あの頃のこと 「おいおい、銀時ィ。まだかぁ?」 石造のように固まったまま動きを見せない対戦相手を早く動かそうと、高杉が挑発する。 心の底から、お前頭悪いなという心象を滲み出た嗤いの表情が出た。 「―――うるせえよ!スポーツマンシップに乗っ取って静かにしてろ」 「スポーツじゃねぇし?どんなに考えようが、てめーのパー頭じゃ無理無理」 「ばっ、頭がパーなんじゃなくて、髪がパーマなんだよ!ヅラァ、なんかアイディアだせって」 「てめーとヅラじゃ馬鹿具合はいい勝負だろ」 高杉の何気なく的をいた突っ込みに嫌な沈黙が訪れた。 もともと将棋のような頭脳ゲームにはある種の才能が必要とされる。相手の手を読み、裏をかき…など緻密で巧妙な計算をする能力。そして何より、作戦を実行するまで待つ忍耐力。 つまり、行き当たりばったりな性格で単純な人間は向いていないわけである。 「………馬鹿だろうがなぁ、1たす1は2なんだよ。なめんなよ!」 「その間は何だ。大体お前がどうしても俺の力を借りたいと言うから、考えてやったと言うのに」 「お前が頭悪いんだよ!ヅラが邪魔で、思考が妨害される!」 「なんだと。お前の頭が悪いからパーな毛が生えるんだ!」 「よーし、上等だ、表でろ!」 「俺の不戦勝だな」 憤然と二人が立ち上がりかけた時、冷静な声がかかる。 にやにやと嫌な笑い方の高杉を見てようやく状況を思い出す。今日は妓楼での遊び代をかけて勝負をしていたのだ。どうせ今はいないが、その時になったらちゃっかりと坂本まで参加してくるに決まっている。 「なんじゃー、まだ終わっとらんのかー」 そこに丁度、坂本が戻ってくる。言外に銀時とヅラ如きに手間取ってるなという大変失礼な思考が篭められていたりするが、苦笑で応対したのは高杉だけだった。 若干二名の視線が坂本が持つ盆に注がれる。蜜柑がてんこ盛りに積まれていた。 「どうじゃ、これでも食べて頭、」 冷やしい、まで言えなかった。 「ウラァァァ!」 銀時がそろりそろりと坂本の足元に近づき、思いっきり足を払ったからだ。 油断していた時に、この攻撃。耐え切れるはずもなく、坂本は倒れ、綺麗に延長線上にあった将棋の駒に蜜柑が降り注いだ。 「あー、これはしまった。不慮の事故で勝負が分からなくなってしまったぞ」 桂の棒読みなセリフと共に、再びの静寂。 ―――三秒後、乱闘開始。 (銀魂/攘夷四人組/馬鹿は馬鹿らしく仲良しでいればいい) |