残 
四章 

三、


紺色に若干朱色を溶かし込んだように空は流れる。
すぐそこには人里があるが、裏山の中腹に立っているとそれも全く聞こえない。夜色にほぼ存在を同化させた人影は微動だにせず、辺りのざわめきに全神経を集中していた。
目は閉じられ、低く殺した呼吸だけが山稜を這う。
ふと、闇の重みが増した。次の刹那には霧散していたが、人影は迷いの欠片も見せず動いた。

影の手が素早く動き、夜闇を白い目が透かし見る。



ピィィ――――



静謐を細く切り裂く、口笛の音を聞いた瞬間、ヒナタは白銀に輝く剣を引き抜く。
闇を無規則に交叉しながら影は駆ける。
視界に明瞭に映るそれからの間合いを見切り、ヒナタが地を蹴った次の瞬間、静謐は断末魔によってかき消され、銀色は暗褐色の液体により鮮やかさを失った。

妖魔討伐完了。
返り血に濡れながら、ヒナタは合図の口笛を吹く。




孤国東部海岸線箔州。箔州のうちで最も内陸に位置する村。
日向ヒナタと数名の男達がいる山はつまりはそういう場所である。
次の昇山まで残り二月ほど。自らの籍を置く夏が存亡の危機にありながら、彼等がわざわざ他国の――それも時を同じくして王のない孤に妖魔討伐に来たのはそれなりの理由があった。

理由は一つしかない。冬器の確保だ。
国内にないのはもちろんのこと、他国で手に入れようにも金がない。中にはナルトのように伝で拝借できる者もいるが、それだけでは到底まかなえないのは必須だった。
ヒナタの役割は他国の冬器を村の宝としている場所に赴き、それを拝借すること。
無論、相手側も夏に同情はするだろうが、見返りがなければ高価な冬器を貸しはしまい。
そこで、代償として依頼される妖魔討伐を行う。そうして、既に彼女はかなりの成果を上げていた。

夏には最低限朝廷を押さえるサスケだけを残して、ナルト、サクラ、ヒナタはそれぞれ部下を引き連れて方々に散っている。
少しでもナルト君の役に立ちたい……。それはナルトの心に気づかないサクラに対する嫉妬にも似た競争心であるのか、ただ何かをやっていないと押さえられない不安なのかはわからない。
わからないといえども、もともとはこれがヒナタの生き方だ。
幸運にも異世界でもやり方さえ知っていれば、白眼は使える。
皮肉にも、向こうからの逃亡を望んだ彼女は、向こうの忍時代よりも強力な戦闘要員として力を発揮していた。


「ヒナタ……なんだか、村の方がおかしくないか?」
合図を出していたナルトの部下――同僚が戻ってきていた。
ばらばらと集まりながら、それぞれが村の方を指差す。

「確かに、おかしい………」




王のいない国の辺境の村。
宿場町であったのだろうが、先ほどまでは孤独を打ち消すように明かりが灯っていただけだった。
だが、今はどうだ?


明かりは煌々と照り、歓喜の叫びが村を飲み込んでいる。




一体何が………?