どういう偶然なのか、それとも恣意的なのかは知らないが、誰かが死ぬ日は決まって晴れだった。天候の悪い日などに夜襲や奇襲はかけないと言われればそれまでだが、俺達が血に塗れて生きていたあの時は、本当に青空が澄み渡る日が多かった気が今でもするのだ。 多分、人が持つ熱の中で、涙ほど熱いものは存在しないに違いない。 仲間の死体を前に立ち尽くす時は青空。一度帰路につくと、少しずつ暗雲が立ち込める。ねぐらに戻れば雨。 密偵を巻くために使われる裏道を、昨日は彼も通ったはずで、その先にある扉は彼の口が発した合言葉の音色を覚えているはずで、深い青色の池に浮かぶ金魚の風景を孕んだ茶碗は彼だけがつかうべきもののはずだった。 必ず助ける、待っていろ。 誰もが今まで何度でも言ったであろう陳腐な言葉で、裏切られる事が多すぎる儚い言葉だ。 その言葉を数時間前に絶叫した自分の喉を掻き毟ってしまいたい衝動に駆られる。 走っても、血反吐を吐きながら手を伸ばしても、絶対に届かない物が世の中には多すぎて、それなら最初から叫ばなければいいはずなのに、いや最初から叫ぶ対象など見つけなければいいだけの話なのに、誰もそれをする事が出来ず、誰もが無為に叫び続けて知らないうちに喉に嘘つきの膿をためていくのだ。 人はどれだけの嘘を、その身に背負うことが出来るのだろう、と銀髪の友が言った。 数じゃなくて、そいつが絶えられなくなった時に人は嘘に潰されるんだろ、と不敵に嗤う友が言った。 でも、嘘のない世界は死んでるぜよ、と能天気なはずの友が笑った。 俺達は嘘つきの矛盾だらけの世界を守る為に生きているのかもしれない、と自分が言った。 「運が良かったな、壬生呂」 そういえば、自分達のうちの誰も、天国という言葉を使った事はなかった。 戦いに明け暮れる中、そんなことを考えつかなかった。それから、天国と地獄は同じ物なのだと信じていた。 間違いなく、膠着する世界を恐れていた。新たな存在だけが時間を生きる、墓場を恐れていた。 「見逃してやる」 それでもなぁ、結局俺達は生きて歩いてるんだよなァ。 あんなにも哀しい笑顔を見たのは最初で最後だった。 銀時!銀時!………なんですぐ戻って来ねぇんだよ! もう、誰もいない。 どうしてか空いたブラックホールに俺達だけが飲み込まれてしまったかのように、誰もいなかった。 背中合わせ。動かなくなってしまった高杉との静かな時間。 他の誰よりも力強かった背中がいつにたっても戻らない。高杉の背が震えていた。そう言うと、震えてんのはテメーだと憎まれ口が帰ってくる。 泣いているのか、とは言えなかった。 遅い、遅い!と銀時の肩を揺さぶる高杉の背を見て、子供の頃4人で遊んだ事を何気なく思い出す。 火傷する、と銀時が言う。俺だって熱い、と言った。 しがみついた自分と高杉の二人分の涙。 誰かが死んだときの涙は氷点下で、誰かが生きて戻ってきたときの涙は太陽ほどに熱かった。 「………それとも、士道不覚悟は、死ぬより辛いか」 最初から、何かを守ろうと思っていたわけではなかったように今では思う。 嘘つき。 いつもいつも、絶対守ると見苦しく喚いていたくせに。 「お前が天然理心流の道場目録だった、バラガキのトシのままだったら斬ってやったのに」 嘘つき。 もう一度全員で、酒でも飲もうと約束したくせに。 END 司馬遼太郎「燃えよ剣」 近藤さんの道場の助っ人に桂が来た事が合った話に妄想を掻き立てられて。 桂はバラガキのトシの頃の土方さんと横にやる気なくいた沖田も知ってます。 実は結構強い桂の話(そして、負ける土方さんの話)(ごめん) フォローといえば、土方さん戦場帰りで怪我してたり。 もう駄目だ。攘夷4が好きすぎる。 |