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<こんな飲み> ・不定期開催。来れるとき、来れる人。 ・地球にいる頻度。多 万斉=また子>阿伏兎(団長の尻拭いで意外といる)>>陸奥(よく分からない星へ飛んでいる) 少 ・人を隠すのは人の中、場所は大衆居酒屋の座敷。 ・会計は多少の夜兎傾斜あり。 ・目的、日々の憂さ晴らし。誰にとは言わないけど。 議題@ 武市先輩の不在について 「そういや、武市は来ないんだな。鬱憤も溜まってるだろうに」 乾杯をしてビールがうまいという話をしつつ、そろそろエンジンをかけるかという頃。 焼き鳥の十何本目かの串を串入れに放り込みながら、阿伏兎が口火を切った。 「ああ……武市はな」 途端に万斉とまた子は遠い目になる。 「ああいうかっちりした奴は時々発散させとかないと突然爆発したりしそうじゃねーか」 「いや、別に仲間外れにしてるとかじゃないんスよ。武市先輩、いろいろ店知ってるし、なんだかんだでおごってくれるし」 「また子、それ財布的側面しか言ってない」 「まぁまぁ話も面白いし、なんだかんだでちゃんと晋助様のこと考えて動いてるし」 「そうそうそういう奴」 「………けど、ロリコンが」 「そう、ロリコンさえなければ、という奴でな」 頭も切れる、バランス感覚もいい、何より役人のエリートコースをあっさり捨てて高杉に賭けられる酔狂さと嗅覚の鋭さ。 それにロリコンがくっついている。満点の人間はいないという典型例が武市だ。 「まあ、確かに難だが、戦い中毒よりはるかにましだろ。それに居酒屋じゃガキなんて…」 「それが!」 「この前!」 「あったんでござるよ!」 ぐい、と万斉とまた子の声が揃い、その熱に阿伏兎は一瞬引いた。 「その時は晋助様もいて、何かで飲みに行って。やっぱりこんな感じの居酒屋の座敷で飲んで」 「というか、高杉が普通にこういう店にまぎれてるのかよ。江戸の警備適当すぎんだろ」 「で、最近は居酒屋もこぎれいにしてて、子ども連れも来れる雰囲気のとこあるじゃないっスか。で、丁度隣で子ども連れの宴会があって」 「……あ、今なんかすごい嫌な予感してきた」 「ほぼ想像通りでござる。晋助が深酒してるのをいいことに、子どもにアメちゃんあげようとしたりして」 「万斉先輩、アメちゃんって!語録移ってる!」 「うわ、痛恨のミスにござる。……さてここで、居酒屋で子どもに飴を、しかも何度もあげようとする中年男性をどうみるでござるか」 「……変質者だよなぁ」 その後は当然のように警察に通報され、泡を食って逃げる羽目になった。 攘夷活動でもない、不名誉極まりない逃走。 単なる変質者と言われ、一番近くにいたという理由だけで来たらしい土方の顔こそ見物だった。 二枚目が台無しになる微妙すぎる、何とも言えない顔をしていた。 「いや、捕まるようなヘマはしないでござるよ。けど、運悪くその場に週刊誌の記者がいて」 幸いにして歌舞伎町の一居酒屋で起きた事件であり、後姿しか写真に撮られなかったため、小さい記事だった。 が、「あの過激派・鬼兵隊。まさかの幼女趣味か!?」と見出しが付けられ、しかも事の張本人の写真ではなく、高杉の後姿の写真が使われてしまった。 「……うん。正直、今聞けば爆笑だけどよ、よくあいつ生きてたな」 「あれは晋助のプライドの高さと計算高さに助けられたな。そんな不名誉なことで参謀を斬れるような男ではござらん」 「今、高杉の株がものすごい上がってるんだが」 「けど、数日は機嫌が悪すぎて地獄でござった……。武市はずっと操舵室で正座させられてるし」 「万斉先輩と私、毎日こっそり爆笑してたっスけどね」 「それ、オフレコ」 しかも、更に最悪なことに、この世で最も知られたくない二人にその記事を読まれてしまった。どちらが先に見つけたのか。偏見だが、普段は新聞すらまともに読んでいなさそうなのに。 「白夜叉からは晋助本人の直通電話にかかってきて、廊下でも聞こえるくらい爆笑されて」 「というか、あいつら前殺し合ったんじゃねえの? そういうしょーもないことで連絡取ってんの」 「嫌がらせの機会は逃さないということでござろう。で、桂は」 「当人が直接来て、説教して斬り合いになって、晋助様の部屋がめちゃめちゃに……」 「それ以来、武市が来る飲み会は料亭の離れにしたでござる」 「大変よく分かったぜ」 議題Aお通ちゃんについて 「あれ?お通、あの曲の歌い方変えたんすか?」 そろそろ日本酒いっちゃう?という会話も随分前に過ぎ去り、一升瓶の中身がなくなりつつある頃。 つけっぱなしにしていたテレビを見ながらまた子が言った。 画面上では万斉がプロデュースしているお通が新曲を熱唱している。 「ほう。なかなかいい耳でござる。して、どこが?」 「いやはっきり分かってるわけじゃないっスけど、なんかサビのところが聞きやすくなった?」 「まさにそれでござる」 「ねえ、おじさん話についていけないんだけど。そんなにお前らアイドルに詳しいの?」 万斉が阿伏兎に江戸の寺門通を知らないなんてありえない、芸能ニュースにこそ世の中の情勢が詰まっている、それでも攘夷派かなどと詰め寄り、いや海賊だしという一悶着をした後、また子が助け舟を出した。 「っていうか、知らなかったんスか? 寺門通のプロデュースしてるの、万斉先輩」 「マジでか」 「もちろん、芸名で顔出しNGでござる」 「鬼兵隊で一番稼げる男っス、先輩は!」 「攘夷活動は金が出ていくばかりでござるからなあ。晋助も金遣い荒いし、拙者が奉公に出ねば立ち行かない……」 「奉公とか古い!大体、晋助様のは必要経費っスから!神威の食費に比べたら可愛いもんですよ」 「……あの、ごめんね。もしかして根に持ってた?」 「全ー然?」 「女の『全然』は『ふざけんな』と同義でござるよ。まぁ、とにかくプロデュース業は金になる。趣味と実益を兼ねているしな」 「こんな可愛い嬢ちゃんの歌で、爆弾買ってるのか」 「まぁ、そういうことでござるな。―――あれ、何の話でござったか?」 「あれだろ、この嬢ちゃんの歌い方だろ」 「それだ」 聞けば、万斉は新曲を出す際は必ず高杉とまた子の意見を聞くことにしているという。 けなされたからと言って出さないわけではないが、高杉は音をよく聞き分け、また子は流行に意外と詳しいので、なかなか良いアドバイザーとなっているらしい。 「つか、高杉がこの曲を真剣に聞いてるところの想像でしばらく笑えるな」 そう言う阿伏兎の手は震えて酒がこぼれている。 「そのうち、気を抜いた時に鼻歌でも歌ってたら、俺その場で爆笑するけどフォローしろよ」 「それが晋助ものすごい気を付けてるんでござるよ。鼻歌で歌ってくれるようになったら、拙者マジ泣き。笑いで」 「晋助様はどんな鼻歌でも素敵ッス!多分」 「出た、多分という便利な日本語!いい加減、フィルターを外して現実を見ろ」 「先輩うるさいッス。そうそう、最初に聞いた時と★ステで聞いた時と変わった気がするんすよね」 「まず、これを見るでござる」 「何だこれ、ファンレターか?」 万斉がスマホの画面に出したのは手紙のコピー。 「へぇ…何々、随分熱心な手紙だな………って、オイ、全然読み終わらねえんだけど」 「きしょっ!」 阿伏兎は十枚目ほどでスクロールを諦め、また子の簡潔な感想が重なる。 「ちなみに手紙は100枚で、更にダンスの振り付けのアドバイスDVDがセットでござる」 「……先輩、真面目にキモいんすけど。これ、ストーカーじゃなくて?」 「いや正真正銘、お通殿の最初のファンが率いる最古参のファンクラブ、一時は公式ファンクラブの座をも手に入れた『寺門通親衛隊』の隊長の手紙でござる。いつも読むと的を射ていてな、この曲もそれで変えてみた」 「……へぇ、ぶっちゃけ引いてるっスけど」 「あ、今丁度テレビに映ってるでござる」 もはや寺門通親衛隊は名物のようなもので、歌番組では必ず一度、特にオタ芸が盛り上がった瞬間を狙って映すのだ。 「ほら、この真ん中のメガネの御仁でござる」 L・O・V・Eお通!と叫ぶ声は誰よりも大きく、振り付けは誰よりも切れがいい。 一度見たら忘れられない親衛隊ハッピで統一した濃い集団の中心にいる、どこにでもいそうな顔。 「意外と地味な感じの顔っスね。話したことあるんすか?」 「いや、拙者も一度顔を隠して話そうとしているのだが、寺門通親衛隊はライブが終わったら迷惑にならないようにすぐに解散するファンクラブで、あのハッピを脱がれると全然探し出せないのでござる……」 「あー、確かに。ぶっちゃけ雑踏の中にいたら無理っスね。あらゆるキャラの始めのデザインみたいじゃないっスか?」 「全く。……でも、なんかどこかで会った気もするんでござるよなぁ」 「言われてみれば……。どこでしたっけ?」 「うーん」 既に画面から消えた顔を懸命に思い出しながら首をひねる二人に、話から置いて行かれた阿伏兎は思った。 (え、こいつらマジで言ってんの……?) 敵対勢力の顔も覚えていない幹部の記憶力にツッコミを入れればいいのか、敵対勢力にすら覚えられない地味な男に同情すればいいのか、酒に酔っていて分からない、と。 議題B陸奥が坂本を語ると時々可愛い 「遅くなったぜよ」 「あ!陸奥!うまく来れたっすね!」 二本目の一升瓶がスタートした時、聞きなれたもう一人のメンバーの声がした。 快援隊の陸奥。こちらも大将に関する苦労話に事欠かず、地球に立ち寄る時は都合をつけてやってくる。 「ああ。あのもじゃが管制でやらかしての、時間がかかった」 今は一介の商人とはいえ、坂本は攘夷派とのつながりを疑われる要注意人物に幕府から指定されている。 だからこそ地球に来る際は必ず管制から審査を受けなければならず、基本的には陸奥が対応してそつなく入るのだが―――。 「あのクソもじゃ!担当が好みの女子だったといって……!!」 「ああ…」 残りの三人は生ぬるい目になる。 この飲み会のおかげで、坂本本人とはつながりが薄くても生態が分かってしまう悲しさよ。 「散々口説きまくった上に断られても勤務上がりは何時かを問い詰めて、変質者扱いで上司を呼ばれたんじゃ!!」 「ねえ、似たような話数時間前に聞いたよね。地球の侍、大丈夫かぁ?」 「あれらは突然変異でござる。一緒にするな」 「完全に幕府に仇なすとかじゃなくて、変質者が乗る船、ポルノやらを密輸する容疑までかけられて船内を探索されたわしの気持ち、分かるじゃろう!?」 「分かる、分かる……!!陸奥、マジ、おつかれっス!とりあえず、呑んで忘れよ?」 「そうそう、今一度乾杯するでござる!」 両サイドからなだめられ、更にタイミングよく大ジョッキが目の前に置かれたことで、一気に乾杯モードになる。 すくっと陸奥が立ち上がり、叫んだ。 「あの馬鹿もじゃ!!ふぐり腐らせて死ねェェェ―――!乾杯―――!!」 がこん、と当てられたグラスは危うく砕けそうな力。そして陸奥は一息で飲み干した。 「おおう、副官殿苦労してるなぁ。もっと強い酒行くか?飯は?」 大将のいないところで思い切り叫びたい気持ちが痛いほど分かり、阿伏兎が酒と食事を勧める。 本当にどこもろくなもんじゃない。 「あぁ、その日本酒をもらうぜよ。後、これとこれ、このページ全部、このページのここまで追加で頼む」 「はいよ」 これまで散々飲み食いしていたというのに、軽く数人分の料理を追加された店員は目を白黒させていたが、間違いなく夜兎二人で片づくだろう。 「それで、当の本人はどうなったんすか?拘置所?」 「―――それがの」 ビシッと陸奥が持つ杯が嫌な音を立てた瞬間、それがまずい質問だと理解した。が、もうどうしようもない。 「入管を通ったらすぐに消えおった。大方、すまいるじゃろう」 「またあのおりょうちゃんっスか……。で、でも向こうは全然その気ないんでしょ?」 「そ、そうでござるよ。来て早々尻を撫でる男など相手にされるわけもない」 「身ぐるみはがれて帰ってくるさ。副官殿がいないとダメな奴なんだろ?」 「……オイ、フォローはありがたいが、浮気された本妻みたいな言い方はやめろ」 だってそうじゃん、と三人は同時に思ったが、命が惜しいのでもちろん口にはしない。 「ま、まぁまぁうちらはうちらで楽しく飲めばいいっスよ!スーパー愚痴タイムっスよ!」 とりあえず、自分たちに追いつくまで飲ませとけ、とまた子が日本酒を並並に注ぐ。 そうは言っても、陸奥はザルだが。 「そうじゃの。ちなみに、わしが来る前は何の愚痴だったんじゃ?」 わいわいと、武市の話やらお通の話やらをすると、陸奥がさっとタブレットを取り出す。 「何、最近そんな機械あんの?」 「そうじゃ。いくら夜兎とはいえ機械は使いこなせた方がええ。一つどうじゃ?」 「止めとく。次の日に『なにこれ、触っていい?』って団長がへし折る未来が見える」 「それはおんしの教育が悪いからじゃ」 「いや、俺が出会ったときは既に手遅れだったからね。むしろ、俺があの瞬間人生を間違えたよね」 「……拾った石ころは核弾頭だったな。お、これじゃな、記事!」 「あ、それ探してたの。………ブハハハハハッ!」 問題の写真を覗き込み、阿伏兎は爆笑した。自分の声が大きすぎてかき消えかけたが、陸奥も笑っている。 鬼兵隊二人は何とも言えない顔で目を逸らした。 「これは酷いの!わしが幕府関係者だったら、間違いなく手配書に使う」 「陸奥――!晋助様に何の恨みがあるっスか!」 「恨みはそれほどないが、貶めてみたい気持ちは常にある」 「ちょ、潔すぎてかっこいいけど、そんなところでキメ顔しないで!」 「よし、坂本にも送ってやるか」 「いや、ちょっとそれはまず……」 「もう送った」 万斉が止めようと手を出した時には、電光石火の速さで記事のコピーは坂本に送られてしまった。すぐに既読が付く。 「よし、見とるの」 慌てていた鬼兵隊二人は気づかなかったが、阿伏兎だけは陸奥がふっと笑ったのに気が付き、思わず目を逸らす。 危ない女の、ふとした緩み。見ているこっちが照れる。 『笑い死ぬ』 数秒の間をおいて、簡潔すぎる返事が来た。 「今頃、キャバクラのソファーから転げ落ちたな」 「いや、陸奥、そんな冷静に分析してる場合じゃないんスけど!?これ、あのもじゃ、晋助様に速攻電話したりしないっスよね!?」 「あー、大丈夫じゃろ?多分」 「いやいや、真面目に!そんなことあったら拙者たち、本当に斬られかねないでござる!」 「問題ない。坂本は嫌がら……もとい、旧友への贈り物をする時は時間をかけて選ぶタイプじゃ。忘れた頃に来る」 「全然安心できないでござる。ってゆうか、発送したら教えて。お通殿の全国ツアーを入れて出張するから」 「万斉先輩、ずるいっス!!」 鬼兵隊幹部が怒り狂うであろう大将への対応を押し付け合い始めたところで、陸奥はすっと立ち上がって財布を取り出す。 「え、何、帰るのか?」 「ああ、中座の詫びとして大目に出しておく。そろそろ、無様にキャバクラの床に転がってるバカを回収しに行かんとな」 「えー!!絶対、身ぐるみはがされて転がされて終わりだって!それより、晋助様のお怒りを鎮める策の方が大事っスよ!」 うんうん、と万斉も頷くが、陸奥は編み笠をかぶっている。 「大丈夫、大丈夫、高杉は。知らんが。……下手に長居をして、あのバカの良さに気が付かれると困る」 ………。 あ、平然としてるけどこの人酔ってる。そうでなければ、こんなこと言うはずがない。 見ればいつのまにか、空になった日本酒が二本所在なさげに転がっていた。 三人は顔を見合わせ、耐えきれなかったまた子が机に突っ伏して言った。 「………不覚にもときめいた人、挙手」 二人の手が当然のように高く上がる。 「そうか、そんなに酔い覚ましのアイアンクローをしてほしいのか」 「遠慮します」 綺麗に声が揃う。 その間に、『飲みすぎたぜよ』と渦中の男から連絡が入っているが、誰も気が付かなかった。 |