忍足侑士と上手く付き合う方法(宍戸編)

あれは確か中ニの始めの方だったと思う。
忍足が関西から転校してきて少し経った時辺りだった。まあ、忍足と宍戸達が仲良くなるまでにはそれなりに大変な物語が数多く存在したが、それはまた別の話だ。

その時、宍戸と忍足は買出しに行っていた。まだ右も左もわからぬ一年に行かせるわけにもいかず、かといって先輩に行かせるわけにもいかない。暗黙のルールの中で行われたじゃんけんに、二人は見事に負けたわけである。
「忍足ー。今日の買出し、何だっけ?」
「ドリンク十本に頼まれたアイス類やな」
「激多いじゃねーか………めんどくさ」
「跡部に行かせるよりはるかにマシやん?……あ、今日はこっちの商店街の方が安いからこっち行くで」
「ああ(コイツ、詳しいな)」

宍戸は思いがけない忍足の一面に少し驚いたが、そういえば彼は中二の身で一人暮らしだったと思った。話によればテニスの為に飛び出してきたクチらしいから、いろいろやりくりが大変なのだろう。
「お前、買出しとか全部自分でやんの?」
「まあな。テニスも天才的やけど、家事もバッチリや。宍戸も今の時代、このくらい出来んと、もてへんよ」
「一応生きていけるくらいは出来るっつの。―――金勘定は苦手だけど」
あまり計算が得意とはいえない宍戸を知っているのか忍足は何もつっこむことはない。代わりに、大層重要な事を思い出したと手を打った。
「そうや、宍戸!今月ガット張り替えたら仕送りピンチなんや。ということで、お前俺の生活の為に少し貢献せえ」
「はぁ?言っとくけど俺、金ねーよ」
そんなことは跡部にでも言えと軽く流して、宍戸は商店街に向かう。
現代社会、中小企業は廃れがちと言われているが周辺の学校が売上に貢献しているのだろうか。なかなかの群集があった。広告を配る声がそれに溶け行く。

「わかっとらんなぁ………宍戸!」
心底バカにした動作で首をすくめた忍足が急に真剣な目になって前を見据える。当然のように驚いた宍戸に言い返す暇も与えず、忍足は宍戸を軽く突き飛ばした。
「ええか!俺から半径1メートル以上はなれてついて来い!」
「……ちょっ、てめ」

あんまりといえばあんまりのいいように思わず声を荒げた宍戸だが、テニスの時と同等以上の真剣さに負け、一応言われた通りにした。
「開店記念をお一人様一つお配りしております」
「あ、おおきにー」
間髪をいれず、バイトの女性が忍足に何かを渡した。普段の胡散臭さを拭った微笑みに少しだけ頬を染めてから、後ろをだらだら歩いていた宍戸に目を向けた。
同じように声をかけられた宍戸は少しどもる。仮にも思春期中学二年。バイトのお姉さんとなれば立派な女性に見える。
「あ…いや、」
思わず前方に助けを求めると、待っていたかのような忍足と目が合った。


(も ら え)


「……どーも」
これには逆らえない。むしろ逆らったらこの後、どんな制裁を食らうかわからないと判断しなんとか手を伸ばした。そして見てみれば、宍戸の手の中には一個のチョコボールの箱。
「忍足。狙いはこれかよ?」
「当たり前やん。こう言う所は二人で歩いてるとお一人様一つの奴は二人で一個しかもらえんのや。チョコボールをなめたらあかんで!朝の一品にはなるし、部活後の菓子にもなる。無料のものを最大に生かす!これが今の世の中生きていくための秘訣や!」
「………(いつか彼女にやって振られろ)寄付」
「ありがとさん。お礼に今日は俺が荷物持ったるわ」
「当然じゃん」


商店街での忍足侑士は、中年女性と同じ観点である。


                      (氷帝貧乏っ子二人。がっくんはこれの一番最初の被害者です)