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37    20080706『手乗りシャーマン』

 
手乗りシャーマン
 
 
 
M4中戦車、愛称シャーマン。
生まれたのは1941年。
第二次世界大戦で、最も多く量産されたアメリカ戦車。
作りも作ったり4万9234両とか。ほとんど五万。
「○○は五万とあるぜ」と言えば“無尽蔵にある”の意味だから、
とってもたくさん、そこらじゅうにある戦車だったことでしょう。
 
だって想像してみて下さい。
目の前に五百両の戦車が整列しているとしましょう。
五百両……
そりゃもう、見渡す限りタンクタンクのタンクづくし。戦車しか見えません。
そして五万といえば、この百倍!
「犬も歩けばシャーマンに当たる……」
第二次大戦の陸上戦、とくにDデイ後のヨーロッパ戦線で、
ドイツの陸兵は、そうぼやいたことと思われます。
 
往年の戦争映画『パットン大戦車軍団』(1969)では、
60年代の小型戦車が代役を務めていたとはいえ、
もうゴキブリなみにうじゃうじゃ画面を走り回って
質より量で勝つ戦争の姿を、くっきりと印象づけてくれました。
 
とはいえ世界に冠たる戦車帝国はやっぱりドイツ。
一対一の戦いになると、ドイツのタイガー戦車にかなうはずもなく、
いいカモにされていた実態が、映画『戦略大作戦』(1970)にうかがえます。
 
『戦略大作戦』では、主人公のアメリカ側メカとして、
貴重なモノホンのシャーマンが出演していましたが、
主砲砲身に鉄パイプを巻くことで、トンデモ強力な大口径長砲身に見せ掛けたり、
かたや喇叭形スピーカーから『線路は続くよどこまでも』を大音量で流すなど、
見栄と威嚇のゴマカシ戦法をとるしかない、
ちょっとコミカルな役回りとなっています。
 
ドイツの無敵タイガー戦車に手を出しては、バカスカ打たれて、
やられ役専門になってしまったシャーマンですが、
よく見ると、けっこうかわいい。
エンジンの関係で車体が高く、ころころしたシルエット。
タンク界のリアル・チョロQとでも申しましょうか。
模型も国際規格72分の1くらいだと、ちょうどいい手乗りサイズです。
 
なにぶん五万と作られたので、
シャーマン一族のバリエーションも数多く、
戦後にイスラエルがマッドサイエンティスト的に改造して使った
巨砲搭載のアイシャーマンやスーパーシャーマンもありますが、
私が好きなのは、このファイアフライ。
“蛍”という源氏名も優雅ですが、
やはりその魅力は、この細長い主砲でしょう。
 
英国製17ポンド対戦車砲。
シャーマンの天敵タイガー戦車を屠る貫通力を持った、
このロングでヘビーな巨砲を無理矢理に搭載し、
ゲルマンの虎に叩かれ続けた積年の恨みを晴らすべく、
スカッと一発逆転を狙うバクチ的戦車でありました。
 
たしかに巨砲の威力は凄まじく、虎を一発で仕留めたようでありますが、
やっぱりバクチ戦車。車体の防御装甲は普通のシャーマンのままですから、
反撃をモロに食らえばこっちも吹き飛ぶという、心細い実情だったのです。
輝いては消えゆく“蛍”のような、はかなげなその姿。
もちろんドイツ側は砲身の長いファイアフライを指名手配し、優先的に狙います。
 
最初から狙い撃ちにされたら、たまったものではないファイアフライ。
背に腹は代えられず、主砲の砲口から三分の一ほどを違った色に塗装変えして、
砲身の長さを短く見せ、その他大勢のシャーマンと見分けがつかなくするという
奇策に走ります。写真の模型もそうですね。
最初は後ろのシャーマンたちに紛れていて、前のシャーマンをエサに差し出し、
そこでドイツのタイガー戦車が油断して出てくると、
突如正体を現してズダンと一撃、虎をだまし討ちにする狡猾さ。
さすが、永年のキツネ狩りで培った、英国貴族的したたかさというべきでしょうか
 
ズルイと言っちゃあズルイけど、
オレ様は強いぞ重いぞでっかいぞ、と威張りまくる横綱タイガーに対して、
マスプロの小結シャーマンが対抗するには、それもやむなしの一手だったのでしょう。
「出るクイは打たれる」という世知辛い格差社会にあって、
優れた能力があっても目立たせずに、大衆に紛れて生き、
ここというとき、圧倒的に強い相手にバクチ的勝負を挑むしかないという、
現代の戦闘的庶民の姿を見るかのようです。
 
そんな、弱さとツッパリのないまぜになったファイアフライに
いかにもホタル的美学を感じたりもするのですが。
 
 
もひとつモノホン・シャーマンが並んで出てくる映画で
『遠すぎた橋』(1977)というのがありました。
作品の内容も秀逸にして、もう超巨大スペクタクル反戦映画。
CGなしで、どうやって撮ったんだ? と目を疑うような
無数の落下傘降下シーンなど、リアリズム満載です。
 
そこで列をなす、モノホン・シャーマン。
まあ遠景は実物大ダミーだったということですが、
手前の数台はまさに実物。
きっちりモノホンを拝める最後の大作だったといえるでしょう。
 
そこに登場していたシャーマンに、
ファイアフライの姿もありました。
残念ながら、ドイツ戦車とガチンコ勝負の場面はなかったのですが。
 
またニッポンの映画でも、おもにミニチュア模型の代役とはいえ、
初期のゴジラ映画で本土防衛に挺身し、
やっぱりぺちゃんこに踏み潰されていたシャーマンですが、
朝鮮戦争で奮闘した車体の相当数は、東京タワーの鉄骨に姿を変えました。
実戦で犠牲になった人々の御霊とともに、まさにシャーマンとなって、
東京タワーを霊的に守護し続けてくれるでしょうか……
 
 
さてはて、このページの写真にカーソルを置くと、もうひとつの姿が。
こうすると、あら不思議、コミック『鋼鉄の少女たち』の主要タンク
“狼戦車”を思わせる精悍なフォルムに変身!
 
ふと思うのですが、戦後、中古シャーマンを闇入手してあの手この手で改造し、
あげく、マニアックなメルカバ戦車を生み出すに至ったイスラエルですが、
フロントエンジンのメルカバを開発する前に、きっとこうやって、
だれかがシャーマンをバックで走らせてみて、
「お、イケるんじゃないか」と発想したのではないかと……
 
 
タンク界の人気の頂点はやはりドイツ戦車ですが、
戦中戦後に世界に散らばっていった、五万のシャーマンの
それぞれのドラマにも、数奇なものがありそうです。
 
 
 
更新日時:
2008/07/06

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Last updated: 2010/1/11

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