ダイエットゴーゴー


「高杉ー。石鹸を取って来てくれ」
取ってきてくれるかなぁ、高杉だもんなぁと半信半疑ながら桂は高杉に声を掛けた。
午後八時。
夕飯前に風呂に入ろうと思って、服まで脱いでしまった所で石鹸が尽きていることに気がついたのだ。
本来なら高杉等に頼むのは愚の骨頂。だが、今日に限っていつもいりびたる残りの二人がいない。
タオルを巻いて出て行けば、ヅラキモイを連発されるに決まっているし、何もしなかったら次の日には露出狂だとか噂が江戸中に流れているだろう。

「あー。ヅラのくせに生意気なんだよ」

そう言いつつも、ドタドタと廊下を大またで歩いてくる音がする。
あ、珍しい。今日はこれからゲームするだけだが、ちょっといいことあるかもしれない。
そんな都合のよいことだけ考えながら、桂は日課としている体重計に乗った。


「………え」


酷く間抜けな声が口から漏れた。
嘘だ、嘘だ、信じられないというか信じてはいけない数字がそこにある。

「なんだよ、ヅラァ。いつのまにそんなデブったんだ?」
「ししししんすけっ!いいいつのまにィィ!!?」
動揺の余り、呼び名が幼少期のそれに戻った桂を見ても高杉は全く動揺しなかった。
冷静に、周りから大変評判の悪い笑顔で言った。

「何キロ増えたんだよ」
「………五キロ」
対する桂は消え入りそうな声。間違いなく、どんなに目を凝らしても昨日から五キロ増えている。
本当に恐ろしい想像に追い討ちを掛けるように、一番言ってほしくない事を言う高杉。


「一日で五キロなら、五十日後にはめでたく百キロは軽く越えるな。体型変わったら、指名手配されてても大手振って生活できるぜ。お め で と ー」


息を呑み、青くなった桂を風呂場に蹴りいれると、高杉は廊下に出た。



(あいつ…………つっくづく面白いなぁ……っ!)



そして静かに声を殺して爆笑しだした。







「ヅラー、今日は辰馬特性デリシャスハヤシライスぜよ!」
「………坂本、来ていたのか………」
「ヅラが風呂入ってすぐ来たぜ」

一時間後、心ここにあらず状態で風呂から出てきた桂を坂本とハヤシライスが迎えた。
ようやく商談が一段楽したのだと言う。疲れているであろうのに、即刻地球にやって来た理由の八割ほどは遊びたいという単純明快な理由が占める。坂本は疲れは遊びきって取るというタイプだ。
来た途端、夕飯をどうしようか冷蔵庫を漁っている高杉を見つけたので代わりに料理してやったと言う事らしい。ちなみに、他の用事はなんでも桂に押し付けている友人達であるが、料理だけは違う。
桂の作る料理が非常にまずいからだ。
そりゃ長い付き合いだ。不慮の事故が重なり食べなれているが、わざわざ豊富とは言いがたい金で購入した食物をそんな料理にすることは食材への冒涜である。
銀時と坂本は普通にこなすし、運悪く桂と二人になってしまった場合に備え、高杉ですらインスタントラーメンの作り方をマスターしたのだ。

(あー、なんか脂っぽいなぁ………)

というか、あんま太ったって感じはしないんだけど、坂本や銀時には知られたくない。
まあ、そんなことを思っていても高杉に知られたのだ。いくら考えたって時間の無駄。
さっき坂本が来た時に言わなかったのは、断じて桂への思いやりなどではなく(いや高杉の思いやりほど高くつくものもないけれど)そこで言ったら、坂本が気を使って和食になることが分かりきっていたからである。
高杉は今だけは絶対に言ってくれるな!と願うタイミングにぶちかます天才だ。

「ワシ、仕事中にたまってた花より男子の続き見たいきー」
「あ、ばっちり録画した。食いながら見ようぜ、俺ももう一回みたい」
手際よくサラダまで並べ、テレビをつけた二人を尻目に桂はばれないように溜息をついた。
まさか、せっかく作ってくれたものを残せるはずがない。(教訓、律儀な奴が苦労する)

「いただきます………」

せめてゆっくり噛んで食べよう。そうだ食わないダイエットは良くないって誰かが言ってた。

そう自分に言い聞かせる桂を高杉が面白そうに見ている。






次の日の夜。

(……………)

昨日の事を知らない銀時はひたすらに苛ついていた。
自分は真剣なんだ。明日までに、このタワーを攻略しなければならないというのに!

「ハッハッ………ハッ!」

ぴし、と額に青筋が立った。
何処からか新八が持ってきて万事屋で流行っているジェンガ。
仮にも家主として、ボロ負けでいいはずがあろうか!
だからこそ、坂本と高杉が夕食を作りに行った間に、桂の家に埋まっていたジェンガを掘り出し、こんなにも懸命に練習を積んでいる俺様の横で。
一瞬のぐらつきが命取りとなる状況下で。


「ヅラァ!お前、いい加減に走んのやめろよ!せめーんだよ!」
「うるさい!これは俺自身を賭けた戦いなんだ!」
「さっさと負けろォ!俺はジェンガやってんの!嫌がらせ?嫌がらせか?」


さっきから延々、狭い居間で動くベルト上を走り続ける桂を蹴る。
蹴ったつもりであったが、蹴られたのは哀れなマシーンで。
桂の声にならない悲鳴と共に、銀時の上に落ちてきたそれは、しっかりジェンガを崩した。


「…………ヅラ」
「…………なんだこの天パ」



「「上等だァァァアア!!!」」






「すげー、混沌としてる」
大層くだらない要因で勃発した銀時と桂の殴り合いを台所から見つつ、高杉が笑った。
「なぁ、辰馬」
「なんじゃー。ワシとしてはいつヅラがあの邪魔な機械をどかしてくれるのかしか興味ないぜよ」
邪魔な事この上ない。

「あ、今日風呂入ったら即刻廃棄だぜ?」
「…………おんし、まさか」


「俺が後ろから体重計踏んでも気がつかねーんだもんな。馬鹿、マジ馬鹿」


ケッケッケと笑いつつ、どっちが勝つか賭けないかと平気な顔で言ってくる。
一気に脱力した坂本へもう一言振りかかる。



「ヒマって、俺の天敵なわけ」



それなら自分達の平穏の天敵は間違いなくこの高杉であろうと坂本は思った。



                            (ふとした拍子に晋助って呼んでれば可愛いと思う)