「そーいや侑士、日本史赤点らしーぜ」 たいして興味もなさそうに呟いた向日の言葉に、宍戸が眉を釣り上げた。 彼は化学で頭が痛い夜中に、彼の日本史の為のヤマを張っていたからである。 「実力出せば出来るだろーに、嫌味だよな!」 「おう」 (ま、今回の日本史は仕方ないよな。俺だって23点だし) 赤点+2点の男は懸命にも自分の点数はばらさない。 ちなみに彼の相方は12点という素晴らしい点数を叩き出している。理由は明確。 「今ごろ、笠幡に呼び出し食らってるぜ。この前は、“お前みたいに人生なめてる奴はろくな人間にならない!”って言われて侑士の奴“俺は先生と違い、努力の天才ですから大丈夫です”って言って補修プリント食らってた」 「俺、忍足が既に忘れてて更に喧嘩売る方に500円張る」 向日は賭けになんねーよと文句をいう。 だらりと前の机に足を乗せたままの宍戸に、新たな話題が振られた。 「んなこと言ったって、宍戸だって化学赤点だったんだろ?」 「まーな、あれは不可能」 悪びれもなく言う宍戸を見て、向日はコイツは滝による何も聞いていない人用初心者講座を受けていたはずであり結果が出なかった場合、教師が恐ろしく怒る事は予想したが口には出さない。追いかけられてからでも遅くはあるまい。 「俺も言ったんだからお前も教えろ!……あ、化学は10点で数学βも赤だった」 頭の中で自分の赤点の数と同じであった事を安堵し、総合的には大して変わらないであろう事に落ち込む。 「俺も数学β赤。すげぇぜ、一桁!あれ、もう数字じゃねーし。後物理。後、5点だったのに!」 「俺、以外に物理出来てたぜ。跡部のヤローが50切ったら笑うって言ったからな」 「跡部は駄目で滝はいいのかよ。殺されるぜ?」 「………」 跡部、そういえばと向日は半ば独り言のように呟いた。 そして悪魔のように笑う。そうだ、目の前の男にもこの旬なネタを教えてやらなければ。 「俺さー、ぜってぇ機嫌悪くなって帰ってくる侑士を爆笑させてやる素晴らしいネタ知ってるんだけど聞く?」 「早く言えっつの!」 「……よく聞けよ」 ブッ 聞いた途端、期待を裏切ることなく噴出した宍戸を横目に見ながら向日は思う。 (俺らも十分馬鹿だけど、生きてく上ではもうちょっと賢くてよかった) 宍戸はしばらく震えていたが、とうとう耐え切れなくなり爆笑する。 その時、ちょうど教室の外にいた忍足は、何処の馬鹿が喚いているのだろうと思ったら知り合いであったと後に語る。 「……なにしとんねん、廊下にまで響き渡っとるで」 その声は傍目にもわかるほど機嫌が悪かった。 しかし、3年間の年月をともに過ごした者にとってはなにほどのものではない。 2人は放課後、ある程度の生徒が残っているであろう校舎全体に響き渡るような声で叫ぶ。 無論、「傷心の侑士くんのためにと前置きを置いて」 「「テニス部部長跡部景吾は、今回の家庭科で“掃除は自分でやるものではない。家政婦がやるものだ”って書いて赤点をくらった――――!!」」 次の瞬間、忍足も先ほどの呼び出しを忘れ噴出すと、軽やかな笑いが辺りに満ちた。 (氷帝/テスト考察/宍戸、向日、忍足) |