉』と名乗った野郎を、この目で見て、不本意ながら助けられた。だが、あれは夜叉じゃない。ただのろくでなしのお人よしだ」

慎重に二人の顔色を見ながら、掛けられた罵倒と奇妙な倒錯によって得られたヒントを組み合わせ、最も効果的であろう言葉をつなげる。
こんな最低の喧嘩は久しぶりだと土方は思った。恐らく勝てる。―――激昂して、奴らが自分を殺せば、こちらの勝ちだ。

「そうじゃねえか? どうせ調査済みだろうが、野郎はあの場にいた誰の味方でもない。ただ嫌だっただけだ。……兄が弟を殺すのが」
そして、弟が捨てられるのが。
「たぶらかす? 冗談じゃねぇぜ」
知っているか。俺たちはオマケなんだぜ。その場にいて、野郎が救い上げたモノにくっついていただけだよ。

再び蹴り飛ばされて地に伏すと、紙のように白くなった二つの顔が見下ろしてくる。ああ、この殺しても死なない化け物どもも、蒼白で震える顔ができるのだと、土方はにやりと笑うことで嘲笑った。

「テメーは、半端者の分際で、奴を欠けさせる」
高杉が目をぎらつかせて言った。
一面の死体を見たか仲間が蛆に食われ腐り溶けていく様を見たかその臭いを嗅いだかその中で血の味のする飯を食ったか己の生きる世界の根幹を奪われたことがあるか護りたいものが消えうせる様を見たか。
息継ぎなしで喚く高杉の背後に、敗北の歴史を見る。やはり恐ろしい、と思う。自分や沖田であれば気が狂わずにはいられないだろう敗北を押し殺して戦う様が恐ろしい。奴らは、己が負け犬だと知っている。恐らくは、あの男も。
「違う。俺は野郎なんぞに興味はない。なあ、高杉よ。気が付かないか? あいつは、テメーらも俺も全く関わらない場所で、欠けたり得たりを繰り返す」
だが、どれほどこの男どもがまともでなくても、勝たなければ死ぬのだ。あの太陽のような大将が。
だから戻りたい。たかだか、夜叉を魅了する何かに嫉妬した男が引き起こした茶番ごときに勝って死ぬなど馬鹿げている。
「……あいつは俺たちが連れて行く!」
地獄まで。桂の濁った双眸が、入れ墨を彫るような執拗さで付け加えた。
「ご勝手に。だが、テメーらは一人では地獄にも行けない」
俺もだよ。ご同輩。

「それでも俺が怖いなら斬ればいい」

先手を打った。土方は待ち受ける斬撃以外のあらゆる屈辱を一つ一つ想定しながら、氷のように、青い黄昏の色に澄みわたる敵の目を見た。
お前らの目も美しいよ。古今東西、可哀そうなものは美しいんだ。




◆ ◇ ◆




何かが腐った臭いのする場所だからこの男は歌舞伎町に来たのだろうか。それとも、人の顔を隠すような膨大な情報量と感情の渦に飲み込まれたかったのだろうか。
とりとめもなく考えても仕方のないことを考えてしまうのは、頭を働かさなければ気絶しそうだからだ。

土方は既に痛みが麻痺し、次の日(それがあれば)綺麗なマーブル色に染まることは間違いない打撲だらけの体を引きずりながら、銀色が沈む路地裏に座り込んだ。
「おい、万事屋……」
渦中の人物は耳元で声をかけても全く動く気配はない。
全身から酒と吐しゃ物の臭いを立ち上らせ、誰のものと知れないガムやら使用済みの避妊具やらが転がるコンクリートにほおずりして倒れている。彼はまさしく残骸だった。子供のように膝をしっかりと抱えて丸まり、起きているくせに立ち上がろうとはしない。

「テメェ、悪いことはいわねぇから友達だけは選べよ」

いまだかつて、これほど真剣にこの男を案じたことはないかもしれない、と思いながら土方は言った。全く、口から生まれたような万事屋に苛ついた数など数えきれないが、あんなものに囲まれていたならば頷ける。

正直、勝ったと思った。子供の喧嘩と等しいが、間違いなく言い負かした、と。
ところがすべての体温を失くしたような表情をさらした二人は、すぐに頷いたのだ。「理屈は分かったが、お前が嫌いだ」
「その通り、あいつは遠く離れていく。俺たちはそれが怖い臆病者だ。―――だが、奴もそれが怖いのさ」
桂の声音は自信にあふれていた。
「例えば、俺たちだけが奴を縛り、摩耗させようとするとすれば、間違いなく野郎は俺たちを捨てるだろうよ。奴にはそれができる。だが、奴は奴の論理でこちらを縛る」
高杉はにやりと嗤っていった。だから、諦めきれない。
こいつらは本当の大悪党だと思う。絶望が彼らのエゴを加速させたのかもしれないが、もはや論理の破綻すら開き直った者につける薬はない。何より、彼らはそれを自覚的に利用している。その卑劣な行為を大悪党と呼ばずに何と呼ぶのか。

「喉元に手を掛け合ってる状態じゃねえか。いつかテメェを持っていかれるぞ」
つまり、こいつらは双方が首を絞めながら、首を絞める力に安心しているだけなのだ。
病まず、衰えず、どちらも殺せないほどの頑強な力で。


「…………選んでるよ。本当は選べる立場になんかねえけどな」


土方は目を瞠る。返るはずもない返答をつぶやいた銀時が、眠そうな目でこちらを見上げていた。


「首なんて大げさじゃね? 遊びだよ。綱引き。右腕をかけて、どちらの世界に引きずり込めるか戦ってるだけさ」
だって、俺は向こうでもやっていける。昔は、俺だけがあちら側だったのだから。
彼らが帰ってくるのは簡単なんだよ。
「手を離せないか」
「離せるよ。向こうも離せる。―――そうしたら、もう二度と奴らに見つけてもらえないじゃねえか」


銀時はそれだけ言うと今度こそ倒れた。この男も可哀そうだ。泥酔し、自分が誰に何を言っているのか分からない状態でなければ、ただの友人への本音すら言えないとは。


銀髪に触れると、予想の他柔らかい感触が残っていた。べたついた路地にあっても、侵されずに残る白。
「白夜叉、か」


夜叉と狂乱と魔王。
既に見つけているのに、奴らにだけは見えない。


「ハハッ、クク、ハハハッ」


生涯忘れえないほどの眩惑だ。
土方は痛みによって気絶するまで腹を抱えて笑った。泣けない白夜叉が乗り移ったかのように、しばらくの間冷たい涙を流しながら。