「ったくよー、この俺様にあんなものを食わせるってのかよ。まだ忍足の炭水化物の方がましだったぜ」 「忍足くんって、料理できるの?」 「庶民だからな。アイツのたこ焼きとお好み焼きはなかなかだ」 ジュニア選抜合宿の夜である。 何の因果か、普段部活にいる面子とクラスメイトの次ぐらいに見飽きた顔である4人は、ルームメイトとして顔を付き合わせていた。真田、柳の立海組。夕食の味が気に入らなかったようで文句の耐えない跡部。不意に登場した忍足料理――それも跡部にこれだけいわせるからにはなかなかだと思われる――まで律儀に話を聞くのは千石。 ちなみにこの日は4人が4人とも朝練に出てからバスに乗り込むという偉業を成し遂げている。 それなりに眠さも回るはずなのだが、そこは中学二年と言うべきか。消灯時間に五月蝿そうな真田ですら、何も言い出さなかった。無理やり寝ようとしても苛ついて次の日に影響が出るのがわかりきっているからだった。 「でもあんまりおいしくなかったよねー。俺、こう言うところのご飯って絶対バイキングだと思ってすっげー楽しみにしてきたのに」 「千石、暴飲暴食はいけないな」 「あーい。で、柳くんと真田くんはどうだった?ご飯」 冷静に意見を述べた柳と無言で2人の無駄話を聞いていた真田が会話に加わる。 「粗食は健康の元だぞ、跡部、千石」 「アーン?俺様は逆にああいうのばかり食ってると体調が悪くなるんだよ」 「跡部!出されたものに文句をいうとはたるんどる!」 「たるんでねーよ。たるんでるのはお前の腹じゃねーの、真田よ?」 聞いていた千石と柳はどうしてこいつはこんなにも真田を怒らせるのが天才的なのだろうかとぼんやりと考えていた。 柳が無言で自分の荷物を広い部屋の――最悪な事に広かった部屋の――隅に避難させた。 千石はと言えば、にこにこと跡部に近づきこう言う。 「跡部くん跡部くん、はい」 笑顔を崩さぬまま、千石が差し出したそれを見て跡部が物騒に笑った。 毎日顔を突き合わせている部活仲間ならわかったであろう、あれは先頭一秒前の笑顔だと。 「――フン、ありがとよ……っと!」 「なっ!」 ターゲットから視線を外さぬまま、枕を受け取り跡部は素早くそれを投じた。これも前回の合宿で宍戸や忍足、向日といった馬鹿どもと死闘を演じた成果であろう。 間一髪でかわした真田が猛然と講義をする前にうっすらと笑みを浮かべた柳が肩を叩く。 「弦一郎、男ならばこれで勝負するものだぞ」 「うむ、すまない蓮司。――覚悟、跡部!」 裂帛の気合で投じられた真田の一撃を跡部は軽く避けたものの、完全にその目は据わっていた。 「………勝負だ、真田」 「うけてたとう」 昼間の2人を知るものならば、一体どうした事かと思うに違いない事だが、なんのことはない。 2人の馬鹿さ加減は大して変わらないということに気がつけばいいだけの話だ。 真田VS跡部の世紀の枕投げ大戦を観察していた千石と柳が同時に枕を一つずつ拾う。 「………参加するでしょ?」 「負けはいけないからな」 「俺、最初は真田くんに投げたい」 ニヤニヤと笑ったままの千石の台詞には答えず、柳はまっすぐに跡部のほうに視線をやった。相手が気がつく様子は全く見うけられない。その了解の証を見た千石が真田の方に向き直った。 「せーの!」 突如聞こえた叫びに戦闘中の2人が振り向いた瞬間、枕と言うプレゼントが彼らの顔面に直撃した。 その後、延延続けられた(無論、全員が負けず嫌いだったためだ)枕投げは、コーチ陣に見つかり全員が廊下に一時間正座させられるまで続いた。ちなみに、絶対に眠れないと思っていた4人であったが正座をすると気を引き締めてしまう真田を除いては廊下で爆睡したということである。 (二年次Jr選抜馬鹿4人/醍醐味は枕投げ!) |