攘夷派4人の日常茶飯事 

40、スクーター

高杉と桂が正座していた。
「………」
「………ない、ないないよアレは」
新八と神楽はそう頷き合って襖を閉めた。ありえない。
銀時の悪友兼幼馴染にして、全国絶賛現在進行指名手配犯、万事屋に入り浸り厄介事しか持ち込まない挙句、人の話を聞かない馬鹿といういらないオプションを常設した傲岸不遜なあの二人が、神妙に正座をしているなど。しかも、彼らの被害者にしていい具合に加害者でもある銀時に向かって。
ありえない。何度でも言える。ありえない。だが、ありえたら面白すぎる。

そしてもう一度襖を開ける。

「新ちゃん、神楽ちゃんおかえり〜。ところで今からこいつら始末するから、遊びに行って来なさい」
教育上良くないから。と凄みのある表情で銀時が笑っている。その足元にはやっぱり高杉と桂が正座していた。

本来なら大爆笑すべき場面なのだが、いかんせん家主の顔が怖すぎた。死んだ魚のような目が爛々と輝いている。
「待たんか、銀時!こう、あれだ、始末とかそういう汚い言葉を使うのが教育によくないぞ!」
情けない格好のまま、危険を察知した桂が反論する。その額には冷や汗。
このまま二人に出て行かれては命が危ないので、切実だ。
「今日は使っても、以後使わなきゃいいだろーが。物事は長い目で見ろ、馬鹿ヅラ」
「銀時、落ち着け!お前は、全てにおいて先を考えないば…刹那的な生き方をしてきたじゃないか!」
「お前、考えてること駄々漏れなんですけど」
「そうだぜェ、銀時。ヅラを殺して白夜叉が蘇るなら文句はないが、俺は止めとけ。人気者だからな」
「高杉ィィィ―――!!なにが、そうだぜ、だ!全然ずれまくりだろうが!人気者なのは、警察と天人にだろうがァァ!!しかも、幼少の頃からの大切な幼馴染を生贄にするとは何たることだ!そこに座れ!」
「もう座ってる。よく考えろ、ヅラ。大切だからこそだ。お前、尊い犠牲とか好きだろォ?」
「好きくない!いや、貴様が尊い犠牲になるのは好きだぞ。よく思い出せ、高杉。昔からそういうのはお前の役目だ!」
「テメーだ!」
「貴様だ!」
「テメー「しつけぇんだよ、コントで逃げようたってそうはいかねェぞ!!!」

ゴッ。ゴッ。

さりげなく正座のまま後ずさっていた二人の頭上に、容赦なく木刀が振り下ろされた。
咄嗟にガードしたが、ダメージは大きかったらしく、静かになったところでようやく神楽が口を開いた。

「……で、何かあったアルか」





事の発端は三日前、銀時のスクーターが行方不明になったことにあった。スーパーの前に駐車したら消えたのだ。だが、愛車は小一時間ほどで万事屋前に戻ってきていたので、気にも留めなかったのがよくなかった。

翌日。銀時は道端で土方に声をかけられ、遠まわしに尋問された。
曰く「桂のヤローが、テメーのスクーターに乗って逃げやがった。どーいうことだ?」
指名手配のくせに堂々と顔を晒して歩く馬鹿が、追われて勝手に拝借したということらしい。


自分は窃盗の被害にあっただけ、むしろお前ら仕事しろと文句をつけて逃れたさらに次の日。
今度は問答無用で真撰組の屯所に連行された。土方曰く「今日は、高杉の野郎がテメーのスクーターに乗って爆弾投げてきやがった。まさか2日続けて盗難とは言わねェよな。仲間なんだろ?」
いや、自分でも冷静にこの状態を見ればそう思うだろうが、何が哀しくてあの馬鹿二人のためにこんな目に合わなければならないのだろう。大体桂だって逃げようと思えば他の手段で十分逃げられただろうし、高杉にいたっては(ムカつくが)バイクの一つや二つすぐに買える金は持っている。
その上で自分のスクーターをわざわざ使ったのは挑戦以外の何者でもない。

「……というわけだ。銀さんの平穏な日々を守るため、始末するから出て行くよな?」
「いやいやいや、銀時あれだぞ、友人というものの大切さは日頃は分からぬものだ!俺達がいなくなったら、夜毎寂しくて泣いちゃうぞ!」
気力を振り絞って桂が叫ぶ。
「いや、単に清々すると思うよ」
銀時の目は氷のように冷たい。
「いやいやいや、本当に他意はねェんだ。たまたま、偶然、そこにあったスクーターを借りたら、銀時のだったみたいな」
「銀って書いてあるから」
だらだらと冷や汗を流しながら、銀時に見えないように高杉と桂は、互いを銀時のほうに押しやろうとしている。何より、言い訳をしてはいるものの、「白夜叉奪還作戦」もちょっと考えなかったわけではないのがよくない。

「……銀さん、ちょっと買い物をしわすれたんでもう一度スーパーに行ってきます」
「私も行くアル」
情状酌量の余地なし、銀時が正しい。そう判断を下した新八がはっきりと断言した。
スクーターは自分達にとっても商売道具だ。それを指名手配犯に利用されていいはずない。
「「ちょっと待てェェェ―――!いや、待ってくださいィィ――!!」」
更に濃厚になった命の危険に、高杉と桂は仲良く叫んだが、他の3人はそれを故意に無視した。
「おう、そうか行って来い。夕飯には帰ってきていいからな」
「明日はお客さん来るんですから、片して下さいよ」
「ラブリーズも忘れちゃだめアル!」
「あいよ」
足に縋りつきかねない駄目な大人をかわし、救世主はあっさりと消えた。
そして、違う時に会いたかった白夜叉が、これ以上なく甘く笑う。


「さて、どうされたい?」



                            (でも、高杉と桂は懲りない。幼馴染、永遠の闘い)