年も押し迫った日に行われた飲んだくれどもの宴から数えて三日目だっただろうか。
6股騒動に魂をすり減らす銀時を面白おかしく誘導していた服部全蔵のもとへ手紙が届いた。

三日目を皮きりに、数日おきに全て異なる差出人から手紙が届く。封書の柄も文面も全く統一性のないそれらの手紙に唯一共通することは、あの渦中の男の旧友 からだということだった。
差出人は三人、それぞれ間をおいて二通寄越した。全蔵は過去の仕事では幾度も見た豪華な名前が書かれた封書をくるくると回し、慎重に開いた。


<< 一通目 >>

拝啓 

師走の候、年末を迎え、何かとお忙しいことと存じます。
私は桂小太郎と申しまして、貴殿とは一度奉行所でお会いいたしました。突然の書付けをお送りする無礼をお許しください。
しかしながら風のうわさより、服部殿があの坂田銀時の結婚を世話されたと聞き及び、大変感銘を受けましたので、その感動をお伝えすべく筆を執った次第で す。
 
私は坂田銀時の古い友人でして、過去の数々の所業を存じ上げておりますれば、彼が身を固める決意をしたという知らせには純粋に驚きを感じます。
一度に6人との縁談ということですが、あのふらふらとどこかへ流れていってしまう男にはちょうど良いのかもしれません。
きっと奥方が彼の自堕落な部分を直し、立派な攘夷志士へと復帰させてくれるものと思います。
そして、そのきっかけを与えてくださった貴殿には感謝してもしきれません。

さて、その件につきまして貴殿には無礼を承知でお願いがございます。
銀時の奥方になる方々の住所、氏名、連絡先を是非お教えください。
お断りしておきますが、これは私が人妻にムラムラするからではなく、ひとえに友人の新婚生活がより幸福なものになるように陰ながらお手伝いをできたらと思 う心からでございます。
どうぞよろしくお願いいたします。

厳しい寒さが続きますが、どうぞご自愛ください。

敬具


攘夷党党首 桂小太郎

フリーター戦隊忍ファイブ 服部全蔵様

P.S なお長谷川さんの連絡先はいりません。お間違えなきようお願いいたします。



<< 二通目 >>

拝啓

霜気の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
恐らく服部殿は、現在この手紙を不審な思いで眺められていると存じます。突然のご無礼をお許しください。
簡単に私の紹介をいたしますと、私は高杉晋助と申しまして、鬼兵隊という部隊と共に攘夷活動を行っております。
そして、この手紙を書く理由となりました坂田銀時とは不可解な腐れ縁で結ばれた仲というところでしょうか。

さて、先日桂小太郎より、貴殿の取り成しにより坂田銀時が6人の嫁を娶る運びになったと知らされました。
我が友人ながらあの無責任、無鉄砲、甲斐性なし、無駄な独占欲等、結婚生活どころか色恋沙汰にも結び付かないような欠陥を抱えた男をもらいたい、という奇特な女 性を紹介した貴殿のご慧眼には感服いたしました。

このたびの結婚に関しまして、貴殿は今後も多くのご心労を抱えられるものと遠方の地より心配いたしております。そこで、私も友人として彼の力になれないか と考えましたところ、私にもできることがございました。

ご存知のとおり、銀時は稼ぎも悪ければ金遣いも荒いという駄目人間の典型です。ゆえに6人の妻を養うことは現状では到底かないますまい。
そこで、彼の能力を最大限に生かし、なおかつ十分な収入を得られる仕事を探しましたので、彼に伝えてはいただけないでしょうか。
条件は以下の通りです。

勤務先 鬼兵隊本船
仕事内容 攘夷活動の先陣を中心とした戦闘
待遇 6人を養える給金を保証の上、制服貸与、三食昼寝付、本人のみ住み込みも可、獲った首により特別手当給付、委細面談により決定
期間 死ぬまで

彼は素直に人の好意を受けられない性質ですので、抵抗するかと存じますが、なにとぞ服部殿の手腕をもって説得していただければ幸いです。 なお、あまりに抵抗がすぎるようであれば貴殿の判断で、捕獲・郵送していただいても差し支えありません。(ただし五体満足でお願いいたします)

また、この手紙の本旨とは無関係ですが、貴殿のお力にも非常に魅力を感じております。
もし同上の条件でご興味がおありでしたら、○○○―○○○○―○○○○までご連絡ください。
是非とも直接お会いして、お話させていただきたいと思います。

忙しない師走の折、どうぞご自愛ください。

敬具


鬼兵隊総督 高杉晋助

元御庭番筆頭 服部全蔵様

追伸 銀時に伝言をお願いいたします。馬鹿め、と。



<< 三通目 >>

拝啓

宇宙は相も変わらず混沌の星雲が広がっておりますが、地球では師走の頃と思います。
私は快援隊というカンパニーを経営しております坂本辰馬と申します。坂田金時君の大親友でもあります。
服部全蔵殿とはこれまでご交友がありませんでしたが、この手紙を機会にご縁ができれば幸いです。
我がカンパニーでは、全蔵殿がお悩みの痔の薬も多数取り揃えております。

さて、先日バカ杉君という友人より(恐らく彼からも手紙が到達しているかと思います)金時君の結婚を聞き及びました。その際に、全蔵殿がひとかたならぬご 尽力をされた旨も拝聴しました。
おめでたいことは何人何回でもいいものです。金時君に6人のお相手ができ、今後は子宝も授かるかと思うと旧友として感涙の念を覚えます。

私も何を置いてでも結婚式に出席したいのですが、あいにくと重要な取引が入っておりまして、私の融通の利かない副官が社長室から出してくれないので欠席せ ざるを得ません。
そのため、全蔵殿にお祝いを託したいと思います。どうぞ金時君にお渡しください。

内容は人数分の「Yes-N●枕」「吹っ飛べる薬(合法です)」「ローション」の1年分パックです。
やはり新婚の悩みおよび喧嘩の種は、夜の夫婦生活だと思います。特に金時君は、ムードのない口説き文句を言う上に、よく分からないタイミングでドSを発揮 するため、セックスをすると大変な男です。(なお、寝たのは僕ではありません。他の友人ですので、もし新婦からご相談を受けた場合には、そちらにご相談さ れるとよろしいかと存じます。連絡先は後日)
そのような金時君でも、枕があれば簡単に意思表示ができ、かつわが快援隊が特に仕入れました薬を使えば彼のテクニックでも気持ち良くなれることは間違いあ りません。ローションでも怪我を防げます。ゆえに円満な新婚生活が営めるものと思います。

それでは、そろそろ出航の時間が迫っておりますので、これにて失礼いたします。
全蔵殿のご健勝をお祈りいたします。


敬具

快援隊社長 坂本辰馬

服部全蔵様

P.S 申し訳ありませんが、金時君に個人的な伝言がございますのでお伝えください。居酒屋の厠プレイは勝手だが、万が一すまいるでおりょうちゃんに手を 出したらブッ殺す、と。





バラバラに届いた手紙を今一度まとめて読み直していた全蔵は、自分の頬を叱咤するように叩いた。
はっきり言って顔が言うことを聞かない。心の半分は腹を抱えて爆笑したい気持ちになり、長い影の生活で表情を出しにくくなった顔の筋肉も震えるほどだ。
更に四分の一は、かつては命をねらえと打診されかけた幕府にとっての要注意人物三人のネジの外れ方を目の当たりにし、なぜか空しさを覚えて落ち込んでい る。そして最後の四分の一は、標的であるはずの坂田への憐憫だった。

ごちゃごちゃに混ざった感情が頬をこわばらせ、その煩悶を打ち消す勢いで強烈なツッコミが脳裏を駆け巡る。
本当に日頃は坂田銀時という男は、全くろくでもない最悪の印象の侍だと思っていたが、この面子に囲まれていたならば人の話も聞かなくなるだろう。そう でなければ頭がおかしくなる。
だが、そうだと言ってドッキリを下りる気は毛頭ないが。

ゆえに、全蔵はストレス軽減として一番初めに浮かんだツッコミを夜中の二時に叫んだ。

「こいつら、誰も6人と結婚する奴のこと心配しねェェェェ!!!自分のことだけじゃねェかァァァァ!!!」

そして、近所内での己の名誉のために叫べなかった事柄についても心の底で叫んだ。

(つか、坂本さん、友人が寝たって何だよ……!!)




ドッキリの種明かしも無事に済み、銀時のこの世の者とは思えない崩れた顔を見れた二日後。次は同じ三人から申し合わせたように、同日速達で手紙が舞い込んだ。


<< 四通目 >>

前略

服部殿。簡略な手紙をお許しください。しかしながら事の顛末を知り、貴殿には早急に伝えねばならぬと筆を執りました。
一つ目は、マジグッジョブということです。いや、殺伐とした浮世でこれほど思いっきり笑ったのは久しぶりでした。奴にはそれくらいやってもよい薬でしょ う。日ごろの行いが物を言うのです。かくいう私もさんざんひどい目に―――いえ、止めておきましょう。

二つ目は、早く逃げてくださいということです。
銀時は間違いなく貴方だけに復讐します。絶対です、間違いありません、二十年来の友人が言うのだから間違いありません。
女性陣が主体ということですが、奴は無駄にチェリーなところもとい女子への距離の取り方が義理堅いところがありますので、口では文句を言いつつも復讐など 思いもつきません。
しかしながら、その分の鬱憤は間違いなく貴殿に向かいます。

恐らく貴殿のお力でも本気になった奴からは逃げられないと思いますので、被害を軽くするための助言をお送りします。押し倒されたら抵抗はやめて耐えてくだ さい。奴を喜ばせるだけです。

それでは、貴殿の安全をお祈りいたします。

草々

桂小太郎

服部全蔵殿



<< 五通目 >>


前略

服部全蔵殿。ご無沙汰しております。
事の顛末、再び桂より聞き及びました。いやはや、貴殿のその類まれなる勇気、酔狂さ、己の身を危険にさらしても平然とされる胆力、すべてに感服の至りで す。ぜひとも、わが鬼兵隊への入隊をご一考いただきたい。
ところで、貴殿は銀時の奇行のすべてを抑えた映像を作成なされたということですが、よろしければ是非一部の複製をいただきたいのです。笑うことは、心身を 健康に保つと言います。私どもは笑いなど何処かに置き忘れた身ではありますが、奴の哀れなもとい面白い姿には大笑いできるものと思います。

最後に、おそらく貴殿はある鬼に遭遇するものと思います。白く、激しく、化け物じみた力の夜叉です。
御庭番最強を謳われた貴殿ならば、その強烈なまでの殺気に魅せられてしまうかもしれませんが、一度距離を置き、逃げ出しておくのが賢明だと思います。

特に貴殿は痔を患られていると聞きましたので、せめてもの被害軽減策としてボラ●ノール一年分を別途お送りさせていただきます。

貴殿のご安全及び複製の安全願ってやみません。

草々

高杉晋助

服部全蔵殿



<< 六通目 >>

前略

服部殿。宇宙より最高速度の速達便でお送りしておりますが、間に合うでしょうか。
さて金時君の結婚の件はドッキリだったそうですね。僕は素敵なドッキリだと思います。何をするにも、大人は全力でやらなければなりません。
僕の会社のメンバーも大爆笑でしたし、この一報を入れてくれた友人も音声のみの通信でしたが声が震えていました(恐らく、笑いすぎた顔を見せたくなかった のでしょう)。さすが、元御庭番の筆頭と言われた服部殿です。僕もそのようなドッキリが仕掛けられるように精進しなければと思いました。

どうしてもこの感動をお伝えしたかったためお手紙をお送りしましたが、この辺で失礼いたします。
どうぞお元気で。地球に立ち寄った時には、ぜひ僕のおすすめのキャバクラで飲み明かしましょう。

草々

坂本辰馬

服部全蔵殿

P.S 怒った金時は手が付けられんから、早く逃げてね(哀)




「(哀)って、絶望的すぎること言うんじゃねェェェ!!!」

力任せに破り捨てた手紙が紙吹雪となって部屋に散った。その情景は氷点下の吹雪を思わせ、寒々しい。
彼らの手紙は人を心配しているようで、根本的な説明が抜け落ちている。要約すれば、「笑った笑った、あと頑張ってね」くらいの意味合いしか含まれていな い。攘夷志士の首魁や社長に上りつめるのだからそれなりに学もあるだろうに、この話の通じなさは何なのだろうか。

「というか、なんで俺が野郎に報復されるの決定なんだよ!その上、ヤられること決定ィ!??」

絶対にごめんこうむる。尻の貞操がどうのこうのという綺麗な人生は歩んではいないが、好き好んで行為に臨んだことは一度もない。仕事上の必要行為、それ以 外ではありえない。

全蔵は己の全身を駆け巡った怖気を自覚した。まずい。
あの男に犯されるのも最悪だが、万が一そんなことになれば自分は猿飛に殺される。その事実が最も心配な自分にもがっかりするが、彼女はこちらの事情など斟 酌しない。理解するのは「全蔵に銀さんを寝取られた」という理不尽な曲解を経た事実だけだ。

全蔵の行動は素早かった。
寒気が任務前の緊張に近しい「何か」に変わる頃には、ありったけの武器を抱えて気配を殺した。
既に門は破壊され、玄関を叩く音がする。乱暴にではなく、トントンと親しい友人が訪ねて来たかのように。


「ぜーんぞうくん。遊びましょー。皆の銀さんがやってきましたよー」


姿は見えずとも分かる。確かにあれは夜叉かもしれない。
忍仲間の中でもめったに味わえない静謐の気。煩い気は戦闘には邪魔だ。奴はそれを呼吸のように身に着け、こちらを狙う。

(好奇心、猫を殺すってか)

だが、好奇心のない猫など猫ではないのだ。


ひとまずは玄関に撒いた大量のローションが鬼を足止めし、転がしておいた6枚の手紙で気が削がれることを期待しつつ、全蔵はゆっくりと退路を進み始めた。


悪いな、白夜叉殿。
手癖の悪い猫は懲りないのさ。





拝啓 全蔵殿