攘夷派四人の日常茶飯事


14、歯磨き

「オイ、天パァァァ!!」

朝から近所迷惑極まりない声に、食卓を囲んでいた万事屋三人が顔を上げた。自分たちのほかに、今この家にいるのは一人しかいない。でも、こんなにテンションの高い男だっただろうか。

「うるせぇちま男!それから高杉、テメェ教育上悪いから、ここではもうちっときっちり着物着ろ!猥褻物陳列罪で通報するぞ、コノヤロー」
たった一言の叫びにこれだけ返せるのはたいしたものだ、と茶をすすりながら新八と神楽は同時に思った。所詮類友。馬鹿で人の話を聞かない者の友達は、馬鹿で人の話を聞かない。
高杉も負けずに言い返す。
「ヅラかてめぇは!ハゲるぞ!銀髪天パのズラ探すのは骨が折れるぜェ?というか、テメーなんて歯磨き粉使ってやがるんだ!?」
「……は?」

バン、と高杉は手にしていたものを床にたたき付けた。
転がったのは、いちごパフェ味の歯磨き粉。銀時の強い主張により、万事屋にはこの味しか置かれていない。

高杉が喚いた。
「侍がこんなクソ甘ったるいモン使ってんじゃねェ!口の中が甘ったるくて、昨日の酒が台無しじゃねェか!!」
「馬鹿杉!嫌ならちゃんと確認しろ!というか、ここは俺の家で俺が法律だ!」
「家賃払ってガキどもに肉食わせてから言え!」
「現役テロリストよりマシですぅ。大体高杉オメー、いきなり押しかけてきて態度でかいんですけどー」
「んだと!?」





そんなアホらしいやり取りから数時間後。
不敵な笑顔(ろくなことが起こらない前兆)で帰還した高杉の部屋を覗く影が二つ。

「………晋助様。何やってるんスか」
とまた子がつぶやけば、万斉が答える。
「拙者には、歯磨き粉を全部出しているように見えたでござる」
「あ、スポイト出したっスね」

また子と万斉は顔を見合わせて頷きあった。見なかったことにしようと。
あの高杉が、スポイトまで使って完璧に歯磨き粉の中身を摩り替えている光景など見ていない、と。





そしてその夜。

「ギャァァァアア―――!!!」
万事屋に絶叫が響いた。


「どうしたんですか、銀さん!?」
「銀ちゃん、大丈夫!?」

何事だと駆けつけた二人が見たものは、必死に口をすすぐ家主の姿。
その顔は半泣き。


「……いちごパフェ味が………激辛ミントに…っ!」


あ、くだらなかった。二人は酷く損をした気分になった。



「こんなことをする奴は……高杉ィィ――!!!泣かす、絶対泣かしてやる!!!」



そして、三十秒後には家を飛び出していった。友達は選ぼう、そう新八と神楽は頷きあった。



  (悪巧みには労力を惜しまない男・高杉。自分が恨まれていることすら忘れる男・銀時。お互い様)